第19話
明日の天気を確認すると、この地域に降雨の予報はない。
一日中、曇天、という感じだ。
だがそれは、いつ雨が降ってもおかしくないということでもある。
「ある情報筋によると、明日の花火は延期って話でさ」
今度は内海さんがスマホの画面が見えるように僕らの前に差し出した。
速報ニュースだ。
『〈速報〉花火大会、台風接近で延期決定』
大きな見出しの下には、『今週13日 → 来週へ順延 市が発表』と続いている。
「さすが、情報通だね」
内海さんの言葉に、裕真が苦い笑顔を浮かべた。
「岩本に連絡してたときに、たまたま入ってきたの」
「はいはい」
少し冷えた内海さんの返事に僕は愛想笑いで返しつつ、裕真が提案してきたルートを思い浮かべる。
同時に浮かんだのは、あのブレスレットだ。
まるで僕を見ようと近づいたあの怪異が、まさかとは思う。
いや、きっと似ているだけだ。
それでも……
「あのさ、ショッピングモールの、あの通路だけど、本当に行くの……?」
時刻は気づけば11時。
モーニングの時間は終わり、ランチタイムに入っていた。
裕真はメニュー表を眺めて、顔を上げる。満面の笑みだ。
「ヒマちゃんがさ、めっちゃ乗り気なんだ! 明日もどうにか時間作るっていってたし。多分、OGのいそうなところも見に行くことになると思うんだけど」
裕真は半分氷水になったメロンソーダを一気に啜って、ウインクする。
今日はファンサが多い日のようだ。
全くドキドキしないまま裕真を見つめていると、裕真がふふんと鼻を鳴らす。
「実はさ、ヒマちゃん、あそこの通路の人、視えるっぽいんだ」
裕真はメニュー表を取り上げると、くるりとまわして、僕と内海さんのあいだに滑り置いた。
「何か食べようよー。そそ、それこそさ、ヒマちゃんも観測者側じゃないかって、張り切っててさー。昨日、たまたま近くを通ったら視たって。めっちゃびっくりじゃない?」
言葉が出てこない。
いや、陽真里さんが観測者でもおかしくはない。
しかし、観測者じゃなかったら?
それが過去、あるいは、未来の自分だったら?
失踪する確率があるってことじゃないのか?
何より、クラスの人が失踪してるんだ。
もっと焦ったり、考えたりしないといけないんじゃないのか……?
「水野くん、何、食べる? ……やっぱり、思う?」
内海さんの声に、僕は同調した。
「そのさ、もしかしたら、未来か、過去かの自分を観測すると、失踪する可能性があるわけでしょ? 現に、クラスの2人の行方がわかってないわけだし。その通路の人、そういう可能性はないの?」
「確かにねー」
裕真は顎をつまんで、考えるフリをする。
「でもさー、特にクラスの男子のは、家出もあるしね」
「なんで?」
内海さんの問いに、声のトーンを下げる。
「実はさー、この2人、ちょっと素行の部分で問題あってさ。他校の女子の話聞いたことない? テストの順位も下の方だし」
「「ふーん」」
僕と、内海さんの声が重なった。
お互いに興味がない、という返事だ。
「……マジで二人、こういうの疎いよね」
「疎いんじゃなく、興味ないの」
僕が訂正するが、裕真は口をへの字に結ぶ。
「こういうの、情報あるとないとじゃ、全然違ってくるんだよー?」
「はいはい」
内海さんは、この話はここまでというように、メニュー表を閉じた。
「確かにあの動画では足元と声しかわからなかったし、言ってることが嘘かもしれない。ネタ的なやつね。でも本当かもしれない。ただ、吾妻さんはちがう」
内海さんは手を伸ばし、店員の呼び出しボタンを押した。
「きっと巻き戻って、こっちの線に戻ってこれていないんだとしたら、あの階段に行けば、幼い吾妻さんと大人の吾妻さんが重なってるんじゃないかと思うんだ。今も、あの階段で待ってるよ、絶対。……会いたいよね」
僕を見ないで言い切ったすぐに、
「お呼びでしょうかー?」
オーダーを取りに、店員さんがやってきた。
「え、ちょ、僕まだ決まってないんだけど!?」
2人が何かと細かな注文をしている間にメニューをなんとか決めた。
決めたけれど、どこか、納得できないでいた。
食べたいメニューにも、2人の気持ちにも。




