2025年上半期
2025年も6ヶ月が終了し、これは2025年上半期が終了したことを示す。この稿では「半期ボーカロイド(2025年上半期)」と題し、2025年1~6月のボカロシーンの主要な動きを振り返り、下半期への展望を論じる。
まずは25年上半期の目玉イベントと位置付けられていた劇場版プロセカを振り返ろう。これはボカロの話であるから実際の映画の興行収入などボカロにあまり関係ないところに関しては論じないが、劇場版プロセカには多くのボカロ曲が提供されボカロシーンを大きく動かした。DECO*27はすべてのユニットに1曲ずつ提供したうえに挿入歌まで作るとかいう偉業を成し遂げ、ファイアダンスはおそらくニコニコで1年以内伝説入りを達成するだろう。また、じんはED「Worlders」で存在感を示し、他にも多くのPが劇場版プロセカに関わった。23年後半から24年前半までが主要期間だったポケミクに比べると全体的に強さはないがそれでも多くの名曲を生み出し、またミクにとどまらずクリプトン系をふんだんに使ったことは評価されるはずである。そしてポケミクに続いてDECO*27とじんが安定感を示し、ミクシーンを引っ張る大御所のイメージを確立させつつある。
とはいえ、25年上半期は文句なくDECO*27の何度目かの覇権が到来したといってよいだろう。ここまでDECO*27が支配的であったのはおそらく19年上半期以来ではないだろうか。ボカコレ期間中に投稿された「テレパシ」は現在どのボカコレ曲よりもニコニコで伸びており、順調に25年投稿曲最高再生数を維持している。DECO*27が第1回無色透明祭に合わせて「ゾンビ」を投稿しどの無色曲よりも伸ばしたのは有名な故事だが、さすがにあのDECO*27であってもボカコレに一人で勝つことはできないだろうと思われていた。どうしてこうなってしまったのか、しかもプロセカ曲をいくつも作っているというのに。だがDECO*27は去年末には「25年の曲はすべて作り終わった」との趣旨の発言をしており、おそらくそれ以前の劇場版プロセカ曲製作のプレッシャーから解放されたDECO*27が縦横無尽に大活躍しているというのが真相であろう。25年上半期投稿曲でテレパシに対抗できそうなのはダイダイダイダイダイキライとおじさん構文くらいだが、下半期次第では年覇権曲も十分ありえる勢いである。
DECO*27は去年11/22投稿の「モニタリング」もすでにニコニコでは335万再生であり、メズマライザー、テトリスには及びそうにないがイガクを抜いて24年3位の再生数となりそうである。まあ24年はメズマライザーが強すぎたためテトリスやモニタリングは本来21年のきゅうくらりん・フォニイ程度の伸びをしているのに年覇権曲にかすりもしないという残念な状態となっている。DECO*27は23年ならまだ年覇権曲の可能性がラビットホールに残されているが、オーバーライドもまだ75万程度の差があって伸びは拮抗しているため、すぐには抜けないものと思われる。これが常にヒット曲を出すが年覇権曲は出せないDECO*27の平常運転である。19年の乙女解剖も春嵐に抜かれて年覇権曲から陥落したため、残るDECO*27の年覇権曲はゴーストルールのみとなってしまった。これは何があっても抜かれなさそうだが、せっかく長生きしているのだから年覇権曲を3曲以上出してwowaka(09、10、17で年覇権曲)を超えてほしいところだ。でも裏表ラバーズもロミシンとあまり差が離れていないので年覇権曲から陥落するかも。とはいえ年覇権曲を複数持っているのはwowakaのみである。
2月に行われた上半期ボカコレはイガクが圧倒的な強さを示した前回よりは盛り上がらなかった印象だが、多くの名曲を生み出した。TOP100を制したのはあばらやの「花弁、それにまつわる音声」である。あばらやは24年から「かなしばりに遭ったら」などで注目されていたが、今回ボカコレで優勝したことで一気に名を上げた。ルーキーはひらぎの「マリオネットダンサー」が制した。ひらぎは前回のボカコレルーキーでも7位に入るなど注目されていたが、しっかり結果を残している。
25年上半期での注目の新人には雨良と吉本おじさんを挙げる。雨良は3/15投稿の「ダイダイダイダイダイキライ」が大きくヒットした。雨良はそれまでニコニコ1万再生すら出せておらず、私も正直見たことがなかったが、見事にヒットを生み出し一気に注目度を上げた。雨良はマジミラ2025コンテストでも準グランプリと結果を残したほか、Lieなど他の上半期の新曲も一定程度の伸びを維持している。今後は大きな書き下ろしなどさらに活躍レベルを上げるかもしれない。吉本おじさんは5/31投稿の「お返事まだカナ?おじさん構文!」が大きく伸びた。吉本おじさんはこれがまだ2曲目の超新人であり、今後が期待される。おじさん構文で歌唱している雨衣はボカロ民にはおそらくロリ神レクイエムで知られるしぐれういをもとにしたキャラクターであり、5/30にVoiSonaから発売された。上半期発売の完全新作ソフトとしては最も影響力のあるものであり、今後どのような曲が生まれるのか楽しみである。
また、YouTubeでは少女Aがグッバイ宣言を抜いて再生数1位となった。我々も意味がわからないがこの曲はもはや世界中で聴かれており、あのメズマライザーと同程度の伸びを続けているのであるから驚きである。YouTubeでは常に日間ランキング1桁を維持しており、これはニコニコであればアンマザが常にテトリス程度に伸びているようなものである。とはいえ我々は7/23には椎名もた10周忌を迎えるわけであり、もう一度椎名もたについて考える機会を作るべきである。
さらにこの稿では、静かに進行しつつあるユキ曲の減少についても述べる。2/9に柊マグネタイトが歌愛ユキの新曲「ざぁこ」を投稿したところ未成年の声をもとにしているユキで過度に性的な表現を行っているとの批判を海外勢を中心に受け、同日中に削除に追い込まれミクに歌唱を変更して再投稿することになった事件は記憶に新しいが、この問題をきっかけとしてユキ使用はリスクが高いとの認識が広がり、ユキ曲の投稿が減少しているのではないかという指摘を私は5月くらいにXでしていた。しかし詳しくは調べていなかったため、ここで改めて検証する。
まずは事件直後の2/15~6/30の歌愛ユキ楽曲をニコニコでチェックする。ニコニコで前述の期間中に「歌愛ユキ」のタグがつけられていた動画は359件であり、そのうち1万再生を達成しているものは8曲、さらにそのうちユキ単独曲は3曲にとどまった。とはいえ同時期の去年のユキ曲を(ニコニコ停止の影響も考えて)24/1/15から24/5/31の間で取ると341件となり、むしろわずかに曲数は増えている。これは単純にたまたま25年上半期に伸びるユキ曲が出なかっただけで、曲数としてはユキは勢いを維持しているといえる。ユキシーンを支えてきた稲葉曇とゆこぴが25年上半期はユキの新曲を出さなかったことも影響しているかもしれない。ちなみに月別にユキの新曲数を25/3~25/6で比較すると61→49→66→56となり、ほぼ横ばいであるから事件直後にユキの使用が落ち込んだというわけでもなさそうだ(ちなみに1月は61曲であり、事件前と比較しても曲数に変化はない)。というわけでユキ民は全く悲観する必要はない。
それでは最後に下半期に向けての展望を少々。まずは現在大きく伸びているおじさん構文がどこまで伸ばすかが焦点となる。私としては22年のせかせか的な推移をたどり、テレパシやダイダイダイダイダイキライを明らかに上回るわけではなさそうだと考えている。1年以内伝説入り候補はテレパシ、ダイダイダイダイダイキライはすでに確定として、花弁、雑魚、D/N/A、おじさん構文が濃厚である。40万再生にじわじわ伸びて到達した超主人公も今後次第で、じんの2曲も十分ありえる。夏には再びボカコレが開催されるため、それに向けて多くのPはすでに調整を始めているだろう。下半期にはどのような名曲が生まれるか楽しみである。