第3話
シャツをはおり、膝が擦り切れた綿のパンツをはいた。
綿のパンツは買った時は藍色だったが、今は薄い青に変わっていた。
これは10年以上は着ているので、身体になじんで捨てられない。
シャツのボタンは2個紛失してるが、かえって楽でいい。
竜騎士仲間には金はあるんだから新しいのを買えとか、だらしがねぇってよく言われる。
うるせぇんだよ。
ほっとけってんだ。
服なんて、着れればいいんだ。
真っ裸じゃなければ、いいんだ。
これはどれも寝間着兼用で、非常に便利かつ優秀な‘お洋服‘なんだ。
普段は制服だから、俺にはこんなんで十分なんだよ。
冠婚葬祭だって、制服でいいんだしな。
「ん? ボタン、3箇所無ぇし。また取れちまったんだな」
先週、カッコンツェルに貰った南国製のサンダルをひっかけて部屋を出た。
歩くとぺったんぺったんと変な音がするが、軽くて履き心地が良い。
あいつとは、学習院の頃からの付き合いだ。
カッコンツェルは腕の良い菓子職人で、半年前に街で小さな店を開いた。
勉強熱心なカッコンツェルは、大陸中を放浪して菓子作りを学んだ。
人間にも頭を下げ、菓子作りを教えてもらったと聞いた時は驚いた。
俺には真似できない。
陛下にさえ、頭を下げるのがやっとの俺には無理だ。
休みの日はあいつ店の片隅で、茶を飲んでだらだらと時間を潰すことも多い。
カッコンツェルの話す諸国の話を聞くのが、俺の最近の楽しみだ。
菓子の材料を買い付けに大陸の南部を1ヶ月かけて飛び回り、先週の頭に帝都に帰って来た。
白い砂浜を見たと言っていた。
空を映した澄んだ海で泳いだと笑っていた。
寒さの厳しい帝都と反対な、南の国。
海。
俺も、海を見てみたい。
よその国に、行ってみたい。
この帝都から、出てみたい。
俺だって、飛んでいけるんだ。
翼なら、ちゃんとこの背に持っている。
大丈夫。
ちゃんと分かってるよ、陛下。
俺にはそんな資格が無いって、分かってるから諦められる。
陛下の【檻】からは出られない。
俺には……<先祖返りの化け物>の俺は、外へ出ることは許されていないのだから。
俺は、飛んでは駄目なんだ。
「……腹、空いたな」
腹が空くってことは。
俺。
まだ、生きてたいんだな?
なんでだ?
何のために?
「心当たり、無いな」
生きる。
生きたいと望む。
その理由が。
俺には。
「……っ」
俺、今。
自分がどんな顔してんのかって、少しだけ気になった。
俺は鏡を持ってない。
だから、確認しようがない。
「飯だ、飯。俺は食堂に行って、唐揚げ定食を食うんだ。大盛りでだ!」
鏡。
持ってなくて良かった。