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第1話

「陛下。俺、種馬係りはもう嫌なんですけど?」


 竜帝陛下は<青の竜騎士>である俺の‘飼い主‘だ。


「陛下。聞いてます? 耳、イカレたのかよ……返事しろ、このクソババア」

「……聞こえているぞ、セレスティス」


 俺に背を向け、床に転がった半裸の女から足枷を外していた老婆は振り向かずに言い。

 クソババア陛下は真っ赤になった女の処理作業を続けた。


「さいですか。失礼致しました、竜帝陛下」


 俺は竜騎士だ。

 聞こえはいいが、実際は<騎士>なんてお綺麗なもんじゃない。

 竜帝によって監視対象と認定された異常個体だ。

 普通の竜族と比べ、強い攻撃性と力。

 そして、凶暴性を持って生まれた個体。

 温和な生き物である竜族だが稀に、そういった個体が生まれてしまう。

 野放しにすれば、人間との共存を選んだ竜族にとって害になる。

 竜騎士は自分より遥かに強い存在……四竜帝と<監視者>には、本能的に強い恐怖を感じるせいか、逆らうことができない性質がある。

 竜帝はそこをうまく使い俺達を制御し、使役している。

 竜帝陛下は普通の竜族にとっては指導者で、保護者。

 だが、俺にとっては<主>なのだ。

 それは糞喰らえな、揺ぎ無い事実。


「陛下。誰か他のやつに変わってもらうのが無理なら……せめて、種馬仲間が欲しいです」


 俺は<主>に命令(・・)されれば、壊すことも……殺しもする。

 <青の竜帝>の【猟犬】。

 それに不満などない。

 竜騎士の俺には、普通の竜族と違ってそういった行為に対する抵抗感が存在しないのだから。

 しかし。

 【家畜】は嫌だ。

 しかも種馬扱いなんて……馬どころか、牛や豚の交配みたいで最悪最低だ。


「しかたなかろうがっ! 使える雄は、今はお前だけなのだぞ!?」


 俺だけ。

 成竜で、つがい持ちでない雄の竜騎士は俺だけ。

 陛下はつがい……伴侶持ちの雄は使わない。

 陛下も一応は雌だから、雌の気持ちを考えて遠慮してるんだろうか?

 竜騎士は陛下の命令に逆らえない。

 陛下が「言うな」と命じれば、酷い拷問を受けたって言わない……言えない。

 秘密厳守にはもってこい。

 つがいにだって、命じられれば喋らないのに。


「……けっ」


 どっちにしろ、まったくとんだ貧乏くじだ。

 俺だけが種馬合格なんてな。


 竜族は人間のように性欲が強くないので、仕事とはいえきつい。

 陛下もちゃんとそれを考慮して、実験の日程を組んでいるけどな。

 最近の俺は薬を飲まないと役にたたない。

 精神的なものだろうと、陛下は言った。

 だから俺はこの糞陛下の用意した怪しげな薬を、行為の前には強制的に服用させられている。

 陛下がいじくりまわし、妙な物体と成り果てた女とやんなきゃなんない事もある。

 若くて精力満点だろうと、薬でぶっ飛んでないとさすがに無理だってんだ。

 交尾なんて呼べない、言えない最低な行為。

 誰が好き好んでやるかってんだ。


 今日はついていた。

 4人目の女が、使いものにならなくなってラッキーだった。

 実験棟の種付け部屋(俺が勝手にそう言ってる)の壁に、鎖で繋がれていた4人の女の内の1人が突然、全身の毛穴から血を吹いて死んだ。

 陛下の前処理に問題があったんだろう。

 俺があの薬を飲んで、準備する直前だった。

 ナイスタイミング!

 今日は良い日だな。



 

「ちっ、私も雄ならもっと効率が……。セレスティス、今日は帰っていい」


 はあ?

 あんたが雄だって、無理に決まってんだろう!?

 自分の歳、分かってんのかよ?

 この糞ババアはっ! 

 頭ん中の罵倒が聞こえるはずはないのに、澄んだ青と黄色く濁った白目を持つ目玉が俺を睨んだ。


「……じゃ、そうさせてもらいます」


 執務室に居る時とは全く違う‘汚れ作業‘に適した簡素な衣類に身を包んだ<青の竜帝>。

 すっかり年老いて丸まった背中に流れるのは、床に届くほど長い真っ青な髪。

 それと同じ色の爪。

 髪と爪の青さは、初めて会った時と変わらない。

 初めて見た時は宝石のように綺麗だと感じたその爪が、今はなんとも気持ちが悪い。


「セレスティス。明後日の深夜に‘納品‘があるから、お前はそれまでは休みをとって良い。騎士団には私から伝えておく」


 初めて会った時。

 俺の頭を撫でてくれた。

 ずいぶんと優しい手をしたおばさんだなと、そう思った。

 その手で。

 陛下は床に転がった<女だったモノ>の右足首を掴み、引きずって歩き始めた。

 苛立ちのままに掴んだせいで青い爪が皮膚に食い込み、蝋のような皮膚から血が流れていた。

 実験棟地下に作った特殊溶液の大水槽は、陛下がこうして運び入れた女の死骸でぎっしりだ。


「へ~い、了解です。んじゃ、失礼します」


 まだ死体ではない女達は、うつろな眼で石の床にうずくまっていた。

 人間より耳の良い竜族の住む城の敷地内で‘材料‘に騒がれると都合が悪い。

 だから陛下は女を手に入れるとすぐに‘前処理‘をする。

 思考を鈍らせ、咽喉を潰し。

 痛みさえ快感に変わるような強い媚薬を注入し……。

 人買いに売られた先がド変態な爺なのと、この老婆なのとはどっちがましなんだろうか?

 多分、ド変態のほうがマシだろうな。

 この<青の竜帝>がしていることは、常軌を逸している。

 つがいが老衰で死んでからは、特にひどい。

 政務を放棄し、実験にのめり込んでいる。

 仲の良かった<黒の竜帝>の反対意見も、聞き入れない。

 おかげで俺達<青の竜族>は、前代未聞の経済状況だ。

 今はまだ、一部の者しか知らないが。

 国庫はもうすぐ、すっからかんになる。

 そりゃそうだ。

 稼ぐより、使う金の方がはるかに多いんだ。

 ‘秘密の実験‘には、金がかかる。

 次代陛下は大変だ。

 からっぽの財布を渡されて、長年の贅沢な暮らしに慣れきった一族をこれで養えって言われるわけだ。

 なりたくて<竜帝>として生まれてくるわけじゃないってのに。

 <竜帝>は<竜騎士>より、哀れで可哀相な存在だから。

 生まれてきたら、優しくしてやろうかな?



 <先祖返りの化け物>の俺に‘優しく‘なんて高尚な事が、出来るかわかんないけどな。

 



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