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第八話 プロローグ? そのろく




「あははは。母さんにも同じことを言われましたよ」


 長谷川は、日登美の店をもちろん知っている。那覇でも有名な店で、沖縄ローカル局の情報バラエティ番組で取材されていたからである。


「あら偶然。私、あとでお邪魔するもりだったのよねぇ」

「あれれ? ということは、今日の予約って」


 一八の言っている予約とは、美容室碧のものである。


「そうよ、ご名答」

「なるほど、そうだったんですね」


 さすがに長谷川と一八が顔見知りだということまで、日登美は知らないのだろう。だから今日の予約が彼女だと教えなかった。ちなみに彼女は一応、うちの上得意客だったりするのである。


「はい。預かり伝票どうぞ。明日の夕方にはできているはずよ」

「はい、お願いします」


 後ろを向いてごそごそと何かを取り出した長谷川。


「それじゃこれ。出来上がってる分と、一八ちゃんのスラックスも」

「ありがとうございます。スラックスは自分で洗えませんから」

「そう? ドラム式の洗濯機でしょう? ネットに入れたら洗えるわよ」

「いえそれでもん、……っと、一度トライして失敗したんです」


 炊事洗濯掃除に長けている一八でも、失敗くらいはするのである。プロではないから、そう彼は自己弁護をたまにする。


「あらま。心配なら私がやってあげちゃったほうが早いものね」

「はい、いつもお世話になってます。それじゃまた明日ですね」

「えぇ。また明日」


 長谷川に見送られ、出来上がった洗濯物を抱えてクリーニング店を後にする。


 裏手からまたエレベーターに乗り、十九階へ。鍵をあけて部屋に入り、洗濯物をウォークインクローゼットの中にある各収納へ。さすがにここだけは荒れた感じがしない。一八は『ウォークインクローゼットの中を汚部屋にしたら、掃除はしない』と注意してあるからだろう。


(これだけはしっかり守ってくれてるんだよね)


 一八の部屋に戻って、壁にクリーニングの終わったスラックスをかける。ベッドに大の字で倒れ込んで脱力した。これでやっと一段落であった。


(やっと一段落)


 窓際に近い場所にある、幅一メートルほどある水槽(アクアリウム)。まるで海底のジオラマと言っても過言でないほど見事なものではあるのだが、ぱっと見た感じ何も育成していないように見える。


 一八がベッドから立ち上がり、水槽に近寄ると、そこにはまるで忍者のように、二体の生物が姿を現した。よく見るとその姿は、軟体動物のタコ。右側に、黒く色味を帯びたのが一体。左にグレーに見えるのが一体。一八が両腕で抱えられるくらいのサイズである。


 一八が来るまで、水槽の反射したガラスの部分に擬態していたのだろう。だから彼が近寄っただけで姿を現したのかもしれない。


「阿形さんも、吽形さんもここ数日お疲れさま」

『おう』


 二人はここ千年ほど海にいたからか、精神的に疲弊すると海水に近い水に浸かれば気持ちが楽になるのだそうだ。彼らなりの癒やしの空間なのだろう。


『一八さんもお疲れさま』

「このあと買い物行くんだけどさ、市場で何か美味しそうなものを買ってくるからね」

『おう。いいのを頼む』

『あなた……』


 一八の部屋にもウォークインクローゼットがあり、その扉を開く。するとそこには、折りたたんだ自転車がある。にび色の車体。太くがっしりとしたフレーム。かなり重そうに見えるのだが、一八は軽々と小脇に抱える。


『一八さん、ワタシも行きます』

「吽形さん、一緒にくる? それじゃいこっか」


 先に玄関先へ自転車を出しておき、一度部屋に戻ると大きめのリュックに、財布やスマホなどを確認し、背負ってまた部屋を出る。


「それじゃ阿形さん、留守番お願いね」

『おう』

『寝たりしないでくださいね、あなた』

『お、おう』


 一階へ自転車と一緒に降りていく。こちらへ住む際、一八はまだ免許を持っていないので、便利になればと千鶴が買ってくれたのだ。それに報いるために、毎日買い物をして、美味しいものを食べてもらおう。一八はそう思っていたのだった。



=== あとがき ===


ここまでがプロローグになります。次回から本編が始まります。これからもよろしくお願いいたします(/・ω・)/(_・ω・)_ゥウン

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