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第六十一話 手分けをして活動




 羽田空港の到着口をでると、プラカードを持った千鶴のマネージャーである、龍童プロモーションの斉藤真奈美がいた。プラカードには『一八君』とだけ書いてある。帽子を被って完全に誰だかわからない千鶴だから、誰も騒ぐ人はいないようだ。カメラを構えている記者らしき者が数人いるが、さすがにわからないだろう。


 一八と千鶴は手を繋いでいる。だから口に出さなくても話は出来ている。


(あれは恥ずかしいな)

(どう? やーくんも一緒にデビューしちゃわない?)

(僕はヒーローになりたいんだってば)

(あ、でも。同じ事務所に)

(いるんだよね、絶牙さん……)


 俳優という選択肢を、完全に否定できない、一八だった。


 黒塗りのいかにも芸能人御用達という、間違いなくお高いラグジュアリーなミニバン。


 似たような車を母、日登美が持っている。いつもなら彼女が座るところに千鶴を案内する。三列目の席に一八が乗れるようになっているジュニアシートが準備されていた。


「おはようございます。これから数日、お世話になります」

「おはようございます。姉がお世話になります。あ、僕もです」


 千鶴の丁寧な挨拶と、一八の保護者のような挨拶。


 すると運転席から聞き覚えのある声がする。


「おはようございます。時間的にはこんにちわ、なんだけど業界ではおはようございます、なのよ。矛盾してるわよね。アタシほんと困っちゃうわ」


 運転席にいたのは宝田大五郎。スポーツ選手なみに身長が高くて細マッチョ、それでいて女性的な言葉使いをする人。龍童プロモーションの専属メイクアップアーティスト。


「あれ? なんで宝田さんがここに?」


 器用に自分の席に座る一八。


「あのね、社長の鶴の一声なの。社運がかかっているし、斉藤ちゃんだけだと心配だからって、アタシも千鶴ちゃん専属になったわけ。それで運転歴の長いアタシが運転手をしてるの。おわかりかしら?」

「私そんなに頼りないですか? 一応、チーフマネージャーにまでなったんですけど?」


 助手席に座った斉藤がこちらを振り向いて何かを訴えようとしている。


「はいはいどうどう。そうじゃないでしょ? マネージャーなら、本日の予定を説明するべきじゃなくって?」


 実に見事な、斉藤の左ストレートに合わせたクロスカウンターの右。みたいな宝田の正論。


 斉藤はぱらぱらとアナログなスケジュール帳を開き、説明を始めた。


「そうでしたすみません。えっと――」


 ←↙↓↘→


 以前も利用していた東京プリンセスホテル。最上階ではないが、前と同じ十七階。祖母である八重寺静江も贔屓(ひいき)のホテルなので、滞在中はここを利用することに決めたのだそうだ。


 今回も三日の滞在なので、スケジュール的にはかなり忙しい。かといって、専属で斉藤と宝田がいる以上、一八がずっと着きそうわけにもいかない。


(それならさ、阿形さんがお姉ちゃんについていてくれないかな? 僕と吽形さんは『ヒビキ・エージェンシー』というのを調べてみます)

『いいぞ。オレが千鶴君を守ればいいんだな?』

『もしもの際は、守るのであって、成敗はいけませんよ?』

『わ、わかってる』

『この人はほんと、時代劇にはまってしまって』

(阿形さん、お姉ちゃんをしっかり守ってください。お願いしますね)

『おう』

(吽形さん、やーくんの力になってあげてください)

『わかりました。任せてください』


 車の中でこのようなやりとりを終えていた一八たち。ホテルに到着し、阿形に千鶴をお願いして一八は持ってきたノートパソコンで情報収集にあたる。


(さて、と。ヒビキ・エージェンシー。正確には『ヒビキ・エージェンシー株式会社』。会社の所在地は渋谷区xx町。代表取締役社長は松任谷(まつとうや)(きょう)。品川にあるこの東京プリンセスホテル。電車で五つ。それほど遠くはないね)



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