第六十話 再び東京へ
軽い朝食後――阿形と吽形はしっかりと摂ってもらったが――一八たちは空港で少し食べるので軽くにした。
「お父さん、お母さん、おはようございます」
『おはよう、気をつけて行ってきてね』
『大丈夫よ。一八もいるんだからね? 一八』
「うん。おはよう。お父さんお母さん」
父隆二も母日登美も、今朝は八重寺島にいる。だからタブレットを使って、ネット経由のテレビ電話で『いってきます』をする。
八月ももう、残り少なく感じる。東京は沖縄よりもある意味暑い。一八はあまり気にしないが、千鶴は紫外線防止に努めている。これ自体が彼女の仕事でもあるからだった。
紫外線遮断の長袖インナーを着込む。手首から足首、首元もハイネックになっているが、暑いわけではない。汗を発散し防臭効果もある優れもの。作業着メーカー恐るべしというところだろう。手首から先も、同じブランドの手袋。これですき間はほぼなし。
照り返し対策として、顔に少量の日焼け止めを塗りたいところだが、これもしないで欲しいと言われている。そのため、白地に大きなハイビスカスがプリントされた、目から下を覆うフェイスカバーにサングラス。麦わら帽子を被って日焼け止めの代わりにする。
「化粧しなくていいし、汗かいてもベタベタしないから楽なんだよねー」
「なんかのヒーローみたいだよね。まるで」
「そんなわけ、……あるかも」
この万全な状態から幅広雨傘――沖縄の紫外線では、日傘は貫通してしまうため――で対応。日焼け対策は更に万全となる。よく見ると、天気予報も外も曇り空。だが油断するなかれ。沖縄の曇り空は十分日焼けしてしまうのだ。
紫外線の量が内地の二倍。二百パーセントから例え半減したとしても、夏の日差しが百パーセントは残ってしまう。
「これで紫外線対策は万全なのよ。曇り空を舐めては駄目」
「僕はそんなに気にしないんだけどなぁ」
『一八さんは、ワタシたちの眷属なので、日焼けは治ってしまうのです』
『そうだな』
「やーくん、チートキャラすぎるわ」
「そりゃたしかに、色々諦めたけどね。それもヒーローのため」
「うんうん。特別な力を持つ人は、色々我慢しなければならない。何かの映画にあった格言だよね」
「あははは」
新都心から、モノレールを使いたいところだが、大騒ぎになってしまう可能性があるため、タクシーを呼ぶことになっている。もちろんタクシー代は、龍童プロモーション持ちである。おかげで、紫外線にあたらくても済むので、助かりはするのだが。
タクシーが到着。誰が乗るか予めわかっているので、騒いだりサインを求めたりはしない。ひとつ間違えたら、龍童プロモーションから訴訟をかけられる恐れもあるからだ。
「八重寺様ですね?」
「はいそうです。お願いします」
対応は一八がする。これも運転手に対する気遣いみたいなもの。千鶴は手荷物に徹した方が双方とも幸せになれるのであった。
那覇空港に到着。ターミナルビルに入ったらもう、紫外線は怖くない。サングラスは外さないが、フェイスカバーは外しておく。もちろん、タクシーの中で薄い色のリップグロスだけは塗ってある。
「あれあれ、あの子。もしかしたら千鶴ちゃんじゃない?」
ここで一八はあるプレートを掲げる。それは『お静かにお願いします』というものだ。声をかけられたら、サングラスを外して笑顔を作ってその人へ手を振る。そういうファンサービスのようなものをする代わりに、静かに見守ってもらおう。そういう考えなのである。
スマホを使ったチェックインを済ませ、時間に余裕があるのでターミナルビルの三階へ。
「チリチーズカーリーフライとルートビアのレギュラーで」
「僕はオニオンフライにルートビアのレギュラーお願いします。あ、ケチャップも」
先にルートビアだけ並々注がれたジョッキを持ってくる。一番奥の席に座って、ジョッキにストローを挿す。ごっごっごっと、三割ほど飲んだ二人は、深く息を吸って吐いて、
「「命の水だね」」




