第五十九話 新居での晩ごはん
解凍した海老を、片栗粉をかけてもみ洗い。キッチンペーパーで水分を拭って、包丁で切れ目を入れる。粗塩を振って、シリコンスチーマーに入れて電子レンジへ。これで下ごしらえは完了。
すると『チン』という電子音。何種類かあるうち、隆二も使っているレトロな音を選択。
「よーし。できあがり。ちょっと蓋開けて冷まして、と」
ブラックタイガーの粗塩蒸しのできあがり。テーブルへ持ってきて、これで夕食の準備は完了。
『おぉ、実に見事な海老だ』
ピザのほうは、エビマヨビザとシーフードピザ。それに気持ちだけのゼロコーラ。
「ジャンクだね。うんうん、いいよいいよやーくん」
『エビマヨとシーフード、ワタシに合わせていただいたようで何やら申し訳ないです』
「いえ、僕たちも大好きですから。ね?」
「そうそう。いや、美味しそうだわ」
本来なら八分の一に切るところを、頼んで十六分の一にしてもらった。これなら常に二枚ずつ置くことができる。
紙の皿に取り分けている間に、吽形は前に皆で見た映画のキャラクターに似た、人型に近い擬態をしていた。デフォルメタコ姿と言えばわかりやすいだろう。
「どうしたの吽形さん?」
『こうして、一八さんたちと同じように咀嚼したならもっと、美味しく食べられると思ったのです』
それならと一八は、キッチンからナイフとフォークを三人分持ってきた。グラスに四つゼロコーラを注いでこれでよし。
一八が音頭を取って、
「ではいただきます」
『おう』
『はい、いただきます』
「やーくん、いただきまーす」
ひとつ食べてはじわりと、黒から一部分だけ海老の色になって堪能している阿形。
『いやうまいな』
ひとつまた、じわりと色を変える。実にわかりやすい反応と性格なのである。
吽形は、千鶴の真似をしてナイフとフォークを使って、口元にエビマヨのピザを持って行く。
『……エビマヨなのに濃厚な味。これがもしかして』
「そそそ、チーズなのよねー。わたしは大好き」
『えぇ。とても美味しいです。このサクサクした生地の食感もたまりませんね』
「なんていうかもう、僕たちと変わらないね。吽形さんって」
『えぇ。一八さんを覆って、擬態することも考えていましたから』
「おー、それは興味深い。ね? やーくん」
「うん。調査に使えそうかも」
『うまい。ほんとうに、うまい』
吽形は、ゼロコーラの入ったグラスに手をかける。恐る恐る、一八たちの真似をして飲んでみた。すると、
『このしゅわっとした舌触り。チーズとエビマヨの味がすぅっと流される。面白い飲み物ですね。それにちょっと甘く感じます』
「なかなかどうして、味覚も似てるんだね。ね? やーくん」
「うん。びっくりかも」
『うまい。うまい』
山盛りになっていたブラックタイガーが、もう半分くらいの量まで減っていた。
『「「ごちそうさまでした」」』
『おう』
『あなたは食べてただけでしょう? このごちそうさまでしたは、準備して頂いた一八さん対する言葉なのです』
『お、おう』
『あとでちょっとお話があります』
『はい』
なんだか母日登美と父隆二を見ているようで、笑ってしまう一八と千鶴。
「そうそうあのねお姉ちゃん」
「どうしたの? やーくん」
「阿形さん吽形さんのおかげでね、ビルの壁も登れたし、空を飛ぶこともできたんだ」
「なんてことなの? それじゃまるでヒーローじゃないの。それでそれで、もしかして? 東京まで飛んで行けちゃったりするのかしら?」
「時速はね、二百キロなんだ……」
「……それはそうよね。無理をさせてはいけないわ」
「ですよねー」
興奮気味だった千鶴も、違った意味で現実に引き戻されるのであった。




