第三十一話話 意外や意外
ひとりでレストランで食べるというのも味気ない。それならばと思った一八は思った。
「そうだ。ルームサービス頼んでみよう」
『ルームサービスですか?』
(うん。レストランなどからね、食べ物や飲み物を部屋まで持ってきてくれるサービスのことなんだ)
『そういうものがあるのですね』
部屋にあるタブレット端末から、ルームサービスを検索する。すると弁当があることがわかった。一八は、弁当を持ってきてもらうことにしたのだ。
「えっと、んー。よし、この『エビチリ弁当』にしてみよう」
『海老なのですか?』
海老というキーワードに食いついた吽形。
(海老を焼いてちょっと甘辛く味付けしたのがエビチリ、だったかな?)
端末に注文するチェックをつけて、『注文してもよろしいですか?』に『はい』を選ぶ。すると『十分ほどでお持ちいたします』というメッセージに変わった。
「よし、今のうちにこっちも準備してっと」
一八は吽形のごはんを用意する。とはいえ、電子レンジで解凍して、少しだけ塩を振るだけの簡単な調理とも言えないものだった。だが今回はちょっと趣向を変えてみる。
元々この冷凍海老は、一八たちが食べるのと同じもの。そうであるならと、解凍後、塩を振って、いつもと同じ半生ももの。それとは別に、ちょっと長めに加熱をして、きちんと熱が通っているものを作ってみた。
「どれどれ、あむ、むぐむぐ、……うん。美味しい」
『それはどうしたものですか?』
(えっとね、僕たちが食べる海老ってね、生の刺身と焼いたり揚げたりして加熱したものがあるんだ)
『はい』
(あっちで使っている海老もそうなんだけど、これもね冷凍されているもので、生食用ではないんだ。ほら、ビニールには『加熱してお召し上がりください』って書いてあるでしょう?)
『確かに書いてありますね』
普通に漢字も読めている。千年という時間はこの星のどれだけの知識を取り入れる時間だったのだろうか? そんな吽形たちに、一八も興味が湧いてくるのだった。
(吽形さんたちに作ってたものはね、ちょっと味付けした半分加熱したもの。僕が食べても大丈夫なくらいだったから、今回はね、完全に熱を通してみたんだ。火傷するとまずいから、冷ましておくんだけどね)
『あの、ワタシたちは傷の治りが早いとご説明したかと思うのですが』
(あ、忘れてた)
そのとき、インターフォンが鳴った。一八は受話器を上げる。
『ルームサービスです。お弁当をお持ちいたしました』
「あ、はい。ちょっと待ってくださいね」
ドアにある、ドアスコープを覗いて確認。ホテルだけあって、低いところと高いところ二カ所あるのは一八のような身長の者にはありがたいことである。
(んー、ホテルの従業員さん、だよね?)
『間違いないと思います。もし何かありましたら、ワタシがお守りいたしますので』
(うん。吽形さん、ありがと)
鍵を開けて、ドアも開ける。本来であれば、チェーンロックをかけるように、ドアには書いてある。だが吽形がいるから、安心して開けることができた。
「ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそご利用ありがとうございます。食べ終えたものは、軽く洗って専用の袋にお入れください。明日、お部屋を掃除する際に処理させていただきますので」
「はい。わかりました」
ビニール袋を受け取ると、良い匂いが漂ってくる。その中には駅弁のような容器が入っている。割り箸ではなく木製だが最初から別になっている箸。
(それじゃ、僕も食べようかな?)
テーブルの上に皿を置いて、そこにある何種類かの加熱度合いを変えた海老が並んでいる。その向かいに座って、弁当の蓋を開けた。
「おー」




