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第二十二話 こうするなら




 一八は今夜から、姉千鶴と一緒に東京へ行く予定になっている。


 千鶴は十五歳の中学三年生。家の中ではブラコン気味な千鶴も、外では猫を被っている。八重寺島立中学校では文武両道で、生徒会役員も務めていたほどであった。


 この八重寺島には高校がなく、ほとんどの人は運天港までフェリーで出て名護市内などの高校へ通うのが普通だ。だが、千鶴は祖母の知り合いが理事長を務める、一貫校への編入を希望していた。


 その編入試験――とはいっても実際は推薦のため、面接と小論文である――に合格した。そのお祝いでありご褒美として、かねてより行ってみたいと思っていた東京の観光へ行くことになったのであった。


 東京には千鶴と一八の二人で行くことになっていた。父隆二と母日登美はこちらで仕事があるから、三日と休むことはできない。休みがとれるのは、日曜日だけなのであった。


『なるほど、ある程度は理解できました。そうなりましたら、あなた』

『そうだな。ここを守る役目もあるから、オレまで行くわけにはいかないだろう。だから、頼めるかな?』

『えぇ、一八君は任せてくださいな。あなた』

『もちろん、同行するという千鶴君の守りも頼むことになるが……?』

『大丈夫だと思いますよ。一八さんから魔力をもらっていますので、全盛期に戻りつつありますからね』

『それならそうしよう。オレはこちらに残り、有事に対処する』

『ワタシは一八さんたちについていき、お二人をお守りする。これでよろしいですか?』


 阿形、吽形の話しからするに、阿形はこの地へ残り、吽形は一八についてきてくれるようだ。


(よろしいですか? って吽形さん。どうやって一緒に行くんですか?)

『うちの吽形(かない)は少し抜けているところはあるが、そこが可愛いんだよな』

『やめてくださいよ、あなた……。申しわけありません』

(あははは……)


 このあたりのやりとりを聞いていると、彼らがタコではなく人間なんだと改めて思うだろう。


『一八さん。お覚悟は、よろしいでしょうか?』

(あ、はい。いつでもどうぞ?)

『吽形、一八君はわかっていないようだが?』

『ではまいりま――え?』


 吽形の触手から身体全体が光を帯びたかと思うと、一瞬で消えてしまっていた。


『一八君』

『はい』

『そそっかしいうちの吽形が、申し訳ないね』

(いえ、でも似たような人を……、あ、姉さんだ)

『確かに千鶴君も、似たような感じはあるね』

(あははは。よく見ていますね)

『見守るのは、オレたちの仕事だからね』


 阿形は思ったよりも、一八と千鶴を見ていてくれている。


『――あー、あー、繋がったかしら? 一八さん、聞こえますか?』

(はい。聞こえますよ)

『よかったです。えっと、……そうですね。あなた、『鏡の術』をお願いできるかしら?』

『あぁ、構わないよ』

(『鏡の術』、ですか?)

『大気中の水分を使って、目の前に鏡のようなものを作り出すんだ』

(へぇ、それはそれは。……あ)


 一八と水槽を挟んで、目の前に鏡が浮かび上がる。大きさ的には五十センチくらいだろうか。そこには一八と左側の肩越しに、何か違和感を覚えたのだった。


(あれ? これって?)

『はい。ワタシです。今は一八さんの左側肩甲骨の上にお邪魔しています』

(え? そんなことができるんですか?)

『そうですね。一八さんがワタシたちの眷属だから、というのもありますね』

(ほほー。ということは阿形さんもできるんです?)

『できはするが、鏡が消えてしまうけれど、いいのかな?』


 確かにこの一八の部屋には鏡がない。洗面所で寝癖を直したりするものだから、この部屋には必要がないから置いていないだけ。


(そうですね。でも夢が膨らみます。何ができるんでしょうね……)


『本当に好きなんだね。一八君は』

『えぇ、そうですね』


 一八の手を伝って、いつの間にか水槽に戻っていた吽形だった。



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