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第一話 ヒーロー登場? そのいち




 あと二週間もすると、夏休みになろうとしている初夏の夜。時間は二十時を過ぎたあたりだろう。


 ここはとあるマンションの屋上。そこに座り込んで胡座をかき、中央に大きめの液晶モニタがついている、ゲーム機のコントローラーのようなものを両手に握る男の背中が見える。その前には、プロペラが八つついているドローンだろうか?


「ここの家主さんはね、コンカフェのアルバイトで遅くなるんだよね。だからこうして、我輩(わがはい)がゆっくり攻略できるわけなのだよ。ドローン三号君」


 ボソボソと呟くように独りごちる声から察するに、若い男性のようである。


「ではではしゅっぱーつ」


 彼の声に反応したわけではないが、右手の親指がスティックを上げたとき、ドローンはゆっくりとその重たそうな機体を浮遊させた。驚いたことに、音がほぼ感じられない。


「通販でポチった割には優秀だね。音が(ほとん)どないというのも売り文句だったけどねぇ。お値段以上、優秀優秀。まるで我輩のようであるな」


 そのままの高度を維持しながら、マンションの屋上敷地から飛び出ていったかと思うと、落ちていくように機体は高度を下げていく。


 すると、コントローラーの中央に、ある部屋のベランダが映し出されているようだ。


「うんうん。予想通り。これくらいの階になると、警戒が緩くなるもんだねぇ?」


 このマンションの最上階は二十階。こちらでは、高層マンションの部類に入るだろう。高層階だからか、ベランダの手すりはそれなり以上に高く設定されているようだ。


 ベランダから見えるガラス窓にはカーテンがかけられてはいるが、光は一切漏れていない。この男が言うように、おそらく家主はまだ帰宅してはいないのだろう。


「右隣りも、左隣もまだ帰ってきてないみたいだね。ドローン三号君、元の位置に戻ってきてよし。うんうん、これも予想通り。男物のトランクスで三方を囲んで、その中には女性用下着(おたから)が干してある。向かいのマンションもこほど高くない。だからこんなことしても意味ないんだけど、気持ちの問題なのかねぇ?」


 ドローンが裏側に回ると、そこには数枚のショーツとブラジャーが干されていた。男は画面をじっと見ながら、ぶつぶつと何かを呟く。


「ん? これはあれだ。SS社製の最新インナーの上下。他のもSS社製、こだわりだねぇ。それならうん、……これくらいかな?」


 男は中元歳暮に使用するのし袋を取り出して、額面一万円の有名百貨店で使える商品券を複数枚。おそらく五枚以上は入れている。


 それをリュックに詰め込むと、綺麗に磨いてある非常階段のカバーに、大きな吸盤のようなものを取り付けた。そこにしなやかで、強靱なロープをとめていく。なかなか胴に入った結び方。おそらくは何かの経験者なのかもしれない。


「体長、突入いたします――おっとぉ、これはしまった。俺一人しか、いなかったんだよねぇ」


 身体につけたカラビナにロープを通すと、何のためらいもなく屋上の際から落ちていく。すると苦労することなく、二十階の部屋へ到着する。


 男は、洗濯物として吊られている下着に両手を合わせて祈りを捧げている。


「俺のために、ありがとう。本当に、ありがとう」


 何を勘違いしているのかわからないが、感謝の言葉をかけている。吊られている下着にだ。


 男は手術で使うようなゴム手袋を両手に填める。慣れた手つきで物干しから下着を外していく。外したものは大きめのリュックに入っていた綺麗な白い布の袋へ入れていく。それも個別に。丁寧に、美術品でも扱うようにリュックへ、またリュックへ。


 全て外したあと、あらかじめ用意していた商品券の入ったのし袋を、洗濯ばさみに挟んでいく。四カ所くらい挟んだだろうか? その表側には『ごちそうさまでした』と印刷されている。


「さて、欲しいもの(おたから)も手に入れましたし、ささっと戻りましょうかね」


 慣れた手つきでロープを使い、元いた屋上へ戻っていく。ロープを回収し、吸盤も、ドローンも回収。


「さてと、家に帰るまでが遠足――」

【残念ですが、そのまま帰すわけにはいきませんね】




不定期連載の予定ですが、新作ですのでどうぞお付き合いくださいませ。

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