デートもかかせないよね
小洒落た店を見つけて来ては私を誘い、周囲に見せつけるかのように振る舞いながらもあの男は満足そうに私をエスコートしつつ戸を潜りそして私を振り返った。
たまには外食もしようとそうしてサプライズするかの如く茶目っ気溢れる姿と顔で訪れたそこは確かに。若者には人気のありそうな雰囲気の食事処だった。
店主にも一番人気のあるメニューを出してほしいなどと宣う辺り子どもだとつくづく思うも口には出さず愛想笑いで窘め、しかしそれに怒るでもなく大人な対応で陽気に応える店主に息をついた。
並べられるのは貴族らが好むような宮廷料理とはかけ離れた……。だがしかし野性味もありつつそれなりに食欲唆る匂いと見た目をした料理だ。
庶民には手に入れづらい香辛料もそこそこに使われているとも感じられる。
ならばワイルドな見た目は兎も角として味や品質は保証されるのであろう。そもそもこの男が駄目なものと判断を下すようなものを私に差し出す筈もない。
席についてからだいぶ経つのもあり空腹であるのは変わらないのだから、まずは試しと一つナイフとフォークでその肉料理を切り分け恐る恐る口にした。
「……美味しい」
下手をすれば食中りか病に倒れ急逝かなどとの考えとは裏腹に深い味わいに舌鼓を打ち何故これがこのような味になるのかと頭を働かせた。
そんな私をよそにいよいよこの男は得意気な顔をしてにんまり笑う。
「ここの店主は外の国から来た人らしくて、色んな国に赴いて料理について学んで来たんだって。だからこの国にはないような斬新な料理も数多作れるって自慢してたから連れてきてあげたくて」
喜んでもらえたなら良かったとイタズラが成功した子どものように純粋に喜ぶ姿に目を奪われるも。
「他国では珍しい肉を使う事もあるんだって。……タンジーも知ってるけど、口にした事まではないようなそんなお肉」
「それはまた意味深ですね」
「ふふふ、知りたい?」
「遠慮しておきます。もしとんでもないものを食べさせられたと知れたら倒れてしまうかもしれませんし」
それにどうせ私の嫌がる顔も驚いたり青褪めたりする顔もこの男をただ喜ばせるだけだと知っている。
そう言外に含めればそれでもこの男は目を細め、笑みを深くした。
「僕、やっぱりタンジーみたいな頭も良くて聡い人好きだよ」
「聞き飽きましたよ。その言葉は」
そこらに満ち溢れ、目にしない事などない肉。さて。どんな動物の肉の事だろうか。答えを聞かなければ私もそれを知らず済む。
口内に残る肉の旨味を飲み下し。皿を空ければ直ぐにウェイターのような者が現れて回収していき他の酒やデザートへと移り変わっていくのにつられて話題も変わっていく。
次第にそんな怪しげで危険な話からも遠ざかり次の遊び相手やプレゼントの大まかな説明を受け、欠片も思い出さなくなるのも仕方のない事である。