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僕のタンジーは賢いので  作者: アロエ
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貢ぎ物



赤銅色の鳥は満足できるものだった。盗賊だか山賊だかはどうでもいいので忘れたがお山の大将を気取り散々に罵倒や喚き散らす癖に少しの揺さぶりや軽く痛みを与える器具でも怯え、呆気なく仲間を売り、命乞いの真似をし許しを乞う。


大の男が小便を垂れ流し目の前の部下だった者も失望するくらいの情けのない奴。


こうして華奢な作りの体を選ばざるを得なかった女性たる私にも慈悲をと都合の良い事を宣うのだから、まったく我が婚約者は私の好みをわかりきっているとしか思えない。


まだ自身でどちらとも決めかねていた。まだ先の事だと高をくくっていた私が他人の意志で性別を決めざるを得なかった。その蟠りを抱えて元よりの性癖と合わさって私の性格や本性を捻じ曲げさせている。


――男である癖に。男としてそこにある癖に。羨ましい。妬ましい。恨めしい。


そう言った重い感情を。恐らくは知り得ているのだ。だからガス抜きや詫びも込めてのこの貢ぎ物なのである。



「タンジー、楽しかった?」



ひょっこりと地下より上へと階段を上り戻ればそこにはあの男が手持ち無沙汰に壁に寄りかかって待っていた。


足下には暇つぶしに捕まえ毟ったらしい虫の翅が複数と頭部やその他のものがバラバラと落ちていて私のしてきた事と似通うなと微かに頭に浮かべかけ、まさか私がそうしていると予測を立て同じ事をしようとしたのではなどとも思い至ってゾッとした。


何から何までお揃いじゃなきゃ嫌だなど子どもの頃は宣っていたとして、今でさえ同じ思考なのか。もしやそこまで気色の悪い奴だったのかと鳥肌が立つもあの男は変わらず私の様子に目を瞬いては眉を下げ首を傾げた。



「どうかした?顔色悪いよ?あの鳥に何か変な言われた?」


「…いえ、何でも」



内心を口にしては角が立つ。ぎこちない笑みも隠し通す。そうして笑んで誤魔化していれば目を瞬かせながらも徐ろに左手を上げ、私の頬へと触れて擦り取るような動きをしつつ言った。



「そんなに楽しかったなら良かったけど……。よし、取れた。これで多少は綺麗になったよ。あとは家で顔を拭いてもらうなりしてね」


「ああ……。はい、それはどうも」



先程の遊びで飛んだ何かが付着していたらしいのを取ったのだとその言葉で初めて至り、息を吐く。


恋は盲目だなんだとは確かに言うがそれでも相手は王族だ。多少なりとも気を使わなければと思うのも不敬罪とならないかと警戒しなければならないのも苦痛だ。


加えて私はこの男に対し恋慕の情は持ち合わせていないのだ。故にどれだけ想われようが何にもならない。


だがそれでも。この男は私がいいのだと宣う。



“タンジーは僕の後ろ盾あるし好きに振る舞ってくれていいんだよ。事件も揉み消せる自信あるし、したい事も見たいものも見せてあげられるし。必要とされてると僕も安心するから”



ギブ・アンド・テイクではないが、繋ぎ止められるだけの要因やステイタスがある事で私があの男を見限らず捨てるに惜しいと悩むくらいの存在であれば御の字である、と。そんな事すら伝えてくる始末。


王族と言う箔のつく地位。そして権力。財力に……。本当にこの男はと呆れかえるしかできないもへらへらとしたその笑みでまたエスコートしようとする仕草を見て取り慣れたようにそれを受け入れる。


生臭い場所を後にして次はどこへ行こうかと冗談を言いながらも私の家の馬車へと私を乗せては手を振り見送る。


また近々手紙も遣いも送るからねと相も変わらず甲斐甲斐しい様を見せつけて。


そこにはきっと胸焼けのするような甘いフレーズやご機嫌伺いの言葉が並ぶだろうと予測をたてながらも私は大きく溜め息を吐き出した。



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