4話
彼女の話を聞きながら、ふと僕はこの話の内容が自分にも当て嵌まるのではないかと考えていた。誰でも気づきそうな事だが、当事者は気づけない。けれど第三者は気づける。これに僕が該当しているのなら、それはどんな事なのだろうか。僕のやりたいNewTubeに関係している様な気がするけれど、この時の僕はまだ自信を持って、これだという事を断言するのは難しかった。
「うんうん、どうやら何か分かった様だね。でも確信的な事には辿り着いていない。そんな所かな?」
彼女は僕の顔を下から覗き込むように言った。
「そう……ですね。僕の中でまだ話を理解しきれていないと言うか、いや、理解自体はしていると思うんです。でも何というか表現が難しいです」
「確かにこれは誰にでも当て嵌まりそうな事だからね、無理もないさ。でもそれを考えるのはこの先の話を聞いてからでも遅くはないさ。」
「この先の話?この『東京都と埼玉県』はAくんの話じゃないんですか?」
「ふふふっ、この話にはまだ、続きがあるのだよ模夢漢くん。この次の話の登場人物は────Bくんの話だっ!」
彼女はキメ顔でそう言いながら、ピースサインをしていた。
まぁ、何というか、もう既にAくんの話はある意味完結している訳で、これ以上話す事は無いのだろうし、多分他の登場人物が出て来るであろうとは思ったけれど、やはりと言うべきか、なんと言うべきか、少し安直過ぎやしないだろうか。多分そう思った理由としては彼女が無駄に壮大なフリをして、無駄にキメ顔と決めポーズをしたせいだろうと僕は思う、いや、そうだ。
「あの…不可思議さん、キメ顔でピースサインしてる所悪いんですが、Bくんの話はどんな話なんです?」
彼女の壮大なフリに対し僕が何も無かったかのように問いかけると、彼女少し不貞腐れていた。
「模夢漢くんはだからモテないんだっ!だからモブなんだ!モブ男なんだ!モブキャラなんだ!」
これは酷い言い草である。まぁ、確かに僕がモテないのは事実なのだが、それはそれとして、僕の名前は模夢漢である訳で、決してカタカナのモブでもなければ、モブ男でもない。もし僕がモブ男なんて名前だったなら、それは完全にアニメの中のキャラクターであり、つまりモブキャラなのだ。そんなどこの誰だか分からないモブキャラの物語を掘り下げて誰が見たいと思うだろうかと、そんな事を考えていた。
多分、何でも知っている彼女なら今こうして僕が考えている事も全てお見通しなのだろう。とはいえ、流石に彼女の『壮大なボケ』が2回目ともなれば、スルーをする方が失礼と言うものだ。じゃあ僕がどこぞの漫才師の様に華麗なるツッコミを入れるかといえば、それはまた別であり、そもそも僕はそういうキャラでもない。そういう訳で今回もまた、前回と同じ様に僕は只何も無かったかのように言葉を返す。
「──いえ、僕の名前は模夢漢であって、モブでも、モブ男でもなければ、モブキャラでもないです」
そんな僕の言葉に対して、不可思議さんは口を尖らせていた。それはまるで子供が拗ねてるような感じだ。
「模夢漢くんのばか、バカ、馬鹿。もう知らないっ」
やれやれ。
これは参った。完全に僕は彼女の機嫌を損ねてしまったらしい。まぁ、これは無理もない。2回もスルーされた挙句、外の気温はこの通り暑い。はっきり言って僕は何故こんな暑い日に真っ昼間から公園のベンチで長話をしているのだろうと思ってるくらいだ。いくら日陰と言っても暑いものは暑い。
そうはいっても、このままの状況は非常に良くないわけで、取り敢えず場所くらいは移動と思った。
「所で不可思議さん、場所移動しませんか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
無視。
これは相当に怒っている様子だ。
「ここ暑いですし、ほら近くにカフェがあるんですよ。そこに行きましょ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「──あぁ、そうだ、話のお礼も兼ねて僕が何か奢りますよ」
「────パフェ」
「────えっ?」
「───あそこのパフェ。」
「───パフェ?」
「期間限定の超スーパーいちごストロベリー苺パフェ」
何だって?いちごストロベリー苺パフェ?
僕はその名前を聞いた瞬間、この製作者はどういう感性でこのネーミングをつけたのだろうと思った。ただスーパーを2回、いちごを3回繰り返しているだけではないか。──流石にこれにはツッコミを入れようと思ったが、さっきの手前ここでツッコんでしまっては、ややこしい事になると思い僕は黙っていた。
取り敢えず、一つ分かった事と言えば、彼女はそのパフェを食べたいということである。なら、取る行動は一つだ。
「いいですよ、そのいちごパフェ僕が奢ります」
「───本当に!?」
何故だろう。さっきまであんなに流暢に物事を語り、私は何でも知っていると言っていた彼女に対し、僕は尊敬の念を抱いていたのだが。もしかしたら、それは大きな間違いだったのではないかと思い始めている僕がいる。
だが、よく考えてみればというか、よくよく考えてみればというか、まぁ、彼女も20代後半くらいな訳で、年頃と言えば年頃な訳で、こういう一面もあってもおかしくはないのだろう。
と言う訳で、彼女にはもう一度謝罪をして、その期間限定パフェとやらを奢る事を条件にカフェに移動したのだが。
おいおい、嘘だろ。その期間限定の超スーパーいちごストロベリー苺パフェとやらの値段を見た僕は言葉を失った──────。
3980円。これは僕の予想以上に高かった。
そんなこんなで彼女はお望みのパフェを食べ終わり、満足げな彼女に対して僕は350円のコーヒーを啜っていた。