2話
「全くあいつらときたら、アドバイスを貰おうにも頓珍漢なことばっかりじゃないか。本当に起業とやらをしているのか?僕が答えて欲しい事を何一つ答えれないじゃないか」
全くどうなっているんだか。
時計を確認すると時間は12時を回っていた。
「やれやれ、やる事は決まっているものの、やり方が決まってないのであれば元も後もない。てことで、こういう時は1度外に出て気分転換でもしに行くとしよう。」
──────────ガチャ。
暑い。熱い。厚い。あつい。ん?今何かが、違ったような…。
外の気温は36℃で、セミが至るところでコンサートを開催している。
もしかしたら、僕は何かを間違ったのかもしれない。こんな暑いのに外に出るとは疲れているのだろうか?と思いながら、自転車に乗りペダルを漕ぎ始めた。
かれこれ、どれくらい走っただろう。いやもはやどれ程の時が経過したのだろうか。もしかしたら僕は既に4時間くらい走っているのかもしれない。そう思わせるほど僕の身体は疲れ果て汗だくになっていた。
「しっかし、外は本当に暑いなぁ。そこの公園でひと休みでもするか。えっと、自販機は……あったあった。」
僕は自販機で緑茶を買い、日陰のベンチに腰を下ろした。時間を確認したところ、驚く事なかれ家を出てから30分も経っていなかった。
「こんな所に公園なんてあったんだなぁ。あまりこっちの方には来ないから新鮮だなぁ」
そう思いながら辺りを見渡していた。何の変哲もない公園だ。滑り台、ブランコ、シーソー、砂場などなど、遊具がちょこちょことある。だが、この気温のせいなのだろうか、人は僕1人だけだった。
───────やぁ、久しぶりだね。
その声は突如、隣のベンチから聞こえてきた。
「えっ…あ、えーと。」
僕は困惑した。
「なんだい?もう忘れちゃったのかい?もしかして、この前会ったばかりなのに思い出せないのかな?」
ん?この前会ったばかり?そもそも僕はこの人とあった事があるのだろうか?いや、果たして面識があったのだろうか?
「私は君の事を知っているよ。模夢漢くん。この前ほら、会ったじゃないか、私みたいな綺麗なお姉さんを忘れるとは傷ついちゃうなぁ」
この前。この前とはいつの事だろうか? 今日の事だろうか。昨日のことを言っているのだろうかと考えながら僕は彼女の姿を見ていた。見た目は20代半ばくらいで美人のお姉さんって感じなのだが、こんな人を覚えてないなんて事はあるのだろうか?
「まぁまぁ、細かい事はいいじゃないか。男の子がいちいちそんな事を気にするものではないよ。」
「は、はぁ………」
「だってもう君は、私と会ったことを思い出しているじゃないか。どこで会ったのか。いつ会ったのか。私は誰でどう言う人間なのか。そんな事はもう知っているはずだよ?模夢漢くん。」
そうだ。確かに────僕はこの人を知っている。いつ、どこで出会ったかは、はっきりと覚えてないが、確かに知ってる気がする。確か名前は────そうだ。
「不可思議知穂さん」
「そう!そうだとも。思い出してくれて、私も嬉しいかぎりだよ。ところで模夢漢くん、君は何かに悩んでいるんじゃなかったのかな? 確か───何だったかな。 あぁ、そうだNewTubeの事でだよ。 君は今流行りのNewTuberって奴になろうとした。 けれども、やり方やどの様に進めて行くかが決まっていなくて、友達に電話で聞いたのだけれども、頓珍漢な解答しか返ってこなくて、家でじっとしていても、しょうがないから、そこら辺でもブラブラしようと思ったりしてなかったっけ?」
「はい───その通りです。」
あれ?僕はいつ今日の出来事をこの人に話したのだろう。
「いやだなぁ。ついさっき話したじゃないか。もう忘れちゃったのかい?夏の暑さのせいなのかな?」
ついさっき……あぁ、そうだ。
確かについさっき話したような気がする。でもなぜだろうぼんやりとしか思い出せない。やはりさっきの自転車で疲れているのだろうか?
「いやぁー、しかし今日は暑いね。これは確かに記憶が曖昧になるのが分かるよ。私だってどうここに来たのか思い出せないくらいだ。 それはそうと模夢漢くん。 君は何か相談をしたかったんじゃないのかな? そんな時にベストタイミングだったね、不可思議お姉さんは何でも知っている、だから君の悩みにも協力できるかもしれないね模夢漢くん」
そうだ、この人にも相談してみよう。
もしかしたら何か解決できるかもしれない。
「おや?その顔は──なるほどね、何も言わなくてもお姉さんにはわかるよ。 さて、そんな君にはこの話が良いだろう。君は『東京都と埼玉県』と言う話を知っているかな?」
「東京都と埼玉県ですか?」
「そうさ、東京都と埼玉県さ」
そう言うと彼女は物語を語りだした。
「───ある所にAくんという人が居たのさ。Aくんは東京都という場所に行ってみたいと思っていた。そんな事を考えていたんだ。
そんなAくんの周りの人達も東京都に行ってみたいと言っていた。何しろ東京都は凄い所らしい、色んな物があり、色んな人がいて、色んな事が知れる、そんなところらしい。
そんな時にZくんという子が東京都に行って帰ってきたらしい。
皆はそのZくんの所へ話を聞きに行った
───そしてZくんはこう言っていた。
『東京都はね、──────な所なんだ』
皆は話に聴き入っていた。 なるほど、東京都はそんな凄い所なんだと。 そして、それを聞いた人達は強く東京都に行きたいと思ったのさ」
「さて、ここで質問だ模夢漢くん。 もし君が仮に東京都に行こうと思ったら何をするだろうか?」
「えっと……まずは東京都の行き方を調べると思います。 どう行くか分かりませんし」
「うんうん、そうさ、まずは行き方を調べるだろう。 もしかしたら家から東京都までは遠いかもしれない───それなら時間はどれくらいかかるのか?───もしかしたら行くまでにお金が掛かるかもしれないし───もし掛かるなら、それはいくらなのか?───そもそも、何で行くのか?歩き?自転車?電車?飛行機?色んな交通手段だってある」
「まぁ、たしかに。 いろんな選択肢があると思います」
「よし、もし君が行くならどうするだろう?」
「そうですね、もし行くなら、僕は色々調べてから行くと思います。 なんなら東京都はどんな所なのか?着いたら何をするか?とかそんな事も考えたりすると思います」
「うんうん。 良い事だ。 君は計画的な人間のようだ。なるほどね─────でも不思議な事に、この世の中の人間は君みたいな人ばかりじゃないんだよ────そうだねぇ、もしかしたら何も考えないで行く人もいるかもしれない。 例えば東京都がある場所は、あそこらへんらしいと聞いて特に明確な場所は知らなけれど取り敢えず行こう。 そんな人も世の中にいるかもしれない。 そんな人について君はどう思うのかな?」
「それは……なんというか無謀というか。行き方とかも何も分からないのに、どう東京都に行こうとしてるのかわかりません」
「そうだね。 確かにその通りだ───もしかしたらその人は東京都に向かってるつもりが、間違って埼玉県に行ってしまうかもしれない。 よし、ここで2個目の質問をしよう。さっきのZくんの話を聞いていたAくんは東京都へ行きたいと思い、急いで東京都に向かった。だが残念な事に着いたのは埼玉県だった。だけどこれまた不思議な事にAくんは自分が着いた場所を東京都だと思いこんでいる。こんな事ってあり得るのかな?」
「それは難しいと思います」
「なるほどそれは何故だい?この場合まず条件として、Aくんが東京都はどんな場所か知らなくて、同じく埼玉県もどういう所なのか分からない。そして場所はあの辺らしいと言う情報だけで向かった。そして、着いた場所は話しに聞いていた通り凄いところだった。まぁ、この場合の正しく言い換えるなら、『Aくんにとっては』凄い所だったと言う所かな───でも、この場合Aくんは埼玉県を東京都と思い込んでも、何も不思議ではないんじゃないかな?」