短編ホラー小説【追いかけてくる】
短編小説
【追いかけてくる】
これは、俺が大学生だった頃に体験した話。
大学二年の夏頃だった。馬鹿大学生の俺は、同じ馬鹿友達のA・B・Cと四人で足りない単位を取る為、折角の夏休みを講義に費やす日々でうんざりしてた。
そんなある日、Aが突然「ドライブ行こうぜ!!」と言い出した。
Aは俺たちの中で頭一つ抜けた馬鹿野郎だ。しかも、こいつが言い出したドライブには、それに輪をかけた馬鹿エピソードがあって俺たちは全員が顔を思いっきり顰めた。
以前、免許を取ったばかりで運転がしたいと意気込むAの誘いに乗って俺たちはドライブにいった。
そして早速に事故った。
事故の原因は、Aのわき見運転と危険運転。それ以来、俺たちはAの車には乗っていないが、Aはそれ以降も危険運転を繰り返して警察から大目玉を食らって、めでたく免停となった。
どうやらその免停が漸く解けた祝いに行きたいらしい。
「どうせ事故るから嫌だね」
「Cに同感。あんな運転繰り返してたらその内本当に死んじゃうよ?」
事故を体験したCはAの誘いを断固拒否し、Bは拒否しながらもAを友達として心配していた。かくいう俺は、どちらかと言うとCに同意だ。
「大丈夫だって!! あれから俺も反省したんだから! 流石にもう、おまわりさんにブチギレられるのは嫌だからな……」
そういってAは苦笑していた。
警察にブチギレられるってどんだけ危険な運転してたんだよ。俺たちはそんなAを見て呆れた。
不安ではあるが、中々に珍しいAの姿が見れたことで俺たちはAの誘いを渋々ながら了承することにした。
「で、何処に行くんだよ?」
「夏と言えば肝試しだだろ? だから心スポ巡りに行こうぜ!!」
その提案は、退屈を持て余していた俺たちの遊び心を簡単に刺激した。こうして俺たちは暫しの休息を謳歌するべく、心霊スポットを巡る旅に出た。
◇◆◇◆◇◆
この心スポ巡りは昼頃から始めて夜には帰る日帰り旅だそうだ。
「心霊スポットって夜に行くもんじゃないのか?」
助手席に座るCが運転するAにそう聞いた。
「そうなんだろうけどさ……夜にお化けが出る所行くのってさぁ、怖いだろう?」
「心スポってそう言うもんだろう!?」
本末転倒とはこのことを言うのだろうな。
あまりにしょうもない理由に車内はAへの情けなさに対する総ツッコミと笑いに包まれた。
Aの言う通り日中に訪れる心スポは、廃墟であれトンネルであれ思ったよりも怖く感じなかった。と言っても、人気が全く無くてシーンっと静まり返ってる廃墟とかトンネルは、昼間でもめっちゃ不気味だった。
でも、これといった心霊現象は全く起こらなかった。精々が心霊スポットの雰囲気を不気味がる程度だった。
それでも講義ばかりで退屈してた俺たちは大いに楽しんだ。
◇◆◇◆◇◆
気がつけば日はどっぷりと暮れ、辺りは夜の闇にあっと言う間に包まれてしまった。
「あぁ~楽しかったなぁ」
「良い息抜きになったよね。Aもちゃんと安全運転してたし」
Bの言う通り、今日のAは前みたいな危険運転もわき見運転もしなかった。
「そんなに怖かったのか、そのおまわり?」
CはAを揶揄うように言った。
「お前らも一回経験してみろよ! 俺、犯罪者であんな説教されたら百パー更生する……」
「そこまでかよ……」
「幽霊より怖そうだね」
Aの言う警官の説教、想像するだけで俺たちまで怒られてる気分になって来た。
スリルと涼みを求めての心霊スポット巡りだったけど、目当ての幽霊よりも今話してるAを説教した警官の方が、今日一番のスリルになったぽい。
そうしてこの日は終わってまた、いつもの単位取る日々に戻っていく、この時の俺たちはそう思っていた。
「なぁ、最後にちょっと寄り道して帰らないか?」
暗い道を走りながらAがそう言った。
「何々? 最後の最後に夜の心スポか?」
「でも、この近くにそんな所あったかな?」
今日巡った心霊スポットは、ネット検索で出て来た近場のものばかりで、その殆どは今日一日で巡り尽くした。それに近場と言ってもどれもが車で片道30分以上かかる場所だった。それに数もそんなに多くなかったから、一日で検索した近場の心スポは全て行くことが出来た。
だから、Bの言う通り既に帰り道を行く俺たちの道中にそんな場所はなかった筈だ。
「いや、別に心スポって訳じゃねぇよ。近くに霊園があって、その中を通り抜けられるようになっててな。噂も何もないただの墓地だけど、最後くらいそれらしい雰囲気味わってから帰ろうぜ!」
どうやらこれまでの心スポだけじゃ物足りなさを感じてるらしい。まぁ、俺たちもこのまま帰るのは味気ないかなって思ってたから、断る理由はなかった。
「よし! じゃ、レッツラゴー!!」
そういってAはテンションに反して安全運転でハンドルを切ってその霊園へと向かった。
◇◆◇◆◇◆
到着した霊園は、Aの言う通り墓地に囲まれつつ車道が通っていた。流石に墓石がある場所は柵で囲われてて夜は立ち入れない様になってるけど、それ以外は常時開放されてるみたいだ。
点在する街灯の下を通りながら俺は後部座席から外の景色をジッと眺めていた。
夜の墓場と聞けば不気味な雰囲気を感じそうだけど、この霊園は通り抜ける車用に街灯が点々と設置されているから、昼間に行った廃墟よりも怖いとは感じなかった。
「雰囲気あるかもって寄ったけど、全然だな。これなら昼間行った廃墟とかトンネルの方が雰囲気あったな」
ガッカリした感じ全開でCがそう言う。俺も同感だ。
今日一日は楽しめたけど、最後の最後で外れを引いちまったみたいだな。まぁ、ここは噂も何もないただの霊園だもんな。
そんなことを思いながらボケっと車窓から外を眺めていると、急に外の景色の動きが早くなった。
「ん? おいA、スピード上がってるぞ」
助手席に座るCがAを注意する。
Aの奴、今日一日安全運転続けてたけど、やっぱり完全にはその癖治ってなかったみたいだな。
でも、Cの注意を受けてもAはスピードを落とそうとしなかった。
Cの注意が聞こえてないのか? もしかして、運転に疲れて居眠りでもしてるんじゃないのか? 俺は不安に思いルームミラーに目を向けてAの様子を伺った。
そんな俺の不安に反して、Aはちゃんと起きて運転してるようだった。
でも、様子が何処かおかしい。
いつにもなく真剣な目で前方を凝視していて、ハンドルを握る手にも力が目一杯込められているのが、ルームミラー越しからでも分かった。
普段のAなら格好付けて運転中にハンドルは片腕でしか握らない。安全運転に努めていた今日も同じ感じで運転してたのに、今は両手でシッカリとハンドルを握っていた。
それだけなら眠いの我慢してるだけに思えただろうけど、Aの額には脂汗が浮かんでいて、体全体も小刻みに震えていた。
車の冷房はそんなに強くかけてはいないのに。
「おい、どうしたA?」
CもAの様子の変化に気づいて声をかけた。
「……」
Aは返事をしなかった。
車内に不穏な雰囲気が漂い始めた。
そうしている間もAはアクセルを更に踏み込み車のスピードを上げていった。
外に目をやると過ぎていく景色が早送りの映像のように見える程、車のスピードは上がっていた。
今のスピードなら確実にまた警察のお世話になること間違いなしだが、今のAにはそんなことを気にしてる余裕はなさそうだ。
「おいA!! 飛ばし過ぎだスピード落とせって!!」
スピードの上がりように危機を感じたCがAの肩を掴んで怒鳴った。
それでもAはCの言葉に耳を貸さず、只管ハンドルを強く握って運転に異常な程集中していた。
「マジでどうしたA?」
Aの異変に漸く気づいたCが、心配しながらそう聞いた。
「……後ろ」
何度目かのCの問い掛けで漸くAは答えた。
「後ろ? 後ろに何かあんのか?」
「振り向くな……!!」
振り向こうとしたCに対してAが初めて声を荒げて制止した。その剣幕にCは一瞬ビクッと怯んだ。今までこんなAを見たことがなかった俺も同様に驚いて固まった。
Aは俺たちの中で一番の馬鹿野郎だが、ガチでキレたことは今までなかった。いや、キレているというよりかは、酷く怖がっているように見えた。
その余りに鬼気迫る様子から、漂う不穏な雰囲気は一変。俺たちは、漸く自分たちが異常な事態の渦中にいることを痛感した。
「ん……ッ!?」
Aの怒声に驚いて固まっていたCだったが、Aがこんなに怖がるものの正体を見ようとルームミラーに目を向けた。
そしてそのまま固まって動かなくなってしまった。
だけど、その表情はAと同じで、恐怖に青ざめていた。
一体、二人は何を見たのか。
二人の様子を目の当たりにして俺まで怖くなっちまったけど、それ以上に二人が怯える正体を知りたい気持ちが溢れ出て来た。
俺が恐る恐る後ろにいる“それ”を見ようと振り返りかけた途端、Bが凄い力で俺の肩を掴んで制止して来た。
「駄目だ……!」
Bは俺の方を一切見ないで、まるで叱られてる子供みたいに俯いて体を強張らせていた。
その様子を見てBも二人同様に後ろの何かを見たのだということを俺は察した。
それで一瞬俺の動きは止められたが、それでも俺の好奇心は止められず、俺は目線だけで後ろにいる“それ”を確認した。
「ッ!?」
激しい怖気が一気に押し寄せ、俺は蛇に睨まれた蛙みたいに体を硬直させて“それ”から目が離せなくなった。
俺たちの乗る車が走る夜の霊園の車道。夜の闇が辺りを覆う車道の端っこに左右で交互に点在する街灯が、真っ暗な道に光の円を描いている。
でも、そんな光が届いていない道のど真ん中、一直線に伸びる影と蛇行する蛇の様にうねっている闇の中に“それ”はいた。
真っ暗な闇の中、白髪を振り乱した“老婆”が、俺たちの後を走って追いかけてきてた。
老婆が全速力で走って追いかけてきてるだけでも、相当怖いっていうのにそいつは、法定速度を超えて走る車の後を追いかけてきてる。
それも“笑いながら”。
しかもそいつは、徐々に車に迫って来てる。
近づく度にそいつの顔が鮮明になって来て、とうとう俺はそいつと目が合ってしまった。
眼球のない真黒な闇、夜の闇よりも深い奈落の底の様なそいつの目を見た瞬間、俺の心は限界を迎えた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「A飛ばせっ!!」
「おうっ!!」
そこからは法定速度なんてガン無視してアクセル全開で霊園を通り抜け、道順も関係なく無我夢中でその場から逃げ帰った。
◇◆◇◆◇◆
あれから一日が経過した。
あの後、俺たちは何とか奴から逃げきることができ、俺の家で一旦休憩することになった。
一通り落ち着いた所でAがポツリポツリと話し始めた。
「霊園に入ってちょっとした頃、つまんねぇって思ってお前らの退屈した顔でも見て気を紛らわそうって思ったんだ。けど、ルームミラーで後ろの席見た時、そのまま後ろの窓の外が見えたんだ。最初は、野良猫とかかなって思ったんだけど、よく見たら人間、みたいでさ。最初は、肝試しとかに来てる人だと思ったけど、俺たちの車追っかけてくるからちょっとスピード上げて振り切ろうとしたんだけど、どんなに上げてもアイツ、追いついて来やがって……ッ!!」
そこまで言ってAは黙り込んだ。
あの時の記憶を思い出してしまったんだろう。ガクガクを凍えているみたいに体を震わせて、そんな体をAは守る様に抱き締めて顔を埋めた。
そんなAに続いて、今度はBが話し始めた。
「多分、Aの次にアレに気づいたのは僕だと思う。Aがスピードを上げ始めた時、ルームミラーでAの方を見たんだ。そしたら後ろを見て驚いてるみたいだったから僕、振り返ったんだ。それで、アレを見ちゃって……。ビックリして固まってたら、アレと目が合って……。それで、アレがニヤって笑って……。走るスピードがどんどん早くなってきて……。僕、怖くなって……!!」
Bは俺より先にあの存在と目を合わせていたことに俺は驚き、それと同時にあの陥没してるような真黒な目を思い出し、背中に寒気が奔った。
「ごめん……! あれが追って来たのはきっと、僕と目が合ったからだよ……」
Bは責任を感じてるようで今にも泣きそうな顔で俺たちに頭を下げて来た。
でも、それは違うと俺たちはBを弁護した。
だってアレが追いかけて来てるのに気づいたのはAが最初だ。Bは偶々アイツと目が合っただけで、あの時俺たちの誰もアレに気づかなかったとしても、多分アレは追いかけて来たんだと俺は思う。
「た、偶々だよ偶々! そんなに深く考えんなって! それに俺たち心スポ巡りに行ってたんだぜ。最後の最後で本物と出会えたなんて寧ろラッキーって考えようぜ!!」
全員が怯えている空気をCがそう言って明るくしようとしてくれた。
Cだってアレを見ている一人。俺たちと同様に怖い筈なのに、皆を元気づけようとしてくれている。
そしてCの言う通りだ。
俺たちはスリルを求めて心霊スポットを巡ったんだ。マジで出るなんて思っていなかったけど、本物と出会えたんだから目的通りのスリルを味わえた。それに俺たちはこうして無事なんだ。
何も恐れることはない。
Cの言葉に乗って俺も場を和ませるよう助力した。そのお陰でAもBも少し笑ってくれた。
「でも、もうあそこには絶対に近づかない。いいな?」
場が和んだタイミングで最後にCはそう言った。
それには全員、文句も異論もなく賛成だった。今回は逃げきれたけど、次はそうなるとは限らない。
この話はこれ位にして、この日は気晴らしに酒盛りで朝まで飲み明かして嫌な記憶を忘れることに努めて終わった。
◇◆◇◆◇◆
あの日から数週間が経った。
飲み明かした次の日が講義だったことを忘れていて、めっちゃ焦ったこと以外は、特別変わったことはなかった。
心の何処かで心配していた様な、アレが俺たちの所に来るなんてこともなく、俺たちはいつもの日常へと戻っていった。
そんなある日、俺は一人自宅で惰眠を貪っていた。すると、スマホのバイブレーションが俺を夢の中から叩き起こした。
アラーム仕掛けたかなって疑問に思いつつスマホの画面を見てみると、Aから電話が掛かって来てた。
寝ている所を叩き起こされた俺の機嫌はすこぶる悪く、不機嫌全開の態度でAからの電話に出た。
下らない内容だったら直ぐに切ってやろうと思って電話に出たんだが、俺の耳に入ってきたAの声はとても真剣みを帯びていた。
「俺だけど、テレビ見たか? まだ見てない? なら早く見てくれ! 今やってるニュースだ!」
慌てた様子で矢継ぎ早にそう言われて、俺も慌ててテレビをつけてAの言うニュースを見た。
どうやらどのチャンネルでも今はそのニュースで持ち切りのようだった。
そのニュースの内容は、連続強盗殺人犯が逮捕されたというものだった。逮捕された犯人の男は、老人ばかりをターゲットにして一人暮らしの家に忍び込んで家主と金品を奪ったりなどの犯行を何件も繰り返し、殺人がバレないように遺体を隠して遺棄もしていた。先日逮捕され、今まで遺棄してきた遺体の居場所を自供したことで今日、その捜索が行われ自供通りに次々に遺体を発見したと報道されていた。
これの何処に見る必要性があるのか、Aが慌てる理由も分からず首を傾げていると、テレビに発見された遺体の身元写真が流された。
その瞬間、忘れていたあの日の記憶がフラッシュバックしてきた。あの日の恐怖と共に―――。
「俺はルームミラー越しだったから、顔まではハッキリと見えてなくて確証はねぇんだけど、お前とBはアレの顔、俺よりも近くで見てるだろう? だから、確認したくて……」
直ぐにはAに返答することは出来なかった。
テレビに映し出されている被害者の顔写真、その中の一枚に俺の目は釘付けになっていた。
テレビに映るその人は、優しく微笑むお婆さんで何処にでもいそうな感じの人なのだが、俺はその人に見覚えがあった。
“アイツ”だ。
あの夜、俺たちを追いかけて来たあの老婆だ。
画面に映るその表情を見るとアレとは別人に思えるけど、目と目が合ってしまった俺には分かる。間違いなくあの老婆だ。
突然のことで動揺して片言になっちまったけど、俺は同じ人だということをAになんとか伝えた。
テレビのニュースをそのまま見続けていると、どうやら犯人は俺たちと歳の近いあの霊園の近所に住んでいたフリーターの男で、お金に困って犯行に及んだらしい。
最初の被害者は霊園に遺棄されていたあの老婆だったようで、しかも犯人とは顔見知り、それに加えて怨恨を晴らす目的で老婆を殺害したらしく、金目の物を盗んだのはついでだという。
近所に住むその老婆に毎日小言を言われ続け、いつか殺してやりたいと思っていたことが、後日に放送されたこの事件の特番で報じられた。
当たり前だが、番組内で老婆がどういった意図で小言を言ったのかについては、触れられることはなかった。だから、あの老婆が善意で言ったのか悪意で言ったのかは、わからない。
でも、あの時見たあの老婆は、確実に悪意を持って俺たちを追いかけて来たのは間違いない。
別に確証があってそう思ってる訳じゃないけど、実際にアレと目が合った俺やBなら分かる。
あれは、早く自分を見つけて欲しいって感じで追いかけて来たわけじゃ無い。明らかに俺たちに危害を加えようとしてた。
もしかしたら、俺たちを犯人と間違えて追っかけて来たのかもしれない。だとした、あのまま追いつかれて捕まってたら、今頃俺たちはどうなっていたことか……。
まぁ、あくまでこれは俺の想像に過ぎないから、記者でも霊能者でもない俺には実際どうか分からない。
それ以来、俺たちの間じゃこの話題はタブーになり、あの霊園にも二度と近づかない様にして、俺は大学卒業と共に足早にこの地を離れて他県へ引っ越した。
◇◆◇◆◇◆
「久しぶりだね! 元気してる?」
引っ越してから二年が経った頃、Bから連絡があった。
どうやら仕事の関係で俺が引っ越した県にやって来たから、都合が合えば飯でも行かないかという誘いだった。
久々に友人に会えるということで、俺は二つ返事で了承した。そして早速、翌日の夜に居酒屋で会う約束をした。
二年振りに会うBはあの頃と何も変わってなくて、まるで学生時代に戻ったみたいに時を忘れて近況報告と思い出話に花を咲かせた。
「ところで、これを見て欲しいんだ」
宴もたけなわの頃合いにBが俺にタブレットを差し出して来た。その表情は、さっきまで酒を飲んでほろ酔い気分だった奴だと思えないくらい真剣なものに変わっていた。
その表情を見て俺も自然と表情が引き締まった。
差し出されたタブレットを恐る恐る覗き込むと、そこにはとあるウェブサイトが開かれていた。
真っ先に俺の目に飛び込んできたのは、“心霊スポットまとめ”というサイトのタイトルだった。
Bの奴、オカルトにハマってるのかと怪訝な視線を向けると、そんな俺の意図を察したのか、Bは「ここを見てくれ」とサイト内に記載されているとある一文を拡大して指差した。
目を凝らしてその一文を読んでみて、俺の酔いは一瞬で冷めた。
そこに書かれていたのは”老婆が出没する霊園”だった。
「風の噂で聞いたんだ。あの時行った霊園がちょっと前から心霊スポット扱いされて肝試しに来る人が増えてるって。まぁ、実際に殺された人が遺棄されてた場所だから、そんな噂が立つのも仕方ないと思うけど、ちょっと気になって調べてみたんだ。そしたら―――」
Bの話を聞きながら、Bがタブレットを操作する指先を目で追った。するとそこには、霊園で出る幽霊や起こる心霊現象について書の体験談が書かれていた。
曰く、殺された老婆の霊が恨み言を言いながら佇んでいるとか、鬼の形相で追いかけてくるとか、ラップ音がするとかなど有り触れた物ばかりで、実際に心霊体験をした俺たちからしたら出鱈目もいいところだ。
でも、その中の一つだけ―――。
『真黒な目をした老婆が笑いながら追いかけてくる。車で逃げても追いつく位の速さで走って襲ってくる』
あの老婆は、今でもあそこにいる。
この体験を聞いてくれた皆に俺は伝えたい。遊び半分で心霊スポットには行かない方がいい。だって、俺は心霊スポットじゃなくても幽霊に遭遇して危険な目に遭ったんだから。
皆は、俺たちみたいに逃げ切れるとは限らないからな。
~Fin~