公女暗殺
公女暗殺
「マリ姉さん、・・・ユリエを助けて・・・」
私は飛び起きて窓の外を見つめる。
扉をノックしてサーシャが現れる。
「転移します!」
アバロン島の南東側の海岸、砂浜に少女が打ち上げられていた。
治療魔法をかけ、暫く様子を見ながら海を眺める。
結界が破られた形跡は無い。
少女のステータスを鑑定で覗き込む・・・
「なる程、転生者・・・、ユリエ・・・」
「マリ様、どうかしましたか?」
「サーシャ、彼女は私の姪です。
邸に運んで看病をお願いします。」
「了解しました。」
数年前より黒死病が隣国で流行り始め、ランク王国でも徐々に患者が増え始めていた。
ランク王国宰相ウィル・ローエングラム公爵は、娘のリリアーヌ令嬢と共に対策に奔走していた。
王立学園も休みがちになり、この日卒業記念パーティーに何とか時間を作り参加出来る事になった。
「リリアーヌ、そなたとの婚約をこの時を以て破棄する!」
「殿下、婚約を破棄為さる理由をお聞かせ下さい!」
殿下は腕にマルハレータ子爵令嬢を抱き着かせ淡々と語る。
「お前にはどうしても欲情せん、王族の役目として子を為さねばならんがお前では無理だ!」
「その様な理由では納得しかねます。
しかも、王族の役目とは子を為すばかりでは御座いません、日頃から申し上げていますが、民のためにーーー」
「あぁ~~、もうよい!
お前なんぞ顔も見たくはない!
国外追放を言い渡す、警備、こやつを外へ引き摺り出せ!」
警備が困惑しながらリリアーヌに近付く
「必要有りません!」
リリアーヌは振り返ると自身の足で悠然と立ち去った。
公爵邸に帰ると暫くしてローエングラム公爵が帰宅し話し合いがもたれ、翌日改めて国王も交えて話し合う事にきめた。
その夜、リリアーヌは夢を見た、前世の夢を・・・
「お母さん・・・」
「ユリエ、困った時はマリ叔母さんを頼りなさい!
アサミ神聖王国の大聖賢者の元へ行きなさい!」
リリアーヌはそこで目が覚め、アサミ神聖王国を思い起こす。
確かアサミ神聖王国は、エリクサーやネクタルを製造していると噂が有りました、製造者は大聖賢者と呼ばれている人物・・・、まさかそれがマリ叔母さん?
慌てて着替えを行い、父の元へ、
「お父様、今回の騒動、そのままで!」
「リリアーヌ、そのままでとはどういう意味だ?」
「夢を・・・、夢を見ました!
黒死病の薬をアサミ神聖王国に探しに行きます。」
「何を・・・、そうか、それで『そのままで』と言う事か!
しかし、薬と言うのはあれで有ろう?」
「はい、エリクサーもしくはネクタルです。」
「一部ではまやかしと言われている、本当に有るのか?」
「分かりません・・・、しかし、前世の母が叔母を頼れと・・・、前世の叔母も腕の良い医師でした。」
「ん~、あては有るのか?」
「アサミ神聖王国の大聖賢者に会えと・・・」
「大聖賢者は5年前に暗殺されたはず・・・、実は生きているのか?」
「そうかも知れませんし、新に大聖賢者に就いた者かも知れません」
「分かった、直ぐに支度せよ!
陛下には殿下の処分を受け入れ、本日除籍の上、国外追放にしたと伝えよう」
「我が儘を言ってすみません」
「気にするな、このままではどうせ国は滅びる。
あ、これをアイテムボックスに入れて置け、足りなかった幾らでも用意する、エリクサーの購入費用だ!」
白金貨100枚を受け取りアイテムボックスにしまい馬車でアーブルの港へと走らせる。
アーブルよりアサミ神聖王国に向かう商船を探し交渉した。
アサミ神聖王国まで4~5日の航海日程で、キーンの港に到着する。 その後陸路でイルランドに1週間である。
「明日、朝8時には出航しますので、その時間までにはいらして下さい。」
「分かりました、宜しくお願いします。」
翌朝、指定の時間に船に乗り込むと、私の他に船員ではない一組の男女が乗り込んできた。
「申し訳ありません、私も乗船させて頂けませんでしょうか?」
「この船は貨物船だ、乗りたきゃ客船にしな!」
「取り急ぎサンプトンまで行かなければならなくて!」
「この船はサンプトンには行かないよ!」
「え、あ、ではこの船はどちらに?」
「キーンだ!」
「ちょうどよかった、俺はヨークに行く予定だったんだ!」
カップルだと思った男がそう言った。
「連れじゃないのか?」
「そんなわけないだろ!」
「ヨークにも行かないんだけどな?」
「キーンまで行けばヨークまで1日何便も船がでる。
問題無いだろ!」
「うちは客船じゃないから問題アリアリなんだがな?」
「船賃ははずむよ!」
「しゃ~ないな、今回だけだぜ!
乗ってくれ、出航だ!」
船長が私に近付き部屋までエスコートを申し出る。
断る理由も無いのでお願いする。
部屋に入ると小声で船長が告げる。
「嬢ちゃん、あの男には気を付けな!
あの二人は絶対連れだった、嬢ちゃんの後ろをつけて来たからな!
目的地の推測が外れたから、慌てて一人だけ乗って来たんだ、油断するなよ!」
「船長・・・、有り難う御座います。」
「いいって事よ!」
船長は振り向いて手をひらひらさせながら部屋を出ていった。
しかし、油断した。 次の日の夕方に男に海へ突き落とされるのであった。