歪められた真実と婚約破棄
歪められた真実と婚約破棄
アバロンに帰ってから一週間後、暗殺事件の報告をサーシャから受けていた。
「事件の黒幕はブランダーク公爵家嫡男アンドリュー、シュミット侯爵家嫡男メッサー、二人を唆したのがカーチス子爵家の庶子で王太子の浮気相手のメディナです。」
「王太子の婚約者は確かロールス公爵家の才女でソフィアでしたか?
ロールス公爵家には勇者パーティーも大変お世話になりました。
クズ王国で唯一の良識です。」
「王太子は現在の愚王を更に愚かにした人物と調査結果が届いています。
それを陰で支えているのがソフィアです。」
マリは顎に手をやり、少し黙考してから決断する。
「制裁は後回しでいいわ!
ロールス公爵家に返せる時に借りを返しましょう。」
私は直ぐに二通の手紙を認めサーシャに渡す。
一通はロールス公爵家当主に、もう一通はロールス公爵家令嬢ソフィアへ・・・
その日ロールス公爵家令嬢ソフィアは、王城での王妃教育と王太子の公務代行を終えて公爵邸に帰ってきた。
時刻は夜の9時頃、遊び呆ける王太子をよそに勤勉な彼女は現在この国の内政を支えている。
「お帰りなさいませ、ソフィアお嬢様!
御疲れのところ申し訳有りませんが、当主様が話が有ると言う事で執務室でお待ちです。」
「分かりました、直ぐに向かいましょう。」
コンコン
「旦那様、ソフィアお嬢様がいらっしゃいました。」
「入れ!」
執事が扉を開けてソフィアを部屋へ入れて外に出て扉を閉める。
執事のオーエンを外してまでの話なのか?
かなり切迫している様だ・・・
「話は長くなる、座って話そう!」
お父様がソファーに腰掛けてから向かいに座る。
「先ずはこれを読みなさい!」
手紙を受取り封蝋を確認する。
「賢者の刻印・・・、イタズラですか?」
「いいや、本物だ!」
「お父様、御冗談を・・・」
お父様の顔を見ると、冗談を言っている様子はなかった。
「そろそろお前も真実を知る時がきたと言う事だ!
アサミ神聖王国の勇者伝承は存じているな?」
「はい、我が国の伝承とは似て非なるものです、特に勇者送還のあとはまったくの別物です。」
「どちらが真実だと思う?」
「分かりません、伝承とは時にお伽噺のように話が大きくなったり歴史に埋もれたり、権力によりねじ曲げられたりします。」
「大きくならず、歴史に埋もれず、権力にねじ曲げられなかった伝承がアサミ神聖王国の伝承だよ!」
「お父様なにを言っているのですか?
アサミ神聖王国の伝承だと勇者送還は行われなかったどころか、我が国が勇者を処刑した事になります。」
「その通りだ!
勇者は送還ではなく処刑された。
正確には、聖女加納アサミと賢者阿倍マリを除いてだがな・・・」
「そんな・・・」
「今から2000年前、勇者を処刑する執行人にロールス公爵が立候補して指名された。」
「はぁ? 我が家の先祖はバカですか?」
「ソフィア、話は落ち着いて聴きなさい!
当時の当主は処刑執行のさいに勇者を逃がす算段をし、アバロン島に住む賢者に連絡して引き取りをお願いした。」
「と言う事は、勇者一行はアバロン島に逃げ延びたのですね?」
「いいや、勇者・剣聖・魔術師の三人は送還方法がない事を知り死を望んだ、当時のロールス公爵と賢者が懸命に説得したがかなわなかった。
最期の望みとして、賢者の島アバロン島への埋葬を願われ、賢者が遺体を引き取った・・・」
「・・・、我が国の歴史は大罪の上に築かれているのですか?
これ程ブリカン王国貴族に生まれたことを恥ずかしく感じたことは有りません。」
「私も初めてこの事実を知ったときにはそうであった・・・」
「その事を踏まえて手紙を読んで欲しい、差出人はアサミ神聖王国に認定された大聖賢者マリア様だ、本当の名を阿倍マリと言う」
「・・・分かりました、読ませて貰います。」
ソフィアは手紙を読んで息を吐く、世界観が一気に変わりこの国の滅び行く未来を見た。
手紙を読み終え天井を見上げてる・・・
「私は勇者式典のあと領地に戻り、国が滅んでも領地・領民を守れる様に対策をする。
最低でもブランダーク公爵家、シュミット侯爵家、カーチス子爵家には報復を確実に行うそうだ、民には影響が出ない様に配慮するとの事だが、元より悪政で貧民が発生しており、大量の難民が押し寄せるとある。
また、冒険者ギルドが王都から撤退する、領都ロールスに冒険者ギルド・ブリカン王国本部を置くそうだ!
忙しくなりそうだ、・・・ソフィア、マリ様の元へ行け!
最低でも食料支援は必要だが、食料はあっても適切な分配やその経路も必要だ、・・・悪いが当てにさせてくれ!」
「謹んで承りました。」
勇者式典の日、王太子はエスコートに来なかった。
やはり・・・、なのですね。 覚悟はしていたが、お父様は「賢者様の予測は保々当たる」と言っていた。
馬車に一人で乗り込み式典会場である王城で降りる。
馬車を降りると男性二人と女性一人が近付いてきた。
「マリ様の命を受け、本日のエスコート兼案内役の私スケサンと申します。」
「同じく護衛兼案内役のカクサンと申します。」
「侍女兼案内役のオシノです。」
「・・・伝説の・・・聖女アサミ様の従者・・・、あ、本日は宜しくお願いします。」
スケサンにエスコートされ会場に入りし、注目を集める。 奥に進むとまだ国王は入場しておらず、王太子がメディナを抱き付かせ側近のアンドリュー、メッサーと待っていた。
「ロールス公爵家ソフィア、その方との婚約を破棄する!」
挨拶もせぬうちから唐突にですか?
思わず笑みが溢れそうになるが、そこは王妃教育の賜物か耐えきった。
「了解致しました。」
一礼して、「スケサン・カクサン、参りますよ」と声をかけると「「は!」」と返され振り返って出口へと歩き出し会場をあとにした。