アバロン島に住む大聖賢者
アバロン島に住む大聖賢者
ブリカン王国の西海20海里に浮かぶ島、アバロン島。
この島には約300体のゴーレムと約20体のオートマータ、そして島外を往き来する約100体のホムンクルスが住んでいる。
島では多種多様な薬草が育てられ、貴重なポーションがブリカン王国ではなく、島の北方500海里にあるアサミ神聖王国へ出荷され、ブリカン王国からの反感をかっていた。
「マスター、ブリカン王国よりいつもの召還状が届きました。
来月の勇者記念式典に参加せよとの内容で御座います。」
侍女兼執事のオートマータ、サーシャが表情を変えず淡々と内容を語る。
「ねぇサーシャ、ブリカンは遺骨も無く冷遇して処刑した勇者に、今頃何を求めているのでしょう?
しかも当時の総てを知る私に上から目線とか・・・」
「歴史は権力者によって政治的に歪められますから・・・、しかも2000年以上も経ってしまえばこんなものかと」
当時の出来事を知るサーシャは呆れぎみに答えた。
ふっと息を吐き出し指示をだす
「いつも通りに処理して、あと、アサミの聖女神殿へ手紙を届けて!」
「了解しました。」
二週間後、アサミの聖女神殿を訪問している。
「大聖賢者マリア様、今年も聖女祭にご参加頂き有り難う御座います。」
「アサミさんの命日でもありますから、参加しない訳にはまいりません」
「大聖女アサミ様は偉大な方です。
現在でも信仰者は途絶えません、わたくしもその一人です。」
「大聖女ナタリー様、アサミさんを慕ってくれて有り難う御座います」
「ところでマリア様、最近ブリカン王国の王太子が「アバロン島は我が国の領土であり、厄災の魔女が不法に占拠し続けている」と吹聴している事をご存じですか?」
私は振り向き侍女のサーシャ、アサミさんの治癒行脚に付き添ったスケサン・カクサンとオシノのホムンクルスを見る。
「あの国の本質は、2000年以上経っても変わらないと言う事です。
勇者召還の際に交わした約定を無効にした挙げ句、人どうしの戦争に参加を強制して拒否されると罪人として処刑・・・
私とアサミさんは送還を願わなかったので褒賞を得ましたが、残りの三人は悲劇でしかありません!」
「今回の話はその褒賞も無かった事になりそうです・・・
イルランド王家もお怒りで、もし討伐が始まれば軍を派遣する用意があるそうです。」
「アサミ神聖王国が軍を派遣すると、ブリカン王国との全面戦争に発展するかもしれません!
それは私の本意では御座いませんので、自嘲するようにとお伝え下さい。」
「マリア様はそれで宜しいのですか?」
「これでも魔王を討伐した勇者パーティーの元メンバーです。
本気を出せばあんな国1つ簡単に滅ぼせますよ!
当時の勇者パーティー三人は、送還方法が無いと知り死を望んだから無抵抗で処刑を望みました。
これ以上私達を貶めるなら、あの国には滅亡して貰いましょう」
「その時は、何かしらの支援をさせていただきます。」
アサミ神聖王国は、元々は
イルランド王国といい、アサミさんが疫病で苦しむ民を救い聖女による医療を確立したことで、王家が国名を変更しアサミ神聖王国となる。
そう、魔王討伐でアサミさんが望んだのは今後のアサミさんへの不干渉と行動の自由。
私が望んだのはアバロン島の譲渡と私への今後一切の干渉をしないこと。
勿論それは、ブリカン王国が存在するあいだ未来永劫に保障する約定を結んだ!
その約定が破られたのはそれから僅か5年後、イルランド王国がアサミ神聖王国へと国名を変更した直後に聖女の返還を求めて開戦、戦況が悪くなると勇者三人に対して参加を求め拒否されると処刑した。
処刑を前に彼等を助けに行った私に彼等は最後の願いとして死を望んだ・・・
彼等の遺体は彼等の希望により私が引き取り、現在アバロン島の丘の上で埋葬されている。
「曲者だー!」
人混みから一人、ナイフを持って襲いかかってきたが、大聖女ナタリーの近衛聖騎士に斬り臥せられる。
間を置かず、今度は毒矢が飛んできて私の心臓に突き刺さる。
「きゃ~」
私はそのまま仰向けに倒れ、周りに人だかりが出来、警備隊が暗殺者を追っていった。
サーシャが側に来てしゃがみ、抱き寄せて耳元で囁く
「マリア様、暗殺者は5人組、一人は近衛聖騎士に斬り臥せられ死亡、それから警備隊によって弓士と魔術士が抵抗して死亡、回復術士が捉えられました。
逃げ延びた剣士はホムンクルスが尾行中です。」
私は寝起きの様に立ち上がり、心臓から毒矢を引き抜き証拠品としてサーシャに渡す。
「こんなもので殺せると思われていたなら、私も嘗められたものです!
しかも、アサミさんの眠るこの場所を血で汚すとは・・・、『浄化』」
暗殺者の血で汚れた床を浄化で綺麗にし、歩きだす。
「サーシャ、警備隊で捉えられた回復術士に話を聞きましょう!
皆様、聖女祭を続けて下さい、こんな下らない事で中止になったらアサミさんに申し訳ないです。」
警備隊本部に行くと警備隊総司令に出迎えられた。
「大聖賢者様、お体の方は大丈夫ですか?」
「問題ありません。
それよりも何か聞き出せましたか?」
「はい、あの者等はブリカン王国王都の冒険者ギルドの者でした。
依頼人は不明で冒険者ギルド長からの強制依頼だったそうです。」
「冒険者ギルドは要人の暗殺も依頼出来るのですか?」
「いいえ、冒険者ギルドはブリカン王国王都のギルド長を除名と規約違反ならびに冒険者ギルドを貶めた罪で反則金10億ポンドが課せられました。
他にも関わった者が多数いるらしく、ブリカン王国王都から冒険者ギルドは撤退することを決めたそうです。」
「逃亡した残りの一人ですが・・・」
「キーンの港で取り押さえる様に連絡してあります。」
「いいえ、警備体制は強化したままで、逃げられた様に擬装してヨークの港に逃がして下さい!
たぶんヨークの港にお迎えが来ているはずなので黒幕まで案内して貰いましょう」
「承知いたしました。」
「それで、回復術士とはお話し出来ますか?」
「取調も終わりましたので可能ですが、大した情報は持っていませんよ?」
「構いません、私はただの世間話をしたいだけですから」
回復術士だけになった取調室に扉を開けて入ると、狼狽えた様子で私を見た。
「や、厄災の魔女・・・、どうして・・・」
「厄災の魔女とは私の事ですか?」
「傷や病を治す島アバロン島を無断で占拠し、西海を荒らす厄災の魔女、貴女を葬らねばブリカン王国に未来はない!」
「だから私を暗殺しに来たのですか?
滑稽な・・・、そもそもアバロン島を私に譲渡したのはブリカン王ですよ!」
「そんなバカな! 証拠でもあるのですか?」
アイテムボックスより2000年以上前に交わした契約書を取りだし広げて見せる。
「これが2000年以上前にブリカン王と私が交わした契約書です!」
「2000年以上前・・・」
「そう、2000年以上前に魔王討伐の褒賞としてアバロン島を譲り受けた契約書です。
異論は有りますか?」
契約書を元に戻しアイテムボックスにしまう。
「2000年以上前・・・、魔王討伐・・・
貴女は誰ですか?」
「阿倍マリ、勇者パーティー最後の生き残りです!
厄災の魔女ですか?
あのクズ王国は何でもアリですね、人拐いに契約破棄、冤罪処刑に厄災扱いですか?
私を本気で怒らせたいのですかね?」
「・・・本当に・・・勇者阿倍マリ・・・ですか?
・・・伝説の?」
「なにが伝説かは知りませんが、勇者は根津サトルで私の職業は賢者です。
加えて言うと、今日は勇者パーティーの一人である聖女加納アサミの命日で、貴女方は彼女が安置されている聖女神殿で愚行を犯しました。
それを理解していますか?」
「それ何かの間違いです。
勇者パーティーは来月の勇者式典の日に元の世界に帰られたはずです!」
「ほほう、あのクズ王国は2000年以上もそんな嘘を伝えてきたわけですね。
召還は出来ても送還は出来ない、それが2000年以上前に出されたクズ王の回答です、『魔王を討伐すれば送還の儀式が行える』と魔王討伐をさせておいてね!
勇者式典の日は、クズ王に送還出来ないのに召還した責任を強く求めた勇者根津サトル・剣聖宮本マサムネ・魔術師黒井ミイサの三人を処刑した日ですよ。」
「そんな・・・」
「そもそもアバロン島は、ただ逗留しているだけで傷や病を治す場所では御座いませんよ!
あの島は処刑された勇者パーティーの三人が眠る場所です。
その場所を荒らすと言うのならば、私は全力でその国を滅ぼす。」
「・・・」
「ところで貴女の仲間の逃亡者、警備隊に頼んで監視だけして捕縛せずにこの国から出て行って貰う事になったわ」
「あ、有り難う御座います・・・」
「お礼は必要ないは、だってヨークの港に着いた途端にブランダーク公爵家の騎士団に捕縛され処刑されますから、態々この国が恨みを買う必要も無いでしょう。」
「え、そんな・・・、まさか?」
「当たり前でしょ、全てを知るアサミ神聖王国の地で勇者パーティーの最後の生き残りを暗殺したのですから、それを見逃してしまえばブリカン王国の歴史捏造が明らかになってしまうでしょ?」
「お願いします、仲間を助けて下さい!」
「何のために?」
「何のためって、人の命がかかっているのですよ!」
「私を毒矢で暗殺しておいて人の命が大事・・・、偽善も甚だしいですね!
それがブリカン王国に住む人々の本質、自己中・・・」
「・・・でも」
「話はこれで終わりです、総司令!」
扉から警備隊総司令が入ってくる。
「話は終わりました、あとはお願い出来るかしら?」
「お任せ下さい!」
総司令は二枚の書類を取りだし机の上に広げて説明する。
「貴女の処分ですが、暗殺者集団に同行していただけで警備隊も誰一人攻撃や抵抗をされてはいないと言う事で無罪、ただ不法入国に関しては国外追放の処置をさせて頂きます。
この処分内容がよろしければ、ここにサインを・・・
そしてこれが、道中の身分証明書ですので無くさない様にして下さい!」
このあと私は、静かに部屋を出た。
警備隊本部の入口には、イルランド王と王太子が待っていた。
「マリ殿、この後のエスコートは是非わたくしめに!」
「いえいえ父上、父上には母上のエスコートがあるではないですか、ここは私が!」
何時もの事ながら、ため息を一つ吐いて答える。
「王太子様、貴方も婚約者のマルガリータ様がいらっしゃいますよね?
私にはサーシャがおりますので、エスコートや護衛は要りません!
そもそも、私は不老不死ですから!」
このあと、何時もの年と同じ情景に戻り、聖女祭は終了してアバロンへの帰途についた。