ご褒美【夏樹③】
春斗とキスをしてから何分経っただろうか?胸の鼓動もやっと落ち着いてきた。
今日はこれからどうしよう?
「この後はどうしよっか?私の家に集まる?春斗の家に行く?ミハルの家に寄る?」
ミーちゃんの家は男性嫌いだというお母さんがいるから、私の家か春斗の家に集まる事になるけど、途中で一旦ミーちゃんの家に寄るか聞いてみる。
「ごめんなさい、私の家厳しくて寄り道とかできないの。ナッちゃん、もし良かったら私の母を説得するのを手伝ってもらえないかしら」
そうよね。
私や春斗の両親はかなり放任主義に寄っているせいもあるだろうけど、ミーちゃんのお母さんは男性嫌いなだけではなく、聞くところによると他のクラスメイトと比べても異常に厳しい。
シングルマザーの家庭だから仕方ないと、ミーちゃんは納得……というか諦めているような感じだったけど、ミーちゃんのお母さんに気に入られた私が説得すれば門限を緩めてもらえると考えているようだ。
「えーっと……春斗、どうしよう?」
今日は春斗とずっと一緒にいたいけど……。
「僕も手伝うよ、って言いたいとこだけど夏樹だけの方が良いみたいだね?」
春斗らしい配慮した答え、私と違って一時の感情に流される事があまりなくて、私にはそれがもどかしい。
「ええ……母は男の人が嫌いで、出来れば春斗くんともお付き合いしてる事は秘密にしておきたいの、夏樹さんの事は母も気に入ってるし一緒に説得して貰えたら上手くいくと思うわ」
「分かった、行って来なよ」
☆
電車に乗りミーちゃんの家の最寄り駅に着いたところで下車。
ここから徒歩5分程度でミーちゃんの家、ミーちゃんの家から徒歩10分程度の場所に私の家がある。
「結果は連絡するね」
春斗に手を振って見送るが、いつでも会えるのに別れは寂しい気持ちが湧く。
「春斗くんはあっさりと受け入れてくれましたけど、私達ともっと一緒にいたいと思わないんでしょうか?」
「春斗はね、優しい人なんだ、自分の気持ちより私や周りの人の気持ちや都合を優先してくれるの、それですれ違ったり失敗しちゃったりする事もあるけどね」
いつだったか私の両親と春斗の両親の会話で、ワガママを言わない手間のかからない子供だと春斗をそう評していた事があった。
逆に私はワガママを言って、私の両親だけでなく春斗の両親や春斗にまで手間をかけさせてしまっていた覚えがある。
春斗には自分がしたい事を言ってほしいと思うのだけど、春斗が自分がしたい事をあまり口に出さない性格になってしまったのは私のせいなのかもしれない。
「さっきはありがとうね」
「えっ?」
「私を悲しませないであげて、って春斗に言ってくれた事、本当に感謝してるの」
「そ、それは当然の事だから」
「ミーちゃんは私に何かしてほしい事はある?私のお願いを聞いてくれたし助けてくれたからご褒美あげる」
ミーちゃんも自分がしたい事をあまり口に出さないタイプみたい。
春斗との関係を進める為にもミーちゃんとの関係も進めておきたい。
「でも、母の説得を手伝ってほしいという私のお願いを聞いてもらってますし」
「それは3人で一緒にいる為に必要な事でしょ?ご褒美に含めなくていいわ、それともご褒美いらない?」
距離を詰めて、ミーちゃんの目を見つめながら問いかけると
「ハグしたいです、ギュッと抱きしめてほしい」
顔を真っ赤に染めたミーちゃんが目を反らしながらお願いを口にする。
「良いよ、おいで」
腕を広げて待ち構えた私にミハルが抱きついてきた。
春斗はこうしてくれたよね、と思い出しながらお互いの頬をくっつけて背中に両手を回し右手でミーちゃんの背中をさする。
「ミハルは欲が無いね、春斗がご褒美をくれるってなったら私は私の全てを春斗のものにしてってお願いするのに」
早く私を春斗のものにしてほしい。
これまで二度、夜這いをかけようとしたけど、春斗の体に触れるか触れないかの距離で私の体は動かなくなってしまって自分から襲うのは諦めた。
強過ぎる好きの感情と、嫌われたくないという想いが私を縛る。
春斗にミーちゃんをハグさせてあげたら、春斗は私にご褒美をくれるかな?
その先も……
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