お昼休み
「春斗、写メ撮ってよ」
「……あっ、うん」
夏樹とミハルがいつの間にか近くにいた。
視線が痛……あれ?視線が優しい?こちらを見てるクラスメイトみんな……全員じゃないけどほとんどみんなの表情が柔かい笑顔になっていた。
何かを諦めた表情、苛立ちを隠しきれない表情もあるが少数派だから気にならない。
あっ、ノッポと前髪がスマホを女子に取り上げられてら、堂々と隠し撮りした写メを消されてるんだろう、いわんこっちゃない。
「春斗くん、ありがとう、あなたのお陰でミハルと恋人になれたわ」
「春斗は私達のキューピッドだね」
あー、キューピッド作戦か。
「どういたしまして」
クラスメイトの拍手が鳴り響く。
ショートホームルームまでもうあまり時間が無かったけど、一生の記念に残る写メが撮れた。
てえてえ。
☆
ショートホームルームも終わり授業が始まる。
この学校は進学校でもなく校則も緩いので授業を受ける態度は人様々だ。
真面目に受ける生徒、教科書に落書きをしている生徒、厳しくない先生の授業では小声で談笑にふける生徒、寝る生徒。
良く言えば自由、悪く言ってしまえば教師に熱心さに欠けていた。
ちなみに僕は真面目に授業を受けている。
Fランで良いかなぐらいの感覚だけど、一応は大学を卒業しておきたい。
映像処理を学べる専門学校にしようかと両親に相談したら、大学に進学するように説得されて理由も納得出来たので受け入れた。
将来的には両親の勤めている、映像の作成や編集を中心に業務を請け負ってる会社に就職するつもりだ。
ざっくり言ってしまえばコネ入社である。
すでに実績もあるし、会社の宴会に行ったり社員旅行に参加した事もあって気安い。
ちなみに夏樹の両親も同じ会社で、夏樹も同じ道を選ぶと聞いている。
夏樹は僕と違って映像編集は出来ないけど就職に問題は無いだろう。
会社が発行しているパンフレットやイメージ映像のモデルとして既に常連なのだから。
一般向けの媒体に載った事はまだ無いから、世間的に有名人として認知されてるわけじゃないけど、それでもモデル料が発生している仕事だ。
と、まあ人生設計を組み立てているわけだけど修整を考えないといけないかもしれない。
昨日、彼女になったミハルの成績はつい最近の一学期中間テストの結果でも学年首位だったのだから上位の大学へ進学するだろう。
もし僕が上位の大学を目指す選択をするならもう今がギリギリだと思う。
それにプラスして僕らの事情は複雑だし、3人でしっかり話し合わないとなぁ。
☆
昼休みになった。
「春斗、お昼一緒に食べよ」
夏樹、ミハル、夏樹の取り巻きA、B、Cがあらわれた。
セミロングで大人っぽい雰囲気の人が高崎さん、ぽっちゃりしてるのが田中さん、眼鏡で優等生っぽいのが委員長、すまん名前忘れた、みんな委員長って呼ぶし。
「あれ?今日一緒に食べる日だったっけ?」
「今日は代わってもらったの」
「ああ、うん、え?男僕一人女子5人で食べるの?」
「新見くん、荒里くんも一緒に食べよ」
「はいぃ!」「はひっ!」
近くにいたノッポと前髪が返事をした、拒否権は無い。
あっても拒否しないだろうけど。
近隣の机と椅子を借りて集まると僕の左の席が夏樹で右の席がミハルになった。
「あれ?夏樹席代わろうか」
いや、夏樹とミハルは隣り合わせにならないと駄目じゃない?
変な勘ぐりされたら困るし、平穏な学校生活の為に設定守ろうよ。
「この席で大丈夫よ」
えっ?
「んん?有鬼堂さん席代わろう」
「この席で大丈夫ですよ」
ミハルも?
これ大丈夫なの?という気持ちを目に込めて他の生徒を見渡す。
「大丈夫ですわ」「大丈夫」「大丈夫よ」「いやおかしいでしょ」「ちょっ、おまっ!」
声に出さずとも意思は伝わったようで返事があった。
ノッポが5人から睨まれて石化してる、こわい。
「えっ?マジでこのまま食べるの?」
「あー、もう!ちょっとイタズラしたくなっただけだから、私と席代わろう」
夏樹がふくれっ面で席を代わってくれた。
それを見てクスクス笑うミハルがかわいくて席を移るのが惜しい。
と、そんな感じで右隣に夏樹、目の前が高崎さんという位置取りになった。
食事中は基本的に無言だけどたまに会話が挟まる。
「夏樹さんのお弁当美味しそう」
「ありがとうお母さんと一緒に作ってるんだ」
朝食とお弁当は僕の母とミハルの母とミハルとで協力しながら作ってる。
最近は両方の母親が忙しくて、冷食に頼りがちになってるから他の人の弁当とそんなに変わらないと思う。
「夏樹様は食事中も絵になりますわ」
「ありがとう、そう言って貰えると嬉しいわ」
「夏樹さんと春斗さんのお弁当そっくりですね?」
「幼馴染だからね」
幼馴染だったらお弁当似るよね?
「夏樹さんばかりに話し掛けたら夏樹さんが食べられないわよ」
「あっ、ごめんなさい」
ミハルの正妻力が強い。
「ミハルの好物ってこの中ならどれ?」
と、自分の弁当を見せながら聞く夏樹。
「えっと、そうですね、卵焼きが好きです」
「はい、じゃ、あ〜ん」
「えっ、あ、あ〜ん」
ミハルの顔が朱にそまる、そりゃ照れるよね。
周りの目がその様子に釘付けになってる、僕も含めて。
「春斗も、はい、あ〜ん」
「イタズラはもう良いから」
周りからクスクス笑う声がする。
僕達3人の奇妙な三角関係を、夏樹とミハルが恋人になった事以外は秘密にしようと決めた次の日から、さっそくこんな調子で大丈夫なのか?
でも完璧に隠すように行動すると、それはそれで寂しいかもしれない。
僕は不安になったけど、そこには嬉しさや楽しさもあって複雑な気持ちになったのだった。
(・ω・)ポイントが作者の餌になります。
良かったらブックマーク、評価くだちぃ。