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高嶺の花だったのは過去の話でしょ?  作者: 国見双葉
2章 元高嶺の花、失った青春を想い出す
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27話

「はあああああああああ」

集新社ビル近くの公園にて、鳥の鳴き声のようなため息が響き渡った。


「やあああああああああ」


珍獣の名は、相川薫。


「ぱわああああああああ」


彼女は今、自分のあまりの無力さに打ちひしがれて、知能レベルがニワトリ並みに下がっていた。


『僕、頑張ります。これからよろしくお願いしますね、相川さん』

『こちらこそ。私も、全力で頑張ります!』



あれから、一週間が経過した。


この一週間、私は宣言通り、全力で頑張った。

毎日朝から晩まで、ぎんがのために南雲先生のためにと働いて、家にいる時も、頭の中は仕事のことでいっぱいだった。


そして松井君は、私以上に頑張ってくれた。


ほぼ寝てないんじゃないかっていうくらい毎日巨大なクマを作りながら、パソコンの前で髪をむしりながらとにかくもがき苦しんでいた彼。


もがき苦しみ、もがき苦しみ、もがき苦しんだ結果。


南雲泰雲は、飛んだ。


いつものようにあのレストランで待ち合わせをし、向かったところ、どこにも居ない彼。


たまたま居合わせたミチヨさんに尋ねたところ、今日は一度も松井君を見ていないとのことだった。

ちなみにハルタくんは、今日も可愛かった。


嫌な予感がした私は、すぐにポケットからスマホを取り出す。


そしてこれは、数時間前の彼との電話でのやり取り。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「もしもし先生。私です」


『ああ。相川さん。こんにちは』


「こ、こんにちは。先生、今どこに・・・。てか、波の音がするんですけど、気のせいですか?」


『いや、気のせいではないと思います。僕いま、松島居るんで』


「松島って、青森県にあるあの松島ですか?上野発の夜行列車降りた時から~♪の」


『えっと、それは多分津軽海峡ですね。松島は宮城県です。歌、お上手ですね』


「ありがとうございます。いやあ、地理は苦手なもので・・・。で、どうして先生は宮城に?まさか、作品の舞台の調査とか?!」


『ただの観光です。現実逃避をしに』


「へ?」


『すいません。波の音がうるさくて聞こえませんでしたかね?ここへ来たのは、現実逃避をしに―――――――』


「いやそれは聞こえてるんですけど・・・現実逃避?」


『はい。想定内っちゃ想定内なんですけど、見事に何も浮かばなくて・・・』


「....」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――



という訳で、先生が今、遠く離れたと東北の地で日本三景を楽しんでいる間、私はちっこいこの公園で東京の殺風景な景色をぼんやり眺めてるのである。


一体、どうすればいいんだ。


確かに松井くんとはこの一週間で、二人で書けなくなった原因について真剣に考えたりもした。


だが、本人がずっと言っているように、そう簡単に原因が分かったら、まず自力で解決していることだろう。


そこに私程度の人間が加わったところで、状況が進展するようなことがあるはず無かったのだ。



松島かぁ。


日本三景ということくらいしか知識が無かったので、ググッてみると、どうやら牡蠣や海鮮丼など海の幸も絶品なところらしい。


ジュルリ。

いかんいかん。涎が。

そんな場合じゃないのに。



「スイマセーン。オトナリ、イイデスカ?」


結局それからしばらく松島の海の幸の画像を眺めいたところ、突然正面から片言の日本語が耳に飛び込んできた。


「うわ、すいません。サボってないです。サボってないです。サボってないです」



後ろめたさから、真っ先に謝罪の言葉を発しながら顔を上げる私。



するとそこには、私の座っているベンチから真っ直ぐ5mほど離れたところにあるシーソーの中央でバランスを取りながら立っている短パンアロハシャツでサングラス姿の麦わら帽子をかぶった男の姿があった。



四月の日本で、アロハシャツ...?


カンカンカン!これは危険!

格好からして、間違いなく不審者だ。



「オネエサン、サボッテンノ?」


片言の日本語を発しているが、見た目は完全に日本人だ。いや、ちょっと顔の彫りが深いから東南アジア系かもしれない。


でも、一つだけハッキリしていることは、彼は決してハワイ顔ではないということ。



「ベ、ベツニ、サボッテナイヨ?」


おいカオル・アイカワ。

なぜお主までカタコトになる。



グラサンアロハ(今命名した)は、シーソーから飛び降り、せかせかとこちらに近づいてきて、許可を出した覚えはないのに私の隣に座った。



彼の身体から、ほんのりとカレーの匂いがする。いや、そこはインドなんかい。


正直、今すぐここから逃げ出したい衝動に駆られたが、こういうタイプの男は、下手に刺激したら返って危険であると私の女としての長年の経験が語っている。


適当にあしらった後、理由つけてすぐに去ろう。

ああ、それにしてもカレー食べたくなってきた。



「オネエサン、ナニカナヤンデル。ミエル」


思わぬ会話の切り出しに、私はドキリとする。


「悩んでる?私が?」


「チガウ?」


「あ、はい。確かに、悩んでますけど..」


グラサンアロハは首を鳴らし、ドヤ顔で「BiNGO!」と言った。

なんだろう。謎に少し腹が立つな。


「ドンナナヤミ、カカエテルデス?」


「いやー。聞いても面白くないと思いますよ?」


なぜ見ず知らずの怪しいアロハに悩みを打ち明けないといけないのか。



「ナヤミ、ヒトリデカカエコムノ。ヨクナイ、オモイマス。ミーデヨケレバ、ハナシ、キク」


「えーっと...」


どうしようか。このまま何も言わなかったら多分一生会話は終わらないよな。


てか、よく見ると、格好がアロハであること以外は特に変わってるところは無いし、別に聞いて貰っても良いんじゃ...。



「実は最近、仕事で上手くいかないことがあって─────」


『上野発の夜行列車降りた時から〜♪』


私が話出そうとしたしたその時、グラサンアロハのスマホの着信鳴った。


「チョット、スミマセン」


ベンチから立ち上がり、電話に出るグラサンアロハ。



「もしもし。あーはい。今向かってる。うん、あと5分もあれば着くかな。うん。はい。あ、ごめん!土産忘れたわ。えぇ?別に要らない?強がんなって。来月またベトナム行った時に何か買ってきてやっから。ちょっと、何怒ってんの?!ちょいちょい!!あ、切れた」



通話が終わり、ゆっくりとこちらを振り向くグラサンアロハ。



あれ?この人、どこかで...。

てか、日本語喋れるやないかい。



「ゴメンネ、アイカワサン。チョットイソグカラ、サキ二ギンガモドッテルネ」


グラサンアロハは申し訳なさそうに両手を合わせながら、駆け足で公園を出ようとした。


「あ!」


思い出したように出口付近で足を止めたグラサンアロハは、再びこちらを振り返って首を鳴らした。



「ここでサボってことは、ちゃんと黙っておいてあげるから」


そう言って、段々と離れていく背中。


その背中に刻まれたアロハを見つめながら、私の記憶がハッと蘇る。


いつぞや見たインスタの投稿。

ハワイで水着姿の女と映っていた、あいつ。



「編集長じゃん。グラサンアロハ」



これが、私とグラサンアロハもとい奈良編集長の最初の出会いだった。

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