表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高嶺の花だったのは過去の話でしょ?  作者: 国見双葉
2章 元高嶺の花、失った青春を想い出す
27/35

26話

私は今、夢を見ている。


夢を夢と自覚しながら見る夢のことをなんて言ったけ?

うん。分かんない。でも、伝わるでしょう?(明晰夢です)


夢の中の私は、制服を着ていた。


コスプレではなく、現役バリバリの高校生の私。

うちの高校の制服は、全国でも洒落ていると評判のブレザー。


ピーチベージュのジャケットと、グレーとピンクを基調とした優しい色のチェックスカートが女性らしく、日本人女性のきめ細かい肌に馴染んで美しく見える。

もはや制服でうちの高校を選んだと言っていいほど、大好きなデザインだ。


今でもたまに部屋で着るくらいお気に入りの制服だが(さすがに27にもなって制服姿で外を出ると犯罪で捕まってしまうかもしれないのでそこは堪えている)、そんな制服に身を包んだ私は、男女問わず仲が良いクラスでも派手な部類に入る(今風に言えば一軍か)グループの中心で微笑んでいた。


どうやら場面としては、のちに大手不動産会社の営業として勤めることになるクラスのお調子者のA君が、いつものように馬鹿話をしてみんなを笑わせている最中のようだ。


そんなA君の話を聞くふりをしながら、微笑む私の意識は、クラスの隅っこで読書をしている一人の冴えない男の子に向いていた。


はっきり言って、居ても居なくてもクラスの誰もが気に留めないほどの空気人間である彼が友人らしき友人と話しているところを、私は見たことが無かった。


いつも一人で本を読んでいたり何やらノートに書き込んでいたりと、とにかく何を考えているか分からない奇妙な存在だった。



と、クラスや学年の誰もが彼に対してそのようなイメージを持っていただろう。


だからまさか、その奇妙な男が後の天才作家・南雲泰雲であるとは誰が予想できただろうか。


そんな彼をチラチラと見ながら、何やら葛藤する私。


入学式の日に起こったあの出来事があってから私はずっと、彼に話しかけようと機会を伺っていた。

しかし、いつも多くの人に囲まれている私が彼と二人きりになる状況などあるはずも無く、2年の時が過ぎ、高校三年になって、ようやく同じクラスになれたというのに、未だ私は彼に「おはよう」の一言ことすらもかけれずにいた。


三年間、他の誰よりも彼を目で追っていたというのに、彼をあまりに遠く感じる。


学年の誰もが私のことを知っていて、私が特に話しかけなくても、多くの人が向こうから私に近づこうと寄ってきて、仲良くしてくれる。

だから、私の周りにはいつもたくさんの友達がいた。


それなのに、私が一番話したい人には、声を掛けることすらも出来ない。


高嶺の花だった私に、知らない同級生に声を掛ける勇気というものは持ち合わせていなかったのだ。

彼と関わりたい想いが膨れ上がれば上がるほど、反対に勇気が段々としぼんでいく。

我ながら、情けない高校時代だったと思う。



最初は、彼に一言伝えたいことがあるだけだった。


けれど、そのタイミングを伺おうと彼をこっそりと見れば見るほど、私は彼に惹かれていった。


下校中、階段で苦労するおばあちゃんをおんぶして助けてあげてるところ。

休み時間、当番が前の授業の黒板を消すのを忘れていたら、黙って代わりに消してあげるところ。

昼食の時間、トイレに行くと偽っていつも教室から消える彼を探しに行ったら、図書室でKくんにお弁当を分けてあげていたこと。


Kくんは、学年でも噂になるほどの超貧困家庭で育っており、奨学金を使って何とか高校には入学できたものの、シングルマザーの母親がホスト狂のどうしようもない親であり、昼にご飯を食べられるほどの経済的余裕は無かったことを後の同窓会で彼自身が語っていた。


「だから俺、それがバレたくなくていつも教室から逃げて図書室で腹鳴らしながら昼休みが終わるのを待ってたんだよね。そしたら、たまたまそれを見かけたある人が、それから毎日自分の飯を分けてくれるようになって。その人に受けた恩は、俺、一生忘れない」


同窓会でそう語った彼に、周りは「誰?誰?」と興味津々で尋ねたが、Kくんは決して松井君の名を口にはしなかった。


きっと、彼にとって松井君との思い出は、赤の他人に知られたくないほどに大切なものなのだろう。



松井君を陰でずっと見て来た私だけが知っている、松井君の良い所。


話したことは無くても、単純でそこらへんにいる量産型の男の子たちに内心呆れていた私が彼を好きになるのは、今考えればごく自然な流れだったように思う。


そもそもあの出来事があってから、私は彼に大きな魅了を感じていた。


だからこそ、彼に話しかけることのハードルがあそこまで高くなってしまったのである。


休み時間のチャイムが鳴る。


次の授業は、強面の相沢先生の数学だと慌てて席に戻るために散らばる友人たち。


私も席に戻ろうとする途中で、彼を再び一目見て、ため息をつく。


また、勇気が出なかったな。


きっとそんなことを思ってのため息だろう。


気を静める当時の私に、今、教えてやりたい。



10年後に思わぬ形でその願いは叶うことになるぞ、と。


だけどもし、当時の私にもう少し勇気があったら。


一体、私の人生はどこまで変わっていたのだろうか。





それらを考え始めると、朝も寝れない...。







いや、それで良いのか。


おはよう、私。


制服は....うん、着れないな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ