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高嶺の花だったのは過去の話でしょ?  作者: 国見双葉
1章 高嶺の花、戦力外通告を受ける
25/35

24話

「あ、相川さん。急に、どうしたんですか?」


当然、困惑した表情を浮かべて身を引く松井くん。


そりゃそうだ。


泣いていたと思ったら、突然笑い出してデコのニキビを見せてきたんだもの。

怖すぎる。



「私最近、入社以来働いてた編集部をクビになったんだけど、多分そのストレスからかなぁ。ここのところずっと、酒呑みながら徹夜で南雲くんの小説読んでたしそれもあるのかも。肌の手入れも怠ってたしなぁ。さすがにこのデカさは新記録だよ」


最初に見た時、驚きのあまり腰を抜かしそうになった。


と、同時に噴き出して声を上げて笑ってしまった。


「大仏みたいだよね。私」


「は、はい。ご利益、ありそうですね」


「あはは。ありがとー!お賽銭寄越せェ。なんちゃって」


指でお釈迦様のポーズを取りながら、おどける私。


あ、あと最近笑ったことと言えば。


「これも見て!」



私はスマホを取り出し、その画面を松井くんに見せながら操作する。


「これ、BRUJAっていうファッション誌の編集部のブログなんだけどね。あ、さっき言ったクビになったところがここなんだけど....。あ、あった。見てよコレ」


『今巷で大人気の田舎系コーデの発案者であり、編集部のエース橋本早苗の最近』


というタイトルの投稿。


そこに書かれてある一部の内容を、彼に見せる。


「『最近、入社以来の同期が異動になりました。お世辞にも仕事が出来るタイプではありませんでしたが、見てて飽きない面白い子だったのでプチショックです。彼女の新天地での活躍を、プチ祈ってます』だってさ。これ、私のことなんだけど笑っちゃうよね。余計な一言が多いというか、文章全てがが余計だもんなぁ。普段そんなタイプじゃないくせに、変なところでユーモアあるんだから」



松井くんは、小さく噴き出した後、しまったといった表情を浮かべ、申し訳なさそうに頭を下げた。


私は笑顔で首を振り、苦しゅうないと再び釈迦ポーズを作る。


「どうして、これを僕に?」


やはり作家だからか、彼はすぐにその人の行動に隠された裏を読み解こうとする。



私は「なんでだろ」と、首を傾げながらしばらく考える。


「私のことを、知って欲しいから。かな」


「え?」


「すいません。突然何言ってるんでしょうね私。迷惑であれば、今すぐ抹茶飲んで帰ります」


「大丈夫ですよ。続けてください」


松井くんの表情が、いつの間にか和やかなものに変わっている。


やっぱり私は、このモードが一番好きかな。


「松井くん、この間出会った時からずっと私の事高校時代の高嶺の花としか見てなかったような気がするから」


「そ、そんなことは!!」


「ふふん。女の勘って、結構鋭いんだからね?嘘ついても無駄ですよ〜?」



両手に膝をつき、申し訳なさそうに俯く松井くん。


親に怒られてシュンとする子供みたいで、微笑ましい。



「私は、ぎんが編集者としても、私個人としてもやっぱり松井くんには作家をやめて欲しくない。だから、決めたんです。松井くんに本気で嫌がられるまで、私に出来ることならなんでもしようって」


出来ることなんて、ほとんどないかもしれないけど。


「だからそのために、もっと松井くんのこと知りたいし、松井くんにも私のことを知って欲しい。南雲泰雲とか、高嶺の花とか、そういう関係じゃなくて、もっとなんかフラットな感じで。なんて、平の編集者が生意気な事を申しておりますが、もし迷惑じゃなかったら...」


それでも私は、私に新しい世界を教えてくれた貴方に恩返しがしたい。


絶望に打ちひしがれて、路頭に迷い、先が見えなかった私に、物語を通して光を照らして前を示してくれた、あなたに。



元々変わろうとしてはいたから、きっかけなんて本当は何でも良かったのかもしれない。


けれど、例えこの出会いが「たまたま」だったとしても、ここから先の未来は、確かに続いている。


それが正解か間違いかなんて、ダメ私が考えたところで仕方の無い話。

ならば、私が出来るのは、真っ直ぐにその道が正しいと信じて、突き進むだけだ。






そして私はノリと勢いで立ち上がり、彼の手を両手で包み込むようにギュッと握った。









「私と一緒に、美味しいポップコーンを作りませんか?」



何だよ、その締まらないセリフ。


ちょっと文字を変えたら、まるでキティちゃんみたいじゃないか。


でも、これでいい。これが、私。



「分かりました」


松井くんが、下を向きながら小さく頷く。



「相川さんがそこまで仰ってくれるのであれば、もう一度ポップコーン。作る努力をしたいと思います」


そして彼は顔を上げ、希望に満ちた表情でゆっくりと立ち上がった。


「僕、頑張ります。これからよろしくお願いしますね、相川さん」


彼の真っ直ぐな瞳に、私は力強く頷いた。


「こちらこそ。私も、全力で頑張ります!」




私たちの物語がいよいよ始まる。

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