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高嶺の花だったのは過去の話でしょ?  作者: 国見双葉
1章 高嶺の花、戦力外通告を受ける
19/35

18話

結局その日は仕事に手がつくはずも無く、本来一時間程でこなせるはずの雑務を出勤時間丸々かけて終わらせ、二日目の勤務を終えた。


全身から力が抜け落ちたような脱力感を感じながら家に帰ってきた私は、そのままシャワーすらも浴びずにスーツのままでベッドに仰向けでダイブした。


「やっちまった」


理性を取り戻した私は、自分がやらかしたことの大きさに、今さらになって動揺しまくっていた。


みんなが居る前で、しかも笹川さん以外初対面だったというのに、あんな醜態を晒してしまった。


これも全部、海老原とかいうあの女が私を煽ったからいけなのだが、何故か彼女を責める気にはなれない。


膨大な火薬に火が付くのは、きっと時間の問題であっただろうから。


「あ”あ”あ”あ”!病んだ。絶対ぎんがの人たち、私のことヤバい奴だと思ったよなあ。それに、うっすらとだけど、『こんなところ来たくなかった』って言った覚えもあるし。はあ。私もう、この仕事自体辞めちゃおうかなあ」


いや、ダメだ。冷静になれ。

今ここで仕事を辞めたところで、この不景気に何のスキルも資格も無い27の女を雇ってくれる企業などあろうか。

しかも、私の性格的に今の生活水準よりも下がってしまった場合、きっと耐えられずに身を滅ぼす結果になるだろう。


となると、このまま腫れ物扱いをされるのを覚悟してぎんがに残るしか選択肢は・・・。

いや待て、今から婚活をガチって寿退社で専業主婦になるという道もあるぞ。よし、となると行動あるのみ。すぐにアプリを複数入れて、アカウントを作成しなければ・・・。


・・・・・・・。


「じゃ、ないよね」

私はスマホに伸ばしかけた右手を引き、自らの顔を覆うように当てる。


分かってるんだ。考えるべきは、そこじゃないって。

甘えんな、相川薫。

もう、いい加減本気で決断すべきところに来ている。


ダメな自分を受けいれずに、高嶺の花だった頃の自分に囚われて楽に生きていくか。

反対に、ダメな自分を受け入れて新しい自分を模索するか。



過去か、未来か。

安パイか、挑戦か。


「いいや、やっぱ無理。28にもなって、今さら自分を変えようと思ったところで、上手くいくはずがない。それに、変に挑戦が空回りして今よりも悲惨な状況になったらどうするの。うん。ここは、見た目しか取り柄のない空っぽの私らしく、男に縋るのが一番良いよね。幸いにも、まだギリギリ20代。外見の努力だけはずっと怠って無かったし、きっと良い人見つかるよ。うん」


誰に言い訳しているのか、早口でそうまくし立てると、私はスマホを手に取り、画面を開いた。


すると、LINEの通知が一件。

真知子からだ。

『(何かのURL)』

『これ、アンタへのおすすめ。あんなこと言っちゃった以上、少しはご奉仕』


あれから、真知子とは微妙な感じで別れて連絡が途絶えていた状態だったので、ホッと胸を撫でおろす。


『ありがとう。手のかかる利用者で、ごめんちゃい♡』


彼女への変身を先に済ませた後、私は水色のURLをタップし、開く。


飛んだ先は、名前をうっすらと聞いたことがある小説投稿サイトだった。

(確か、【エブリデイてやんでい】だったか、下らない名前の)


そして画面を見ると、投稿された小説のタイトルと、作者の名前がまず一番に情報として飛び込んできた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

【ダメ女田中テレ紗の戦なき戦記】  作:南雲泰雲


あらすじ

『私は、生まれながらにしてマザーであった。なぜなら、かの偉人マザーテレサが大好きな父のせいで、彼女の名前を背負うことになったからである。謎に知性を感じるキラキラネームを付けられた人間がまともに育つはずも無く、若気の至りから、16歳の春、私は本当の意味でのマザーテレ紗となった』



―――――――――――――――――――――――――――――――――――


いや真知子。なぜこれを私に・・・?


私、マザーでもテレサでも、キラキラネームでもないのだが。



これらを見るに、今の私に共通する部分はタイトルのダメ女というワードと作者が松井くんという二つだ。



タイトルの下に、ご丁寧なことに小さく文字数と読了までの時間が書かれている。


15万字で、4時間。


それが一般小説でいうとどれくらいの長さであるかは普段本を読まない私からすれば見当もつかない。


私にとって、一万字を超えた時点でそれはもう大長編だ。



だって、一万字って言うと、原稿用紙が400字として、25枚でしょ?!


それのさらに15倍って考えると...。


「私が目から血を出しながら半年かけて書き上げた卒論が可愛く見えてくるっ!!」



もう5年も前のことなので(もう五年も経つのか...)詳しくは覚えていないが、確か卒論の文字数は3万字ちょっとだったはず。



いや、そう考えると無理!

真知子、こんな文字の集合体を好き好んで読んでいるだなんて、猛者過ぎんか?!



でも親友の好意を無下にする訳にもいかない私は、他に映像媒体がないかネットでマザーテレサを検索にかけてみる。



すると、なんとまあ優しそうなご婦人の画像が。


じゃなかった。マザーテレサで検索してどうすんだ。


ちゃんと、松井くんの小説のタイトルを打ち込んで...。



見ると、一年前に映画化もされており、興行収入の売上も高く、本屋大賞にもノミネートされていて、かなりの話題になっていたらしい。私は全く知らなかったけど。



私が普段使っているサブスクを開いて調べると、なんと幸運なことに、新作の話題作にも関わらず、キャンペーンかなんかで現在映画の方も無料で観られるようになっていた。



これは神の助け!

ここで作品に触れないのも真知子に悪いし、あまり物語に浸る気分じゃないけれど、一応観てみるか。



そうしてタブレット端末でスタートボタンを押そうとしたところで、私は動きを止める。


「...4時間だよね。4時間」


こうして私はタブレットの電源を切り、スマホに持ち替えて、活字の世界へ入っていった。

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