17話
「私だって、こんなところ別に来たくて来た訳じゃないし!!!どうしてアンタなんかにそんなこと言われないといけないのよ!!!!!!!!」
込み上げた怒りが溢れ出し、とうとう限界を迎えた。
BRUJAをクビになった瞬間から今まで。
いいや、それよりももっと前、BRUJAで働き始めた頃から私の中に溜まりに溜まっていたフラストレーションという名の火薬が、海老原という火種によって一気に点火し、爆発した。
編集部が、私の怒鳴り声で反響する。
こんなに大声を出したのは、いつぶりだろうか。
学生の頃の運動会の時ですら、男子の目を気にして声が枯れるくらい応援した経験が無いので、きっと、お母さんのお腹の中からオギャーと産まれてきた時以来になるか。
となると、生誕から27年と約8ヶ月。
かなり遅めの赤ちゃん帰りが、私に訪れる。
「私だって、私なりに今まで精一杯生きてきた。ずっとBRUJAで働くのが夢で、夢が叶って全力で頑張ろうと思ったのに。自分の才能の無さと心の弱さに気づいた瞬間、楽な方へ楽な方へと逃げた。下らないよね。自分は本当は出来る人間だけど、やらないだけ。そんなどうしようもない言い訳のために努力すらも放棄して」
ああ、何を言っているんだろう私は。
周りの視線が見えなくなるほどに、興奮のあまり視野が狭まっている。
だけどもう、今更止まることは出来ない。
一度吐き出された感情は、壊れた蛇口のように防ぎようもなくただただ想いが溢れ出していく。
「BRUJAをクビになった時、悔しくて悲しくて、涙と鼻水で家にあったティッシュを全て使い果たすほどに泣きまくったけど(あとトイレットペーパーもちょっと使った)、心の奥底では少しホッとした自分もいた。ああ、これで元の私に戻れるかもしれない。昔みたいに、困っていたら誰かが手を差し伸べてくれてチヤホヤしてくれる毎日が訪れる。結局私は、社会人になってからの5年で、何も成長していなかった」
呼吸が乱れ、過呼吸気味になる。
だけど何故か、息苦しさは感じなかった。
「もう、嫌なんです。こんな低いところで、ウジウジと悩んでいる自分が。このままじゃダメだ。そんなこと、頭の芯からつま先まで充分過ぎるくらい理解しているはずなのに、一歩を踏み出す勇気がない。こんな惨状になるくらいなら、初めからこんな容姿に生まれなければ良かった。誰にもチヤホヤされず、地に足つけて、しっかりと自力で険しい道を歩いていく。そんな人生を送っていたら、きっとこんな嫌な自分にならずに済んだのに」
ここでようやく、微かにではあるが周りが見えた。
正面で、呆気に取られた様子の海老原さんが口を半開きにさせて私を見ている。
そんな彼女に近づき、私は縋るように尋ねた。
「ねえ。あれだけの事言ったんだから、責任持って教えてよ。私、これからどうすればいいのかな?」
海老原さんは、動揺した様子でメガネを小刻みに上げ下げさせた後「そんなの、自分で考えてください」と、逃げるように自分のデスクへと戻って行った。
力が抜け、ガクリと膝から崩れ落ちる私。
そんな私を見下ろしながら、気まずそうな表情を浮かべた笹川さんが、優しい口調で囁くように語りかけてくる。
「相川さん。ひとまず、外の空気でも吸って落ち着いたらどうですか。戻ってくる時間はお任せしますので」
「ありがとう、ございます」
ああ、何やってるんだろう私。
その時初めて、私の目から一筋の涙が浮かび、ゆっくりと頬を伝い、零れ落ちた。




