11話
混乱する中、私は笹川さんの方を向き助けを求めた。
「あれ?もしかして二人。知り合いですか?」
目を輝かせながら興奮気味に尋ねる彼。
高校の同級生であることを伝えると、彼はより一層表情を明るくさせて席を立った。
「せっかくの再会ですし、ここはお二人でゆっくりと語られたらどうですか?お邪魔な私は、ゆーーーーっくりとお茶でも入れてきますので」
おーい、ドリンクバーでゆっくりもクソもないだろー。
こんな時だからこそ、間に入って欲しいのにそれで気をきかせたつもりか。
しかしそんなことを口に出来るはずもなく、笹川は良いことをしたとばかりに足早にドリンクバーの方へ姿を消した。
去り際に「頼みますよ相川さん」と耳打ちされたのも圧を感じて逆にテンパりそうだし。
こちとら仕事の命運を左右する超大物作家が、因縁のある元同級生でただでさえ鈍い頭が情報を整理しきれずにパンク状態だというのに。
取り残された私と松井くんは、どうしていいか分からずに立ち止まったまま視線をウロウロさせる。
「と、とりあえずおかけになって下さい」
精一杯の作り笑いを浮かべ、松井くんを対面の席に座らせる。
さて、次はどうしようか。会社の面接ならば、向こうの指示があるまで経ち続けるべきだが、逆に見下ろす状況をキープするのも失礼に値しそうでどうすればいいか分からない。
落ち着け、私。BRUJA時代、このような場面に出くわした時どうしていた?
思い出せ、思い出せ・・・。
・・・・。
あ、そもそも私。こんな重要な局面に居合わせて貰ったこと、無かったやえへへ。
「あの、どうかされましたか?座らないんですか?」
立ちながらモジモジしている私を見かねたのか、松井くんは困惑したように眉を下げながら口にした。
「あ、すいません座ります」
相手様の許可が出たので、心置きなく座った私は、鼻で大きく深呼吸をして必死に自分を落ち着かせようとする。
それにしても変わんないな、松井くん。
シンプルな短髪の髪型も、印象の薄い地味な顔立ちも、男にしては小柄で華奢な身体も。
あ、寝癖ついてる。そんな見た目には無頓着そうなところも、変わんない。
大丈夫、松井くんはあの時の松井くんのままだ。
そんな彼を見ているうちに、段々と心臓の鼓動が弱まっていった。
昔に戻った気がすると、懐かしさを感じる余裕すらも出て来た。
向こうも私と同様にある程度落ち着いたのか、元の穏やかな表情に戻り、口火を切った。
「びっくりしましたね」
彼の声を身近でまともに聴くのは、これが初めてかもしれない。
想像通りの優しい声に、私は思わず頬が緩んでしまう。
「はい!ほんと、びっくりですよね。まさかこんな形でばったり会うなんて」
「いや、それもそうなんですけど...」
「ん?」と、首を傾げる私。
松井くんは少し言いにくそうに口をモゾモゾさせた後、先程よりも小さなボリュームで呟くように言った。
「まさか、相川さんが僕のこと知っていてくれてたなんて」
真剣な顔でそう話す松井くんに、自然と噴き出してしまった。
「あはは。そりゃ当たり前ですよ。私たち、同級生じゃないですか」
知っていたなんてもんじゃない。とは、さすがにここでは言い出せない。
「いや、だって相川さん学園のマドンナで高嶺の花でしたし。僕のことなんて、眼中にも無かったかなと」
「全然そんなこと無いですよ!!確かに松井くんとは一回も話したこと無かったですけど、ちゃんと眼中にありました」
「...優しいですね。さすが、高嶺の花の相川さんだ」
「だからそんなんじゃないんですって。それに、高嶺の花なんて言うの止めてください。今はこのザマなんで、かなり恥ずかしいです」
「ど、どうしてですか?!相川さん、今は前よりもさらにオトナで素敵な女性になってるじゃないですか」
「....え?」
やめてくれ。まるで穢れの知らない、純粋無垢なその瞳でそう言われてしまうと誤解してしまうじゃないか。
思わぬ不意打ちに、突然頭が真っ白になり、全身が熱くなるのを感じる。
ホント、私はいつからこんなにも単純になってしまったんだろう。
「ああ、いえ、すいません!もちろん、昔の相川さんも素敵でしたよ。それが更に、大人の魅力でより美しくなったと言いますか。えっと....」
どうやら変な勘違いをしたらしく、慌てて取り繕う松井くん。
そういうところも、高校時代遠くで見ていた時と変わらない。
なんだか、松井くんが南雲泰雲であることを忘れてしまいそうになってしまう。
松井くんも、前と変わらず素敵な男性ですね。
そう伝えようと口を開きかけた瞬間だった。
「おお、いい雰囲気ですね。場が温まったところでコーヒーをお持ちしました」
おい!どこまでもタイミングが悪いぞ!笹川!
てか、入れてくるのお茶じゃ無かったの?




