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高嶺の花だったのは過去の話でしょ?  作者: 国見双葉
1章 高嶺の花、戦力外通告を受ける
10/35

9話

出版界の救世主の名は、南雲泰雲。

7年前にウェブ界隈に突如現れた天才作家で、これまでサイトに投稿した大・中・短編25作品のうち、全てが書籍化。

15作品が何らかの形で映像化。

そしてそのうちの作品の一つが原作として、ぎんが編集部のお隣の週間の漫画誌に連載されているらしく、今回はそのつながりで交渉の場をセッティング出来たらしい。


笹川さんから渡された南雲の作品一覧を見た時には驚いた。


そのうちのほとんどが、エンタメには疎い方の私ですら名前の聞いたことのある作品ばかりで、実際に観た作品もいくつかあった。


中でもこの【真冬の恋の方程式】という作品は、数年前にドラマ化され高視聴率をマークするなど社会現象になるほどに盛り上がり、ミーハーな私も毎週リアルタイムで食い入るように見ていた。

今でもたまに、購入したブルーレイのセットで見返したりするほどに大好きな作品である。


他にも、映画の歴代の興行収入TOP10に食い込んだ宇宙を舞台にしたファンタジー作品に子供から大人まで幅広い世代に大人気のお隣の漫画誌の看板作品など、超ビックタイトルが並んでいる。


「これ全部、同じ人が書いてたんですか?!!」


待ち合わせ場所のレストランに向かうタクシーの中で、私は素直な感想を口にした。


「ええ。たったの7年でこれだけの名作の数々を生み出してるんですから。10年、いや、100年。いいや、1000年に一人の逸材ですよ」


と、編集者の風格を出しながら答える笹川さん。


片耳イアホンで音楽を聴いているのだが、先程のアイドルの曲だろうか。

音が駄々洩れである。


ちなみにそのアイドルのユニット名は【Do♡(これでドキュンと読む)倶楽部】というらしい。

こっそり歌詞を検索したら、すぐに出てきた。


四人組の地下アイドルグループで、秋葉原を拠点に活動しているらしい。

平均年齢は、24歳。この歳で地下アイドルをやっているなど、なかなかにお先真っ暗だと哀れんだが、よくよく考えると私も似たようなものだと気づき、変な意味で一気に親近感が湧いた。


「それで、私がどうして同席することになったんですか?ついさっき編集部に来たばかりのド素人ですよ?こんな大事な場面に連れてくるには、まだ100年早いと思うんですけど」


「そのセリフを自分で言う人、初めて見ましたよ」


「自己分析は、きちんとできているつもりですから」


きっぱりと言った私に、笹川はぎこちない愛想笑いを浮かべる。


「実はその南雲泰雲先生。顔もプロフィールも一切公開していないんですけれど。【ジャンジャン】(お隣の漫画誌の名前)の知り合いが特別に色々と情報を教えて下さいましてね。南雲先生は男性で、何と薫さんと同い年らしいんですよ」


同い年。同じ年数を生きていても、きっとその人と私の人生じゃ、濃度が全く違うんだろうな。まさに、雲の上の存在。


「それで、こんな言い方をしたら相川さんの気分を害してしまうと思うのですが・・・」


「いいですよ。私、気の長さが唯一の取り柄ですから」


「はい。その、同じ年の綺麗で華のある女性が居た方が、先生も男ですし、交渉が成立しやすくなるのではとうちのバカ編集長が・・・。すいません。初仕事でこんな・・・」


綺麗で華のある・・・。

昔はこんな安い誉め言葉を言われてもなにも感じなかったのに。いつからだろう。例えお世辞だったとしても、思わずにやけてしまうほどに嬉しくなるほど思考回路が単純化されたのは。

そんな天才が、私なんかで心揺さぶられるほどチョロくはないと思うけれど、どんな形であれ、こうして誰かに期待されたこと自体が久しぶりだから気合が入る。


「いえいえ!こんな私で良ければ、足でも尻でも乳でも、何でも出してやりますよ!」


「あ、それは絶対にやめてください」


相川薫、27歳。元、高嶺の花。(今は枯れかけだけど)


ぎんがの栄えある未来のため、残された色気を全て使って南雲泰雲を落とします。





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