18
手紙に記されていた場所に私は一人で向かった。
護衛は連れて行かなかった。理由は簡単だ。
ついでに家出してやろうと。私は考えていたのだ。
指示された場所は、ブルーノ領にある廃屋と化した倉庫だった。
そこに入ると私は一人の女に声をかけられた。
「はじめまして、あなたがアバンの仮初の婚約者のリイスさんね」
そこにいたのは、どこに出しても恥ずかしくない熟女だった。
「……どなた?」
私はその熟女に対抗心をなぜか燃やしていた。
自分のなりたい熟女そのものだったからだ。許せない。
銀色の髪の毛青い瞳には見覚えがあるけれど、服装髪型全て品が良かった。
「ああ、一度も顔を合わせていないからわからないわよね。私はアバンの母よ」
アバンの母と名乗られて確かに似ていると私は思った。
しかし、なぜ彼女がここにいるのだろう。
「なるほど、で、なぜ、私を呼び出したんですか?」
「そんなの、当然じゃない!アバンとの婚約を破棄してちょうだい!貴女がどれだけ彼のことを愛していてもメロディと結ばれる運命なのよ!」
またその話かよ。クソッタレ。
私は心の中で毒づく。
「はぁ?私、別にアバンなんか好きじゃないし」
「なんですって!?アンタのせいでアバンとメロディは引き離されたのよ」
事実は違うがアバンの母から見たらそうなのだろう。
しかし、そう言われても、それがどうした。としか思えなかった。
「知らないし、貴族なら政略結婚とか当たり前でしょ」
「私は愛した相手と結婚できなくて後悔しているの。だからアバンには」
アバンの母は、自分が叶えられなかった願いをアバンとメロディをくっつけさせる事で叶えるつもりなのだろう。
なぜ、自分で叶えようと思わなかったのか。
アバンの父が碌でなしとは私には思えなかった。
「いや、知らないし、碌でなしと結婚したわけじゃないんでしょ。不満ばっかり持って、自分ができなかったことを子供に押し付けて余計なお世話としか言えない」
「なんですって」
アバンの父が自分の運命の相手とは思えないなら、全てを捨てて逃げても良かったのではないか。
やろうと思えばできたはずだ。それなのに何故しなかったのか。
結局この女はそんな勇気なんてないから、アバンとメロディに自分の欲を押し付けているのだ。
「二人の事を本当に大切に思ってるの?」
「当然よ!」
「アンタのしてる事、人形遊びそのものだね」
この女のしていることは人形遊びだ。
アバンとメロディの感情を無視して、結ばれるように弄んでいる。
「アバンとメロディは愛し合っているのよ!」
「知らないし、アバンは返してもらうよ。……言っておきたい事があるんだけど、私はアバンの事なんて毛ほどに興味はないよ。だけどね、お気に入りのおもちゃを取り上げられたら、取り上げた奴を燃やす程度の覚悟はできているのよ」
正直、アバンの事なんてどうでも良かった。
ただ、「奪われる」という事がとても癪なのだ。
「メロディ!このクズにアバンと一緒に姿を見せなさい。そして、倒しなさい!」
『はい、おかあさま』
アバンの母のヒステリックな声に返ってきた返事の声は恐ろしく低かった。
直後。
ドシンドシン。と倉庫が揺れた。
『久しぶりね』
私の前に現れたのは、ぐったりとしたアバンとそれを軽々と片手で抱き上げている。アバンよりも五倍ほどの身体の大きな化け物だった。
「……メロディ?」
化け物は顔のサイズや形はそのまま。身体のサイズだけが異様に大きかった。
「え、顔、ちっさ……」
思っていた事が無意識に口から出ると、アバンの母がその場で何故か転んだ。




