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メロディとの話し合いは平行線のままで終わってしまった。

本当は休憩の時間のたびにリイスの教室に様子を見に行きたかったけれど、僕の顔を見たら怒り出しそうで怖くて遠くから様子を見ることしかできなかった。

予想通り物申されていたけれど、お友達の二人が彼女を羽交締めにしてなんとか抑えていた。

このままメロディとの決別を早くしないと完全に見放されてしまう。

それなのにメロディとは話が通じない。八方塞がりだ。

そもそも、リイスとの婚約は内密にしていたのに、なぜメロディが知っていたのか。

誰が彼女に教えたのか、僕にはわかっていた。


「母さん、メロディ嬢に僕の婚約者のことを言いましたね?なぜ、そんな事をしたんですか!」


僕は屋敷に帰ると母に詰め寄った。


「メロディ嬢なんて、他人行儀ね。今まで通りメロディでいいじゃない」


母は、「うふふ」とふわりとした笑みを浮かべて、呼び方の訂正をした。

すでに、関係は解消しているのに未だに彼女の中ではメロディは僕の恋人のままなのだろう。

母の瞳には僕の姿が無機質に映されていて、妄執に取り憑かれているのはメロディではなく彼女なのだと再認識させられる。


「彼女とは結婚しません。僕はコーラル家のリイスさんと結婚するんです」


「そんなの許されないわ。貴女はメロディと結婚する運命なのよ」


「運命」という言葉に取り憑かれている母。

彼女はメロディの母と親友同士だったと、幼い時から聞かされていた。

彼女のためにメロディと結婚をして幸せにしてほしい。と、ずっと僕に言い続けていた。

僕とメロディは運命。真実の愛で結ばれる。そう言われて育てられてきた。

けれど、年齢を重ねるごとに違和感だけが増していった。

そして、船の事故の件から僕はメロディを愛せなくなっていた。


「運命?すでに僕には気持ちがありません。もしも、リイスさんと破談になったとしてもメロディ嬢とは一生を共にする事はできません」


これは、メロディと関係を解消させる時に心に決めていた事だった。


「貴方は騙されているのよ!」


母はメロディへの思いがなくなった事を頑なに拒絶した。

僕とメロディが愛し合う事が揺らぎない事実なのだと信じているかのように。


「騙されていたのは僕の方ですよ。長年、自分の身勝手な妄想を僕とメロディ嬢に植え付け続けて……、リイスさんのおかげでようやく目が覚めた」


もう、僕は母の妄言を信じないと心に決めた。

母の事は愛している。けれど、彼女は僕の事を愛していない。

彼女にとって僕とメロディは、自分が肉付けして書いた恋愛小説でしかないのだ。

わかっているのに、まだ、どこかで、目を覚ましてほしいと願っている自分がいた。


「リイスって女に騙されているのよ。あなたは」


だけど、リイスに迷惑をかけた事で彼女に理解してもらうのを諦めようと僕は思った。

リイスに迷惑をかけるなら僕は彼女を排除しようと思っている。


「僕の邪魔をするのなら、貴女も父と一緒に田舎で療養した方がいい」


母は船の事故で精神的に塞ぎ込んで休養している父についていくのを拒んだ。

最初からそうだった。

母にとって父は運命の相手ではないのだろう。


「……こんな事、許されないわ」


母が悲劇のヒロインのようにそう呟くのが聞こえた。


『金とストレスとクソは溜め込むもんじゃない。私に漏らしチャイナ!』


『おい!お前!付いてんのか、おい!』


リイスのあの時の声が頭の中で響く。

酔ったリイスに胸ぐらを掴まれて張り手をされて、僕の目はようやく覚めたから。

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