13
地獄のような一日を終えて屋敷に3人で帰ると、据わった目をしたルチェが口を開いた。
「で、状況を説明してくれるかしら?」
思えば彼女もかなり苦労していたと思う。ブチ切れた私を静止するために。
「まあ、何て言うのかしら?政略結婚ってやつよ。婚約破棄か白い結婚の後に離婚する予定の」
説明しながら何がどうなっているのか、自分でもよくわからない事に気がつく。
たぶん、破談はするだろうと勝手に思っているが、アバンはどうなのだろう。
「え、破談前提なの?」
「そうよ。たぶん」
「いや、それはないでしょ。アバン様はそうじゃなさそうよ」
しかし、ルチェは違うと言う。
「何でそう思うのよ」
「メロディ様は納得してないけど別れてるよね。あれ」
オウデンも同じように違うと言い出した。
「そもそも、距離が近いだけで付き合っていたかも微妙なラインよね」
「そうだな」
「政略結婚にしても、あちらはアンタの事それなりに好きそうだけど」
ルチェから爆弾を投下されて私は目を見開いた。
何をどう見たら私のことを彼が好いているのだろう。
「アンタの目は節穴?」
「いや、お飾りの妻や婚約者にするつもりなら、人前でキッパリとメロディ嬢に恋愛感情がないって言い切らないでしょ。それに、アンタに嫌われることすごく気にしている感じだったし、帰る時なんてこの世の終わりのような顔してたじゃない」
「あの騒ぎと空気の中止めようとするのも、リイスの味方になるのもかなり勇気いるし」
言われてみればその通りだ。わざわざあの中に入る必要は彼になかったはずだ。
「……気を遣われている感じはあるわね」
うまくいかなくて私を怒らせる結果になってしまったけれど、アバンなりにメロディとの関係をちゃんと清算させたことを見せたかったのかもしれない。
私のことを大切にしようと彼が思っているのはわかった。
「でしょ?そもそもアンタと結婚しなくても、経営が一時的に苦しくてもあちらは没落する事なんてないんだから」
「まあね、なんでこんな話がきたのか謎すぎるのよ」
そう、別に彼は私と結婚しなくても大丈夫なのだ。
船の事故の時に被害を最小限にするために上手に彼は立ち回った。
「……お前さ、本当にアバン様と結婚するのか?」
「私が知りたいわよ!」
メロディのせいで本当に結婚するのかよくわからなくなってきていた。
「今はそんな事、どうでもいいでしょ」
「どうでもいいって」
ルチェのどうでもいい。という発言に私は呆気に取られる。
確かにルチェからしたら他人事でしかないが、私の一生に関わることをそんなふうに言わなくてもいいではないか。
「今、どうしたいかどうなりたいかが重要よ。色々な事がありすぎてよくわからなくなってると思うけど、パニックにならないで」
ルチェの言う通りだ。
降りかかることが多すぎて、どうしたらいいのかわからなくなっていた。
「リイスが厄介な事にこれ以上巻き込まれないようにしないと」
「そうだな」
ルチェとオウデンの言う通りだが、具体的にどうしたらいいのか結局はわからない。
「でも、これ以上に厄介な事にならないようにどうしたらいいの?」
「それだよね。あはは」
ルチェも思い浮かばない様子で誤魔化すように笑った。
「アバン様の頑張り次第だけど、真面目な人が思い込みの激しい人を納得させるのは難しいと思う。自分が消耗して疲れるだけよ」
この状況をどうにかできるのはアバンしかいないが、あの様子から完全に空回りしているのが見てとれた。
手っ取り早い方法はメロディを退学させて縁を切ることだと思うが、それをするのはあまりにも非道だと私は思う。
「そもそも、なんでメロディはリイスがアバンと婚約したのを知ったんだろうな?」
オウデンの疑問に、私もそういえばと思った。
アバンがわざわざメロディに知らせることはしないだろう。
それなら誰がこんなことを……?
「それよね。アバン様はリイスに迷惑かけたくなさそうだったし、誰かが教えたんでしょうね」
ルチェの言う通りだと私も思った。
「はあ、メロディ嬢とアバン様ぶん殴って逃げたい」
「それ、思っててもやったらダメよ」
思わず出た私の欲求にルチェは、呆れた様子でそれを止めた。
「わかってるわよ」
どうしたらいいのだろう。そう考えるけれど、その方法はわからずじまいだった。




