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「大変だったね」


アバンとメロディがいなくなり野次馬がいなくなるのを見届けて、ルチェが私に声をかけてくる。


「ルチェ、疲れた」


「お前、アバン様と婚約してたのか!」


オウデンは何を思ったのか、今更なことを聞いてきた。

そういえば、彼は、朝のドロドロの修羅場。略して「朝ドロ劇場」を見ているだけで止めようともしなかった。

……無関係だから止めないのは当然か。

何もできないのなら、できればそっとしてほしい。

今起きていることを考えるとただ腹立たしく、先のことを考えると不安要素しかない。できれば今は考えたくない。


「今、その話やめてくれる?私を怒らせたいの!?」


苛立ち混じりにそう言うと、オウデンはスッと目を逸らした。


「ご、ごめん。いや、なんか、ヤベェ事になってるな」


彼の言うとてつもなくヤベェ事になっている。そんなことわかっているのだが。今は少し目を逸らしたい。

というよりも頭の中を整理させたいのだ。


「わかってる!お願い、現実に目を向けさせないで」


「す、すまん」


オウデンは私の勢いに引きながらも、それ以上は何も言わなかった。


「後からちゃんと話しを聞かせてね」


「う、うん」


ルチェの言葉には軽く圧力があり、私は引き攣りながらも笑顔で返事をした。


「貴女は、アバン様に相応しくない」


二人の親衛隊から声をかけられるのはこれで何度目だろうか。

考えるだけで吐き気がする。していることは余計なお世話でしかないのに、さもいいことをしているかのように私に訴えかけに来るのだ。

何もできないくせに。

温厚で心優しい私はその度に「貴女がアバン様に金銭的な援助をすればよろしいではありませんか」と、返している。

そうするとみんなが顔色を変えて去っていってしまうけれど。

なんで、しなくてもいい気遣いなんてしなきゃいけないのかしら?

ふと、そんな事を考えてしまうと、湧き上がってくるのは怒りだった。


「は?!誰が好きで婚約者になってると思っているのよ!」


「えっ」


思わず出た本音に、物申してきた女子生徒は面食らっていた。


「目の前であんな痴話喧嘩して、見てて気分が悪いに決まってるでしょう!?」


「えっと、あのその、えっと」


「アンタ!なんの用事よ!」


しどろもどろになりながら何か返そうとする生徒に私は食ってかかった。


「私はアバン様のことを思って」


「だったら、アンタがアバン様の家の援助してメロディ嬢と結婚できるようにしたらいいでしょう?」


今日一日で、耳が腐り落ちそうなほど聞かされた言葉に、だったらてめーでどうにかしろ。とマイルドに返すと女子生徒は冷静にできないと返してきた。


「あの、そんな事できるわけないじゃない」


「だったら、黙れ!」


「男爵の生まれのくせに生意気」


女子生徒は口では勝てないと思ったのだろうか、私の家の爵位を持ち出してきた。


「空気読まずに婚約破棄しろって言ってくる貴女の方が生意気だわ。私じゃなくてアバン様に言えっての!」


「何ですって」


大きな声を上げながら怒りのボルテージがどんどん上がっていくのがわかる。


「好きでもない相手と婚約して、二人の仲を引き裂く悪女とか思われるのとても不快なんだけど、何なのいったい!頭悪いの?」


「リイス、落ち着いて、どうどうどう!」


そろそろ殴ろうと腕まくりを始めたあたりで、やり取りを見ていたオウデンが私を羽交締めにした。


「腹立つ!アンタを100発殴ったらひんまがった根性真っ直ぐになるんじゃない?殴らせなさいよ」


「ひっ!」


私に殴らせろと言われたので女子生徒は、怯えた様子で後ずさる。

オウデンの腕から逃げようと前のめりになると、ルチェが慌てて「どうどうどう」と私に声をかけてきた。


「あ、あの!逃げてください。やるって言ったら本気でやる人ですから」


「あの、なんか、その、ごめんなさい」


女子生徒はオウデンとルチェに何故か謝って去っていってしまった。

私に謝ろうともしない様子に、やっぱり地の果てまで追いかけて殴ってやろうと思った。


「あの人何しにきたのよ。私を怒らせるためだけに来たのかしら?やっぱり地獄の果てまで追いかけて頭の毛がなくなるまで殴って……」


「お願いだからやめて!」


殴る前提の私にオウデンとルチェは必死に止めるように懇願してきた。

仕方ないので私は食ってかかってきた令嬢の名前と顔を記憶して、次に同じことをしたら殴ってやることにした。

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