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「メロディ嬢、何をしているんだ」
アバンは硬い表情でメロディに問いかけた。
その様子から、答えや落とし所の見つからない話し合いをずっとしてきたのだとわかった。
「アバン、酷いわ。私の事などどうでもいいというの?屋敷から追い出して、もう愛していないの?」
メロディがいかにも傷ついた表情をするけれど、私は空恐ろしい物を感じ始める。
彼女に何を言っても響かない。
アバンと自分は相思相愛で、このまま結婚するのだと定められているかのように信じきっている。
私がなんと答えたらいいのか分からず黙っていると、アバンが代わりに口を開いた。
「そうだ」
「……は?」
なぜ認めた。もう少し気遣いくらいしたらいいじゃないか。
私は思わず心の中でツッコミを入れたくなってしまった。
だが、メロディにどれだけ言葉をつくしても何も響かない。
自分がアバンの立場だったら殴ってる。本当は今殴りたい。
「リイスさんに迷惑をかけないでくれ。確かに一時期君に対して恋愛感情を持っていたが、今はない」
アバンの拒絶の言葉にメロディはチリチリの髪の毛を揺らめかせかぶりをふった。
「嘘よ!私たちは真実の愛だってお母さまが」
メロディの否定になぜか背筋がぞくりとした。
妄執めいた恋心は呪詛の類に近く、吐けば吐くほど自分自身を苦しめているように見える。
何かが、おかしい。
「僕の母が長年勝手に言っている事だ。君も目を覚ますんだ」
きっと、アバンもメロディもお互いが運命の相手だと言われ続けてそれを信じて今まで生きてきたのだろう。
「酷い」
「僕と必ず結ばれると母に言われ続けたから、そうだと思ってしまっているんだろう?だけど違うんだ」
アバンは何が心境の変化があってその事に気がつくことができたのだろう。
しかし、メロディは殻に閉じこもるように、その妄執めいた恋心に取り憑かれている。
きっと、アバンがどれだけ言葉を尽くしてもメロディは理解できない。
「私は違うわ。そう言われなくてもアバンと真実の愛で結ばれていると思っているもの!」
「あのさ、いい加減やめない?」
まだ、何か言おうとするメロディに私はきつい口調で、やめろ。と、声をかけた。
話し合いは平行線で、このまま話し続けても、アバンの精神が消耗されると思ったからだ。
たぶん、メロディに決別を伝えた時からこんな感じで話にならなかったのだと思う。
「人がたくさん集まってるしお互いに恥の上塗りでしかないわよ。話し合いたいのならもう一度したらいいわよ。アバン様、それまでは婚約は保留という事に勝手にしておきます。とりあえず、この人どうにかしてください。迷惑です」
私はメロディがすぐに引き下がるように、婚約を保留という嘘をあえてついた。
「リイスさん、本当にすまない。メロディ嬢、教室に帰るんだ」
「嫌よ!貴方がアバンを諦めるまで私は帰らない!」
「メロディ嬢、帰るん……」
アバンがメロディに帰るように言いかけるけれど、私はそれを思い切りさえぎる。
「ねえ、迷惑なのよ。勝手に痴話喧嘩に巻き込まれて、やるなら私の知らないところで勝手にやれって言ってるの!迷惑なの!さっさと消えて!二人とも!」
消えろ。と言いつつも私はアバンに釘を刺すことにした。
正直何かに巻き込まれて間に入ってこられても少しも嬉しくないのだ。
面倒なやつは私が勝手に撃退してやる。
「おい、アバン!しばらく顔見せるな!私が何かされてても割って入るなよ!この程度のことなんか、自分の力でどうにかしてやるよ。テメェはテメェの事どうにかしろ」
「……え」
「アンタが頑張ったのはわかった。メロディ嬢はいいから、さっさと自分の教室に帰って」
「そんな……」
アバンはこの世の終わりのような顔をして教室から出ていった。
しかし、メロディはなぜか残っている。
「アンタもどっか行け!ケツの毛まで毟られたいのか!」
「ひいっ」
私がメロディを睨みつけて叫ぶと、慌てて教室から出て行った。
「二度と来るなよ!」
私は心の中で中指を立てた。




