乙女ゲー 父親の気持ち
場所はロマネイツ王国にある教育機関、主に高貴な方々の様なこの国を将来率いていくような人物を教育をするような機関である。その教育機関が主催するパーティーでに予定にない騒動が起こっていた。
騒動の中心では、金髪碧眼を携える美形の男性が一人の可憐な女性を守るように自身の体で隠しながら、一人の女性に向かって、大声で非難していた。
「ルーシャ、君にはもううんざりだ。将来君のような人と結婚すると思うと吐き気がする。今をもって君との婚約は破棄する!!」
「なんでなの!?私のどこがいけないのよ!私はこんなにも愛しているのに!なんでそこの貧民なのよ!?」
男性の言葉に、切実に渇望してやまないとばかりに狂気を振りまきながら、男性に庇われている女性を睨めつけながら拒絶の言葉を発する。
「私はルーシャがこんなにも野蛮だとは思わなかった。君のアイリスに対する行動は目に余る。あと少しでアイリスが死んでいたこともあったのだぞ!にもかかわらず反省もしていない!君には愛想を尽かせたよ。」
「それは!そこの貧民があさましく醜い小娘が、王子に娼婦のように近づいてきたからよ!悪いのはそこの無知蒙昧な小娘よ!今なら許してあげるわ、王子考え直して、ねぇ!」
「アイリスは悪くないだろう!それ以上彼女を侮辱したらただじゃおかないぞ!」
王子の婚約者であった、ルーシャがアイリスを敵視して罵倒する。それに対して、王子は我慢ならないと唾を飛ばすほどの勢いで否定した。
そんな王子と元婚約者のルーシャの話し合いに割って入った者がいた。問題の原因であるアイリスである。
アイリスは小柄で可愛らしい容姿をした女性である。そんな女性が目を潤ませ震えながら、健気に言葉を発する姿にこの場のやじ馬たちの中での正義が決まった。曰く可愛いは正義。
「やめてください!すいませんでした。私が全部悪かったんです。私が民分不相応の夢を見てしまったから。私のせいで王子の立場を悪くしたくありません。もう十分です。十分夢を見させていただきました。王子と過ごした思い出だけで、私は幸せです。もう私のために争わないでください。」
「な、そんなことない!…今決心がついた!この私、ガーザス・ロマネイツ第2王子は現時点を持ってアイリス・コッチジャーと婚約する!!アイリス、愛してる!」
「そんな、王子様。私でいいのですか?」
アイリスの悲痛な叫びに心打たれた王子がアイリスとの婚約を宣言した。当然妨害するように暴れるルーシャだったが、アイリスに片思いを抱いていた騎士団長の息子に拘束されて邪魔が出来なくなっていた。
これにより邪魔者がいなくなり二人で愛を確かめ合うような会話が続いた。
バンッ
もうこの二人だけの世界の邪魔をするものがいないと思われたとき、勢いよくドアが開け放たれた。
会場にいるすべての者が開けた者を見て驚き頭を下げた。
そこにいたのは賢君で知られる陛下の姿があった。こういう時のためという訳ではないが王城と教育機関である学園の距離は近くにあり、急げば数時間で来られるのだ。
「ど、どうして陛下が。」
「どうもこうもない。教師から大問題が発生しそうと連絡が入ったのだ。急いできてみれば、ガーザスどういうこだ?説明しろ。」
「私とルーシャの婚約を解きアイリスとの婚約を決めました。」
ロマネイツ王が急に来た理由はどうということはない暇だったのだ。王のやる仕事は多岐に渡るが部下の育成を名目として仕事の量を減らしたのだ。王家の有する秘伝の魔法と王の有能さが合わさり、王は暇を持て余していた。
そんな王のもとに緊急の連絡が入ったのだ。それも第2王子の恋愛騒動だと、知らせが来た。
「覚悟はあるんだな。」
「はい!私はアイリスの様な者と結婚するにあたり障害はあるでしょうけど、アイリスとなら耐えて乗り越えて見せます。」
「アイリスとやらも相違いないな。」
「は、はい。」
王の感情の感じさせない低い声が響く。いつにもまして感情の読めない表情にと声に緊張しながら王子は答えた。はじめて話すアイリスはその覇気に怖気を感じながら声を震わせながらなんとか答えた。
第2王子であるガーザスは事態を軽く見ていた。ガーザスは第2王子であるが、兄である第1王子と比べてあらゆる分野で優れた結果を残していた。その優秀さは将来は第1王子を押しのけて、王になると多くの臣下が考える程である。
優秀なガーザスは当然それを把握していたし、一度もこのような願いを言ったことはなかった。それ故に王は親としても王としてもこのガーザスに厳罰を下すことはないだろう。こんなことでつぶすにはあまりにも惜しい人材なのだ。なのでガーザスは自分の意見を通せると本気で考えていた。
「そうか。ではガーザス自殺せよ。お前がこんなにも愚かだとは思わなかった。」
故に王の発言が何を言っているのか、一瞬理解を拒む。周りで見ものに興じていた者達も息を飲んだ。
「な、なぜです!?考え直してください!」
「なぜ、だと。お前が婚約を破棄する事で生じる損害によって一体どれだけの人の人生が狂うと思っているのだ。今の情勢を考えろ、いたずらに反乱思想の者達を増やせば他国に隙を見せかねない。もし婚約破棄をするのなら責任を取ってもらう。」
王国は今平和であった。民も平和を愛し、王侯貴族らも平和を愛した。しかし、周辺国では戦争が起こっていた。中立を謳ってはいるが国の結束が揺らぐような隙を見せれば争いに巻き込まれるようなぎりぎりの状態であった。
そのため、いつ上の者が暗殺されたとしても不思議でない状況。だから王は周囲に無理をさせてでも国の中枢を回していける人材育成に励んでいた。そんな時の事件になりそうな案件、何としても止めねばならないと周りは思いこのことを王に報告したのだ。
「そんな…。父上、王よ。私はどうすれば。どうすれば見逃していただけるのですか。」
「簡単だ。ルーシャに謝り婚約をやり直せばよい。愛など諦めればよかったのだ。我は諦めた。」
実をいうと、王としては戦争に巻き込まれてもそれほど困らないように手を打ってあった。寧ろ隙を見せて先に攻撃されるのを待とうとさえしていた。
ただ、計画がくだらないことでずらされそうになることは普通に腹が立った。しかしこれ程の怒りを見せる程ではない。
王は昔、恋を諦めたことがあるのだ。よくあることだが王は王としては優秀だが親としてもそうであるとは限らない。自分の時の無念を次の世代に経験させたくない、という崇高な精神を持ち合わせていなかった。寧ろ絶対に恋愛など阻止しようとすら考えていた。要は醜い嫉妬である。
それが例え自分の息子であろうとも恋の成就という羨ましい事を成し遂げようとするのなら全力で妨害する覚悟があった。その為にはたいして問題ない事をさも大問題かのように扱い欺かせることなど容易に過ぎた。
「しかし、しかし、この想いはこの気持ちは一体どうしろというのですか!?」
「そもそも、民の金によって裕福に暮らしているのだ。裕福だから恋など求めていられるのだ。貰った分働こうとは思わないのか?我らにとって婚約は仕事ではないとでもいうつもりか?ふざけるな、意味のない事など初めからせぬわ。まさか、そこの元平民を愛すると、平民であったことを差別するなと、たからに謳っていたその口で、我に不当に平民から搾取せよと抜かすつもりか?」
内心は私怨にまみれていようとも欠片も表に出さない、その表情からは真剣に息子を諭しているようにも見える。それに対して、ガーザスはその発言内容に穴があることを見つけ出し、表情を明るくする。
「では!私はアイリスと婚約し、その後滅私奉公の精神で国民に恥じることのない勤勉な仕事をして行くと誓います!ですから、アイリスとの婚約を認めてください。」
「ん?何か勘違いしておらぬか。勤勉に仕事をすることなど当たり前だ。そもそも、ガーザスにかけた国民の金の分だけ働けなどとは言っていない。掛った分以上に国民に利益を与えろと言っておるのだ。ルーシャと婚約を破棄し以上にアイリスとの婚約後にガーザスが励もうと関係ないのだ。ルーシャとの婚約後に同じだけ励めばよいではないか。」
「しかし、…私には捨てるには惜しい才能があるはずです。兄よりも学業、運動関係、魔法関係、全てにおいて勝っています。いや、同世代の中で私よりも優れたものはいません。」
ガーザスとしては才能について言及することは最終手段であった。どうしても才能の話をすると自慢話のようになってしまうからだ。しかし、この恵まれた才能を消すには惜しいはずだ。必ず手元に置いときたいはず。王がこの件を重く受け止めたとしても、このご時世これ程の才能あるものを粗雑には扱えないはず。
「うぬぼれたなガーザス。最近は王になれるとでも思っておったらしいな。言っておくが軍に突出した個の武力など必要ない。まして、王に才能など必要なはずもない。」
「な、そんなはずはない!私に任せていただければ兄を遥かに上回る結果を政治で必ず出して見せましょう。それに軍だって、部下を付けてくだされば功績を必ずやあげます。」
「ガーザスよ。何故お前の遊びに国が付き合わねばならぬ。何故お前の我儘で国がリスクを負わねばならぬ。それにお前の才能ある実力も数をそろえれば代用可能だ。お前の代わりの兵を動員する方が遥かに金がかからんのだ。どうして部下を付ける必要がある。ないのだ。お前には今をもって功績が、信頼が、リスクを上回る現実的な提案がないのだ。どうして才あるだけのお前に頼る必要がある?」
「な、そんな。私はルーシャと婚約しなければならないのですか、耐えられない。」
「ガーザスよ、そもそも恋愛と婚約は関係ない。そもそも夫婦間で愛だの恋だのが必要ではない。なにも王族だけの話ではない。平民だって奴隷だって、別に好きでもない者と夫婦になることなど珍しくない。我もそうだ。王妃のことなど欠片も好きではない。それでもみな我慢しているのだ、お前だけ免れるわけないだろう。」
王の言葉に周りは衝撃を受けた。何故なら王妃はこの国随一の美貌で知られていたからだ。多くの者は王は多くの者が夢見る理想の結婚であると思われていた。息子であるガーザスまでもが恋愛の末の結婚だと思っていた。だから、本気で下級貴族の者と結婚出来ると思っていた。親は恋愛で結婚したのだから自分も大丈夫だと考えたのだ。
ガーザスその前提が崩れる思いだ。自身の親という前例があったからこそ自分もいけると、十分に勝算があると考えていたのだ。
「あ、あの質問よろしいでしょうか。どうして王妃様のことをよく思われないのでしょうか?」
王の衝撃発言に沈黙していた会場にいち早く衝撃から脱することのできたアイリスは無礼を承知で質問をした。
アイリスからしてみれば、恋愛などどうでもよかったが、せっかく今までの苦労が報われるというときに邪魔されたのだ。なんとか押し返そうとしてくれるガーザスを応援していたが、ついに折れそうに、説得されそうになっているのである。ここはなんとか希望を見つけるためにリスクを承知で何か抜け道はないか考えての一言である。
「我は男児が好きなのだ!!女と結婚するのは苦痛を極めた。が、それが王族の務めである!だからいかに苦痛であろうと、気持ち悪くとも、吐き気がしても耐えよ!諦めろ、我が家名に誓って恋愛結婚など邪魔をすると誓おう!!」
この一言で、みなが思った。
(こいつ、私怨で邪魔してる。サイテー!)