相方と分担と 第八十九話
「じゃあもしかして、他のペア割にも何か理由が?」
「ええ、貴方たち二人には工業区と交易区の捜索をお願いしたいの。ナツメは主に防御力に特化した能力を持ってるし、ココの戦闘力と会話能力は聞き込みにもってこいでしょう?」
「初対面の人と打ち解けられるココさんの力は頼りになりますからね。その代わりに身辺警護は私に任せてください! 必ず守って見せますから!!」
ナツメの能力は藁生成。藁の中に様々なものを収納可能であり、聞けば藁人形になった体には物理攻撃を無力化できるらしい。工業区にも行くことを考えると相応に危険は付き物だし、確かにこの中で一緒に行くならナツメが一番だろう。私としても初めてのナツメとの共闘はちょっと楽しみだ。
「危険な場所に向かわせてごめんなさい、二人とも。ほんとは言い出しっぺの私が行くべきなんだけど、体質上あまり長時間外出できないの」
「大丈夫ですよ。逆にそういった危険な任務こそ私が輝く場所なので!」
「怪我だけには注意してね。……それでシルク、私と貴女が組む理由は?」
「それはね、えーっと――」
「あれ? そういえばシルクさんとこよみって会ったことあるの?」
少なくとも私が二人を紹介した覚えはないが、こよみがシルクさんのことを呼び捨てしているところを見ると結構親しめ?
「知りたい~? ほら、私ってもともと日光駄目じゃない? 今は能力である程度抑えられるんだけど、前は夜の内が唯一外出できる時間だったのよ。その時からの知り合いなのよね~♪ 私達」
「私の舟の貴重な常連さんよ、シルクは。それで話の続きを」
「あぁ、ごめんなさい」
意外や意外、私が紹介する前から二人がお知り合いの関係だったとは。世間は狭いって言葉の意味は、こういうことなのかもしれないな。
そういえば、二人は太陽を克服する能力者と月に関係する能力者。もしかして、近い性質の能力者同士気が合ったりするのだろうか? 能力というのは奥が深い。
「私とこよみが組む理由は、一つは顔見知りで会話がしやすいということ。もう一つは、ペアに一人ずつ椿ちゃんを直接見たことがある人を入れたかったの。だから初めにココとこよみちゃんは別に考えて、後で私とナツメちゃんを割り振ったのよ」
「なるほど、了解したわ」
「これでペアと役割は理解してもらえたわよね? じゃあ次は捜索が終わるまでの決まりごとについて説明するわ。――ひと~っつ! 捜索は安全のために日が暮れる前に終了すること!!」
「……なんです? そのノリ」
「ココさん、思い出してください。シルク様は初めての人や沢山の人に囲まれると、」
「興奮するんでしたね、そういえば」
「二人とも~、聞こえてるわよ~」
「ごめんなさいっ/すみません」
ジト目を向けながら抑揚のない声でツッコミを入れるシルクさんに、私とテトさんは密かに笑いあう。
ただそれもシルクさんにはバレていたらしく、火に油を注いでしまった結果シルクさんは強引にノリを維持したまま話を進め始めた。
「むぅぅ、二人して笑ってぇぇー! もういいもん! ふた~っつ! 休憩は二時間に一回入れること! みーっつ! 報告はこまめに行うこと! よーっつ!――」
「シルクさん、そのノリ続けて疲れませんか?」
「ナツメちゃん、正直に言うわね? ……すっごく疲れる」
「「「「(じゃあやらなきゃいいのに)」」」」
私にエリさんのような鋭い直感はないが、今シルクさん以外の全員と心が通ったような気がする。シルクさんが悪ノリし始めたのは私とテトさんのせい? はて、何のことやら。
「もう簡単な方にするわ。この紙に細かい規則を書いてあるから各自見て頂戴」
「いつの間にこのようなものを……初めからそうしていれば疲れずに済んだのでは?」
「だってだって~! 紙を渡してハイ終わりなんてつまらないんだもん~! というか、私がこのノリ続けることになったのは貴女とココちゃんのせいってこと忘れてない~?」
「はて、なんのことやら」
「プフッ!」
私と同じとぼけ方してるよテトさん。不意打ちに思わず引き出してしまった。受け取った紙に隠れて噴き出したので二人にはバレてはいないと思う。もしバレてたら後でシルクさんのスライムに生き埋めにされそう。
それはともかくとして、私はシルクさんからいただいた紙に目を通す。
内容は――
一、捜索は日暮れまでを条件とし、危険を感じたらすぐさま逃げること
二、テトラの負担を減らすため、二時間に一度休憩をはさむこと
三、休憩時を含め、報告はこまめにおこなうこと
四、ペアとの協力を第一に個人で動くことは控えること(特にココちゃんは!)
五、問題解決までは、図書館に寝泊まりすること
……四番目、どうして私を名指し?
「シルクさん、私ってそんなに信用ありません?」
「この状況は一体誰のせいだ~?」
「ぐうの音も出ないッ!!」
今回のことは本当に申し訳なく思ってますですはい。……ごめんなさい
「シルクさん、この五番目の規則についてなのですが」
「あぁそれ? 表記の通り、問題が粗方片付くまではみんなでここに寝泊まりしようってことよ? 無事を確認するためって名目でナツメとこよみにはすでに許可をもらってるわ」
「ここに来る前に、お店に休業の看板出してきました」
「私も上に頼んでしばらく舟の運航を休ませてもらったわ」
「……私も、いいんですの?」
「あたりまえよ♪ みんなで楽しくお泊り会しましょう♪」
シルクさん初めみんなの言葉を聞いて、エリさんと私は同じくぽかんとした言葉を浮かべた。同じ表情でもその理由は、多分違う部分だが。
「大丈夫、ですか? 解決までどのくらい掛かるかわからないんですよ?」
「ココちゃん、私たちの覚悟を甘く見ないで。貴女を助けるためなら仕事を失うことだって受け入れるわ」
「そうですよココさん。貴女が私を命がけで救ってくれたように、私も命を懸けて貴女の味方でいますから」
「私は……言わなくてもわかるわよね?」
「みんな……」
……椿さんの捜索、それに女王との問題解決頑張ろう。
みんなが全てを失う覚悟をしたとはいえ、実際に全部を失わせるわけにはいかないっ!
「心配しなくても大丈夫よ♪ 例え仕事がなくなったとしても、私たちが力を合わせればなんだってできるわ」
「ありがとうございます。でも、仕事をなくさないに越したことはないので全力以上に頑張ります!!」
「……全力以下で大丈夫よ?」
「 羨ましい、ですわ 」
「――え?」
突然、エリさんがそんなことを口にした。
見ればエリさんの二つの瞳は私のことを見つめており……いや、これは私も含めて自分以外の全員を見ていた。
「全員一丸となって協力し合い、ただ一人のためにすべてを投げ打ってでも助けようとする。そんな関係のあなた達が、私はとても羨ましいですわ。私の周りには、そのような人は一人もおりませんでした。唯一信頼していたレンも、今は……」
「エリさん……」
エリさんは今まで気丈にふるまってこそいたものの、慣れない環境にただ一人身を置く恐怖にずっと耐えていたのだろう。今までずっと側にいたレンという相棒もいなくなり、彼女を支えていた心の支柱も折れる寸前なのだ。
そうではないと言いたい、私がいると今すぐに伝えたい。でもそれを、彼女をここまで追い詰める原因になった私が話しても良いのだろうか。それは、なんだか違うような気がして――
「――あなただって、自分の立場を犠牲にココを助けたじゃない」
「(こよみ?)」
「こよみさん……」
「貴女は王族という立場を、ココという一人の人間のために犠牲にした。私達ですら長い時間をかけてようやくできるような覚悟を、貴女は一瞬で行動に移したのよ。だから私たちは、ココだけでなく貴女のためにも動いている」
「そう、なのですか……?」
「そうなのです♪ さっき私が言ったことを重く捉えすぎちゃったみたいね。確かに私たちはココを第一に考えているわ? でもそれは、彼女と私たちが親友だからよ?」
「シルクさん……」
「今の貴女の立場は、残念ながら私たちに協力を持ち掛けるただの依頼人です。しかし、貴女が私たちと志を同じくするお人であるならば」
「私たちはエリさんへの協力を惜しみません。友達ですから」
「テトラさん……ナツメさん……」
「それにココの行動に苦労させられるのは、今に始まったことじゃないしねー? むしろ苦労を分かち合える人が増えるのは歓迎よ」
「「「確かに」」」
「ちょっと!?」
「「「「あはははははは!!」」」」
「――皆様っ! ほんとうにっ、ありがとうございます」
作戦もきまり、エリさんと私とみんなとの距離感もだいぶ近づいたように思う。
そんな大切な友人たちを路頭に迷わせることのないよう私は今後より一層の努力することを決意し、その日の会議は終了した。




