技能と地固めと 第八十八話
「それよりも今は、どうやってその椿さんとやらを捜索するかですよね」
エリさんの仲直り大作戦にナツメの協力を得られたとしても、まずはその椿さんに会えなければ始まらない。
「あの、この前みたいに掲示板に貼りだしてみたらどうですか? それなら顔を知らなくても本人が訪ねてくれるかも」
「それはあまり得策とは言えないかもしれません。お二人を狙う相手が国である以上どこから情報が洩れるかわかりませんし、彼女にしてみれば見知らぬ他人から名指しで指名された状態。警戒して身を隠す可能性もあります」
「そ、そうですよね。すみません」
「いいのよナツメちゃん、どんどんアイデアだしていきましょう」
「「「うーん」」」
私もナツメと同じこと言おうと思ったんだけどな~。でもテトさんの言うとおり、できればここにいる人だけで少数で動く方が安全だとも思う。
しかしそうなるとどうにかして外見の特徴を伝えないといけないし……金髪? 男口調? 赤い服? 結構そういう人いっぱい見たな。でも伝えないよりはマシかもしれない。
「あの、口頭で特徴を伝えるのでそれを目安に探すのはどうでしょう」
「それしかないわよね。せめて正確な似顔絵でもあればやりやすいんだけどなぁ~」
「似顔絵ですか。流石に持っては ――似顔絵?」
「ココさん?」
なるほど、その手があった! 久しぶりすぎて感覚が鈍っている可能性はあるが、それでも椿さんの外見的特徴をわかりやすく説明できる唯一の方法だろうこれは!!
「そうだ。そうだ絵だ!!」
「ど、どうしたのココちゃん急に!?」
「すみませんシルクさん、いらない紙とペンを貸してくださいませんか? 私、今から描きます!!」
「え? 今から!?」
「ココさん、こちらをお使いください」
「ありがとうございますテトさん! よーし」
行く先々で描き続けていた風景画の成果を今こそ見せるとき!! ふぅ~っと一息入れてペンを構え、頭に先日の椿さんの姿を正確に思い浮かべる。そっちの姿の方がこよみも確認できるし、記憶と違う部分の修正もできる。
ペン先に力を籠め、紙を左手で抑え、正確に描くため目を限界まで開く。
――やるぞ
カキカキカキカキカキカキカキカキカキカキカキカキッッ!!
「「「!?」」」
「ココちゃん!?」
「は、速い!!」
しっかりとした顔つき、少し荒れた金髪、筋肉の付いた体、胸のサイズ。脳内のイメージを可能な限り細部まで再現しながら、一度もペンを止めることなく正確に描きすすめていく。それを前後左右の四視点分描き、最後の後ろ姿までの全工程を過去最速の三十分で描き上げた。
――ピシッッ!
「っはぁっ! はぁっ! はぁっ! できました。こよみ、一応記憶と違いがないか確認を。……こよみ?」
「!! え、えぇ。確認するわ」
ふぅー、過去最高に集中してた。あまりに集中しすぎて作業間の記憶は飛んでしまっているけど、出来上がったものを見てみれば私が思い浮かべた椿さんの姿そのものなのでまぁ問題はないはずだ。
現に仕上がったものを確認しているこよみからは何も指摘が起きていない。それどころか、さっきから誰も一言も話さずすべての視線がこっちに向いている。なぜに?
「……完璧よ。髪の質感も、体格も着ている服も、すべて私の記憶通り。まさか、この短時間で?」
「凄いわ~……言葉が出ないとはまさにこのことね」
「目の前で実際に見ていても、夢の類ではないかと疑わずにはいられません。お見事ですココさん」
「凄い! 私もその絵はやく見たいです!」
「…………!」
「えへへ~♪ いやぁ~それほどでも~♪♪」
まさかこんなにも褒められるとは思いもしなかった。私のこんな特技一つで驚いてくれるなら、頑張った労力も報われる。それにしても指がつりそうだ。こんなに早く描き上げたことは今までないものだから体が悲鳴を上げている。描くこと自体久しぶりだったのもあるけど。
「凄いですよシルクさん、これ服のしわ一つ一つまで再現されてますよ」
「本当ね、今度私もココちゃんに描いてもらおうかしら」
「ふむ。失礼、少しその紙をお借りしますね」
「あ、はい。どうぞですテトラさん」
テトさんはそう言って、私の描いた全体図を片手に席を立つ。そしてテーブルのない多少なりと開けた場所に立つと、おもむろにその場で左手をかざす。
その動作、その構えは、病院で入院中に何度も見た。幻で文字の世界を表現するテトさんの能力!
「――複写完了。幻に映します」
彼女の手により映し出されたるは、まさしく私の書いた絵の通りの椿さん。だが色までは塗っていなかったので全身は白黒のままだが。
「ココさん、彼女の身体的特徴を教えてください。これに反映しますので」
「わかりました! えーっとですね、まず髪は金髪で服は赤色で。あ、赤はもう少し暗めのワインくらいの色です。そうそうそんな感じ」
「服のこのラインは黒よ。それともうちょっと目元は厳つい感じね」
白黒だった椿さんが、既知組二人の指示により少しづつ色づいていく。着色と修正を繰り返し、完成時には本物とうり二つなものが出来上がった。
「これが椿さんですか」
「この人を探して、ここに連れてくればいいんですね? 了解です!」
「ここまで完璧に人相がわかれば私達でも彼女を捜索できそうね。助かったわ二人とも」
これに関してはテトさんの能力が凄いだけだと思う。私たちが口で伝えた情報を完璧に幻に反映するには、相当の集中力と想像力がなければできない芸当だ。長い時間シルクさんと共にいて、たくさんの本に触れてきた彼女だからこそできる事だ。
「……まさか、このようなことができるとは思いもしませんでいたわ」
「みんなが力を貸してくれてよかったでしょエリさん。今はテトさんの力しか見せていないけど、私の友人は凄いよー?」
それだけは、私が自信を持って言えることだ。ここにはいないキリエやサクヤさんだってそう。
これで椿さんの顔と特徴がみんなに知れ渡った。いよいよ作戦会議も大詰めに入る。
「ココちゃんにそう言われちゃったら照れるじゃない♪ これはもっと頑張らなくっちゃね? それじゃ、椿ちゃん捜索に向けていろいろルールを決めるわよ~」
「「「「はい!!」」」」
シルクさんの司会進行に合わせて、話し合いは捜索の方法についてのものとなる。
これが終われば、いよいよ本格的にエリさんの問題に着手することになるのだ。
「いいお返事。まずは捜索に関してだけど、原則二人ペアで行動してもらいます。割り振りに関してはこちらで決めたので発表するわ。ココちゃんとナツメちゃん、私とこよみちゃん、テトちゃんとエリちゃんでペアを組んでもらって、その内テトちゃんとエリちゃんにはここに残ってもらってもらいます」
「お待ちください! 私がなぜ待機なのですか!?」
「エリちゃんはこの国の王族として顔を知られてるわ。貴女の実力を疑うつもりはないけれど、万が一捜索中に革命派の、それも過激派と出会ってしまえば敵が増えることになる。今革命派の末端と遭遇するのはできれば避けたいはずよ」
「ッ! しかし!」
「さっきの責任のことを気にしているの? 心配せずとも貴女にもやってもらうことはあるわ。テトちゃん」
「はい 『皆さん、私の声が聞こえますか』 」
「ッ!?」
「なにこれ!? テトラさんの声が頭に直接!?」
「不思議な力ね」
これも入院中に映し出した幻影の音を出すためにテトさんが使ってくれた能力。しかし対象を指定すれば遠くにいても声を届けられるなんてすごい能力だ。
今回の作戦の一番の功労者はテトさんかもしれないな。
『私は触れた相手を対象に、幻聴として私の声を届けることができます。基本私を介することになりますが、対象者同士の会話も一応可能です。これを使用し、捜索中はこちらから逐一情報をお伝えいたします』
「そういうこと。確か貴女の能力は直感を鋭敏にすることができるのよね? それは遠く離れた相手でも可能?」
「それは……おそらく、私と多少なりと親交を深めた相手であれば可能ですわ」
「なら貴女にできる最大の感覚で、危険を察知し次第テトちゃんに伝えなさい。いいわね?」
「……かしこまりましたわ」
ちょっとだけエリさんは不服そうだ。だが彼女が本当にやるべき仕事はその後にあるわけだし、ここは大船に乗ったつもりで私たちに任せなさいな!
……私も、顔バレしてなければいいけど。




