集合と計画と 第八十七話
「――みんな集まったわね。これより、第一回緊急会議を始めるわよ」
「はい、シルクさん」
「今回の議題は非常に重要な問題です。慎重に審議していかなければ」
「そう。すべてはココの安寧のために」
「……あの、みんな。――どうしてこの部屋暗いの?」
その日の午後。こよみの手を借りて友人たちを招集しは私は、場所はシルクさんの図書館の三階を借りて椿さん捜索をお願いすべくテーブルを囲んだ。
ここまでは何事もなく順調に進んだのだ。問題は、全員が部屋に集まり席に着いたときに起こった。
『じゃあテトちゃん、予定通りよろしくね』
『かしこまりました』
シルクさんが何やらテトさんに指示を送ると、テトさんは室内の照明をすべて落とし今の現状を作り出したのだ。あまりこう言いたくはないが、緊張感なさすぎでは?
「色々テトちゃんからかっこいい物を聞いてるうちに、実際に私もやってみたくなっちゃって。せっかくだから記念にね~」
「今、私の夢が一つ叶いました。感無量です」
「諸悪の根源そっちか~」
シルクさんの指示かと思っていたが、発案者はあの真面目なテトさんだった。まぁこんな状況じゃなければ私だってかっこいいし、みんなで秘密の作戦会議ごっこだってしたいけど。したいけど! 隣に座ってるエリさんが何とも言えない表情してるから!!
「……失礼。助けていただく身でこういったことは言いたくはありませんが、もう少し緊張感といいますか。事の重大さを理解していただきたいのですが」
やっぱり、エリさんもそう思っちゃうよね。私だけじゃなくて安心したよ。
「ふっふっふ、心配しなくても大丈夫よ王女様。これにはちゃんとした意味があるんだから」
「意味、ですか?」
「そう。テトちゃん、首尾はどう?」
「はい、シルク様。ご指示通り部屋全体に幻影を張り巡らせました。これで外からは中の様子を伺うことはできなくなり、万一聞き耳を立てたとしても、私の幻聴の力でまったく関わりのない話が相手には伝わるはずです」
「では、部屋の照明を落としたのにはどういった理由がおありなのですか?」
「テトちゃんの能力が張り終わるまでの時間稼ぎかしらね。もう付けてもいいわよ」
「……なるほど。失礼をいたしました」
「(まさかちゃんとした理由があったなんて)」
「ココさん、もしや私のことを疑っていましたか?」
「あ、あはは~……ごめんなさい」
バレてた。勝手に秘密の作戦会議ごっこなんて思ってしまってごめんなさい、一番緊張感足りてないの私でした。
「え~……こほん。では準備も終わったところで、会議を始めていきましょうか。まぁまず最初に、軽い自己紹介をしてもらおうかしら」
「わかりましたわ。……改めて、私はこの国の第一王女エリと申します。式典等ではお会いしたことがあるとは思いますが、この度は私の勝手事に皆さまを巻き込んでしまい、まことに申し訳ございません」
「はい、ありがとう」
「……本当に、ココさんは王女様とお友達になろうとしていたんですね」
「ココさんからのお話を聞き大変なことが起きると覚悟はしていましたが、まさか三日後とは想定外でした」
「ごめんね。私自身こんなにはやく問題が起きることは想定してなくて」
すでにシルクさんとテトさんには、私の方から簡単な事情は説明している。ナツメにも呼びに行ったこよみの方から説明はされていると思うので、会議は事情説明を省き問題の定義から始まった。
しかしそうか、あれからまだ三日しかたっていないのか。いろいろあって時間間隔に狂いが出始めるくらい、最近の私は重労働にも程がある。
今日だって本来ならしばらくベットに張り付けなところを、エリさんの事情を考えると悠長にはしてられないと、病院から強引に退院をもぎ取ってここにいるのだ。
「まぁ起きてしまったものはしょうがないわ。一応会議を進めやすくするために私が情報をまとめた紙を作っておいたから、各自で確認してちょうだいね。じゃあ本格的に話し合いに移るわけだけど、みんなはどう思う?」
「……難しい問題ですね。女王がココさんを狙っている以上、間違いなく国中の兵士がココさんを探して目を光らせているはず。そんな状態で椿さんっていう人と革命派の本拠地を探し出すのは困難極まってますよ」
「そうよね~、かといって素直にココちゃんをはいどうぞ? なんてしたら何をされるか分かったものじゃないもの。私は絶対に嫌よココちゃんに会えなくなるなんて」
「シルクさんっ」
シルクさんの一言で、ジーンと胸の奥が切なくなる。ちょっと鼻にも来た。
こよみだけでなく、シルクさん達も私のために本気になってくれてると思うと胸がいっぱいになる。それだけで彼女たちに出会えたこの幸福を神に感謝したいくらいだ。感謝は常日頃しているけど。
「しかし革命派の本拠地はともかくとして、この椿という方は今の私達では探しようがありません。せめて姿形が判明しないことには」
「確かに。この場で彼女と直接顔を見合わせたことがあるのは、私とココだけだものね」
「仮に順調に見つけ出せたとしても、協力してくれる可能性は低いんですよね? おう……エリさん」
「……えぇ、彼女は私のことを恨んでいますわ」
パーティーの日に工業区で起きたことはすべて白状済み。つまりエリさんと椿さんの間に何があったかはっきりと把握されている。当然、書面にも載っている。
「念のため、これだけははっきりと伝えておくわね? エリちゃん」
「はい」
「ナツメちゃんはともかく、私とテトちゃんはココちゃんのために力を貸してあげているの。彼女は私たちの大切な人で、貴女を助けたいとココちゃんがお願いしたからこうして危険を承知で考えているわ。椿ちゃんを探すことには協力するけれど、その後仲直りできるかは貴女次第よ」
「私もよ。病院では伝え忘れたけれど、私もココのことを第一に行動させてもらうから」
「承知しております。革命派の方々に直接お会いしたいというのは私の勝手なわがまま。皆様を巻き込む以上、成すべき責任は必ず果たして見せますわ」
「――私は、仲直りを手伝ってもいいですよ?」
「ナツメ!?」
シルクさんとテトさんは私のためのみに協力することを申し出て、ナツメはエリさんのわがままにも付き合うことを申し出た。
これには聞いていた私やエリさんをはじめ、場にいる全員がナツメを驚きの眼で見る。
「申し出はありがたいのですが、なぜそのようにお考えになったのかお聞きしても?」
「エリさんの行いは、確かに恨まれても仕方ない自業自得だと思います。でも、椿さんとその仕事が完全に無実かと言われればそうではありません。互いに悪い部分があるなら、話し合いの余地は十分あるとおもいませんか? 少なくとも、私がココさんにしたことに比べれば」
「ッナツメ……やっぱりまだあの時のこと」
「ごめんなさいココさん、この記憶は戒めのために忘れないことにしたんです。……大丈夫ですよ。ココさんが許してくれたことは、ちゃんとわかってますから」
何度も何度もそう言ってるのに、ナツメは未だ私への八つ当たりの件を引きずっているようだ。それほどに彼女が受けた過去の傷は深く、根深い。たった一度の過ちでここまで自分を傷つけてしまう優しい彼女を、精神的に追い詰めた何者か。どこかで会うことがあったら、その時はきっちりと私が制裁してやろう。
大丈夫、暴力などしなくてもそいつらの前で仲良しアピールしてやればいいんだから。
「ありがとうございます、ナツメさん。貴女の言葉に勇気を頂きました」
「必ず上手くいきますよ、エリさんなら」
「そうだよエリさん、私とナツメがうまくいったんだもん!」
その時、この会議の中で初めてエリは笑った。緊張もほぐれ、会議はさらに進展していく。




