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希望とプロポーズと 第八十四話



「私、お願いしてたことすっかり忘れてました」


「あら、フフ」


「あははは~……」


 まぁ、最善の結果には及ばずともこうして月夜にこよみとお話しできるようになっただけ万々歳か。新たな問題も増えてしまったけど彼女の抱えている問題についてはひとまずの解決を見たということで。


「あれ、そういえばエリさんの姿がありませんけどどちらに? それにここ、重症患者用の個室?」


「ココと一緒にいた人? あの人なら別室で一日入院ということになったわ。貴方ほど外傷を負ってはいなかったけれど、念のために個室をお願いしたわ。彼女、貴族区の人なのでしょう?」


「こよみ……!!」


 見事な気の配り方にますますこよみへの好感度が上がっていくのを感じる。ありがとうこよみ! 本当にありがとう!!


「ねぇココ、一つ質問してもいい?」


「ありがとうっありがとう! ――えぁ? あ、ああうんいいよ?」


「ココは、どうして他人のために命を懸けようとするの?」


「命を、ですか?」


 いきなりのこよみの真面目な質問に内心ドキッとしてしまった。私のここ二日の行動は、こよみからしてみれば不思議に思うのも無理はないか。こよみのために脇腹出血、骨折、左腕の機能不全と入院確実な重傷を負った状態で、一日と経たず今度はエリさんのために溺死寸前までいったのだ。

 例え私のことを詳しく知らない人が聞いても、頭おかしいんじゃねぇの? と突っ込まれること間違いなしである。


「どうしてって言われてもなぁ……それが私の生きる理由っていうか、そうしなくちゃいけないって本能で思ってしまうといいますか」


「……」


「あー。納得、できませんか?」


「友達のために行動すること、それ自体は私も理解できるわ。でも、それが自分の命と天秤にかけられるかと言われたら、正直、他人を優先することはできない。だって、死ぬのは怖いもの。……人を殺さずにはいられない私が言えたことでもないけれど」


「まぁそれが普通ですよね。誰だって自分が危険な目に合うのは怖いですし、私だって怖いですもん」


「でもあなたはこうして、自分の命を鑑みず死にかけるような行動を何度もしている。体が怖いと認識している行動を他人のために起こすには、そうするに足る覚悟や理由が必要なはずよ? 包み隠さず言うなら、私の殺人衝動だって一方的に攻撃できる状況が前提にあるのに」


「ほんとに病院でおっそろしいことぶっちゃけますね」


 ま、まぁこの際こよみの殺人衝動のことは片隅に置いておこう。これから少しづつ改善していけばいい問題なのだ。

 うーむ、それにしても私が命を懸ける理由か。初めはキリエが借金取りの男たちと話しているところに遭遇して、私が他人とのつながりを求めていたことを自覚したことで危険な問題に首を突っ込んだ。

 次は、キリエがナツメと戦っていると認識した時。思えばあの時に今の私の行動が形作られたような気がする。あの時にも、キリエが危険にさらされていることが我慢ならなくて行動していた。


 あれ、そういえば今回のこよみとエリさんの件を除けば、私が命を懸けた行動を起こしたのはすべてキリエに危険が迫った時なような。


「うーん……私自身、考える前に行動に出るタイプなので覚悟とか理由とかはないんですけどね。しいて今決めるとすれば、その人と関われなくなるのが怖いから、ですかね?」


「怖い?」


「はい。もしも友達が命の危険に瀕しているとき、見て見ぬふりをした結果手遅れになったとしましょう。もう二度とその人と会話することはできませんし、触れ合ったり、食事したり、出かけたりすることもできません。そんな未来を想像したら、恐ろしいどころの話ではないですよね」


「……」


「私の友達になってくれた人たちは、もうどうしようもなく素晴らしい人たちばかりです。それぞれ得意なことがあって、綺麗で、優しくて、たかだか小さな街の小さな事故程度で失われていい命ではないんです。それなら、特に自慢できるような技能もなくちんちくりんで別に可愛くもない私が身代わりになった方がいいと思うわけですよ。あ、これ理由になりますかね」


 友達を助けることに理由なんてありません!! ドヤァ

 と言ってからすぐ前言撤回し人を助ける理由を挙げる私。現に話を聞いていたこよみはぽかんとしてしまっている。

 悪いとは思っている。でも仕方ないじゃん、聞かれるまで人を助ける理由を考えたことなんてなかったんだもん!!


「……もう一つ、聞いてもいい?」


「どうぞどうぞ。一つと言わずいくらでも質問してください!」


「もし、もしもよ? 私が衝動に任せて人を殺めて、関係者から復讐されそうになった時。貴女は復讐者と私、どちらに付くの?」


「当然、こよみに付きますよ? 当たり前ですよね」


「そのことがきっかけになって、貴女も命を狙われることになったとしても?」


「もちろんです」


 こよみが言った、関係者から敵として認定される云々のお話。実は今の時点で似たような状況に陥ってしまっていたりする。エリさんと椿さんしかり、エリさんとレンしかり。いや後者の場合、狙われているのが私で巻き込まれたのがエリさんなの、か?


「そう、なのね」


「ええもちろん。むしろ私と関わることで、こよみに面倒をかけてしまう可能性はありますが」


「それこそ私が言えたことではないもの、構わないわ。……そう、そうなのね」


「ん?」


 突然こよみは座椅子から立ち上がり、光が直で当たる場所に立ち窓を開く。今日の空にはいつもの青い月の代わりに、僅かに日光を漏らす黒い月が浮かんでいる。


「こよみ?」


「……今日の日食は、噂では一生に一度しか起こりえない完璧な日食らしいの。世界を照らす黒い月の周りを、綺麗な輪が囲むの」


「そうなんですか? でも、それを見るならわざわざ窓を開けなくても――」


「――もうすぐよ」


「ッ」


 今の時点では光の輪に僅かなムラがあり、完璧な光の円とは程遠い。しかしこよみの言うとおり、注意してみると少しづつブレが収まり完璧な輪が形作られていく。

 ――その時、こよみはおもむろに両手を空にかざす。同時に彼女の手のひらからは、神々しい白色の光が漏れだす。


「!? 何を!?」


「すぅぅ……くっ! うぅぅぅぅぅぅっ!!」


「こよみぃぃ!?」


 とてつもない光を放つ両手を、こよみは抱えるようにして胸の中に抱き込み光を抑え込むと同時に苦しげな声を漏らす。それを見た私は昨夜と同じ能力の暴走によるものだと決めつけ、ベットを飛び出し彼女の側に駆け寄った。


「こよみ、大丈夫なの? こよみ!!」


「はぁぁ、はぁぁ、はぁぁぁぁ……私は大丈夫よ、ココ」


「いきなり苦しんでびっくりしたよ!! 本当に大丈夫? 体に異常は!?」


 再度体の異常を問うが、こよみはそのたびに大丈夫の一点張りだ。部屋中を包む強い光もいつの間にか収まり、先ほどの光景は夢や幻といった類のものなのではと密かに思った。だが、彼女の手の中を見た時、それが現実であることを知る。


「本当に大丈夫だから。それよりも――――ほら」


「? これは?」


 彼女の手のひらに載せられていたのは、この世のものとは思えない穢れなき白色のたった一つの指輪。

 それはまるで、先ほど空に浮かんだ光の輪のよう。


「日食の日にだけ起こる月の輪、別名ダイヤモンド・リング。私の能力で形にしてみたの」


「まさかさっきの光は、これを作るために?」


「思った以上に力を使っちゃったけど、その分想像以上に綺麗に仕上がったわ」


「なぁんだ~。作るならそう言ってくださいよびっくりしたなぁ」


「ごめんなさい。今この時この瞬間の月の輪を、あなたにあげたくて」



「へ? わ、私に?」



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