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救援と決着と 第七十五話



「 よぉ、また会ったなココ 」


「へ……?」


 こよみからの攻撃が、来ない? それにこの、勝気な声は……!


「椿さん? どうして、ここに?」


「おう、怪我はねぇか? ……なんつってな。遅くなってわりぃ」


 視界いっぱいに映る巨大な狼をかたどった白煙。かすかに見える金の髪といいこの声といい、彼女は間違いなく工業区で別れた椿その人だ


「……どうして私を……それに、仇討は?」


「あ~~なんつったらいいのかわかんねぇがよぉ、手がかりを探していろんな場所回ってたらたまたま出くわしたっつ~か」


「ニ、ヒヒ ヒ?」


「おお~すっげぇ力、カッコつけて素手で止めなくて正解だったぜ」


 私が全力を出しても全く歯が立たなかったこよみの腕力に対し、椿さんは能力+片腕で軽々と抑え込んでいる。これが能力、私が及ばない領域の力。

 過去の私であれば能力など気にもしなかっただろうが、今は少し、ほんの少しだけ能力を持っていないことが悔しい。


 ―― もし私にも、こよみを止められる能力があれば…… ――


「能力は筋力強化とかその辺か? 桜花みてぇなやつだな」


「ッ!? 桜花にあったんですか!?」


「お? なんだココも会ったのか? それともお前の友達か? なぁ、あいつの喧嘩っ早さはどうにかなんねぇか? いきなり喧嘩吹っ掛けてきやがって」


 椿さんは私と別れてから、桜花にあったという。出会った経緯や理由は実にあの人らしい納得できるものだが、あの戦闘狂を宥めて説得するのはかなり骨が折れると思う。


「アハァ♪」


「な、なんだよ気持ち悪い顔しやがって」


 と、私以外の人間が間に入ってくれたことで気が緩んでいたが、相変わらずこよみは暴走状態のまま。おまけに体も機能不全なため、ここは椿さんにこよみの捕縛をお願いしよう。


「椿さん、彼女を、こよみを捕まえてください!」


「!! まさかこいつもお前の友達なのか!? お前の交友関係まともなやつはいねぇのかよ!?」


「今、彼女は正気を失っています! 理由はわからないけど、とにかく落ち着かせなきゃ!」


「正気を? 今時珍しいタイプの能力だな。……って! どのみちまともじゃねぇじゃねぇか!」


「ハァァァァ!」


「ッ! 避けて!」


「は? なんだっ ――」


 指先からではなく、半月型の彼女の口から放たれた再びの赤い光。煙化した椿さんの顔面を散らし、私の頭上数センチ上を掠め壁を貫通し突き進む。

 矢の狙いが立った状態の椿さんの顔に向いていたおかげで、通り抜けた矢が私に直撃するという間抜けな死に方はせずに済んだ。あれ、なんだか前にも頭上すれすれに攻撃を避けたことがあったような。


「な、なんだ今の!?」


「あれが本来のこよみの能力です! 光を矢にして放ちます! 軌道は自在に変えられるので油断しないで!」


「はぁ!? おかしいだろそれ! 能力は一人一つのはずだろ!?」


「そ、そうなんですか? と、とにかく次きますよ!」


「あぁもう! 飛び道具あんなら先に言えっての!」


「へ? うわっ!!」


「ハァッ!」


 続けて第二射。しかし今度の椿さんはそれを受けることなく回避し、背後で動けなくなっている私の体を抱え逃走する。その際彼女は全身を白狼に変化させており、触れないのに持ち上げられているという不思議な感覚のまま私は真っ白の煙の中に入っている。


「ちょっ!? どこに向かっているんですか!?」


『私の能力は攻撃を透かすことはできても受け止められないんだよ! 怪我で動けないお前を後ろにおいて戦えるか! ッ!! もう追いついてきやがった』


「え?」


『あ、こら! 顔出すな!』


 椿さんの言葉をいったん無視してぎりぎり頭だけを彼女の白狼の体から覗かせると、確かに背後には赤い光をまとったこよみが矢を放ちながら追ってきていた。

 二人ともに、平気な顔して家々の屋根を乗り移り高速で移動している。


「ッ!」


『いい加減顔戻せ! 流れ弾に当たっても知らねぇぞ!』


「ッ椿さん、やはり一度何処かで彼女を捕縛するべきです。この際、少々手荒な真似をしてでも」


『そりゃそうだろうけどよ。仮に気絶させた後はどうすんだ? 起きてまた暴走するんじゃ同じだぜ!』


「……しばらくこのまま逃走を続けてください。原因と対処法を考えます」


『わかった! なるべく早めに頼むぜ!』


 椿さんに了承をもらい、私はこよみの暴走の原因を探る。

 まず、普段の彼女の様子と今を比べてみよう。一番明確な変化は、やはり瞳の色だろう。今夜の月のように真っ赤に染まった瞳は、一目で変わっていることに気が付いた。それに赤いといえば彼女の光の矢も、瞳と同じく赤に染まっている。

 ……赤に染まった光の能力か。そういえば彼女は光の矢を放つとき、上弦、下弦って月の形を名前に入れて呼んでいたっけ。

 

 月、か


「うッ!?」


『悪い、掠っちまった! 大丈夫か!?』


「だ、大丈夫です! 手の皮が少し剥けただけですから! それと椿さん、こよみの暴走の原因として一つ思いついたんですけど!」


『俺のことは気にすんな! 早く言え!』


「はい! 多分彼女の暴走の原因は月です! 月の色!」


『月? なんでんなもんが』


「おそらくこよみの本来の能力は、月の光を矢にして放つ能力の方だと思うんです! それには月光を体に蓄える必要があって、今日の赤い光を吸収した結果暴走しているのではないかと!」


『普段とは違うものを食べて体を壊すみたいにか? 根拠としちゃぁわからなくもねぇが、仮にそれが正解だったとして今夜一晩はずっとこの状態ってことか?』


 確かに、私の考察が正しければ今夜一晩は暴走したままだろう。でも本人の意思に関係なく体が動いているってことは多少なりと神経に負担がかかっているはず。最善は光を完璧に遮断して精神を落ち着かせることだが


「うーん、レンの抑制ならできなくもないだろうけど」


『あ? なんかいったか?』


「な、なんでもないです!」


 あっぶない。彼女の前で二人の話題はダメなんだった。

 でも、光から逃れる方法か……日差しを避けたいときには木陰に入ったりするものだけど、彼女の場合は部屋の中で毛布を被ったところで無意味だったみたいだし。


 ん? そういえばあの時、毛布を被っていた時は会話できる程度に正気を保っていたような。

 ……もしも毛布以上に光を遮ることができるものがあれば、こよみは完璧に正気を取り戻すかもしれない


「うッ……つぅ、さっき撃たれたところが痛む。出血もひどいし、早く手当しなきゃ。服にも穴が――――っ!!」


 瞬間、頭を過る閃き。

 光を遮り、後にできるものは一体何か、それは日陰。仮に陰そのものを布のように覆いかぶせることができるとしたら? ……やってみる価値は十分にある!


「椿さん、作戦決まりましたよ!」


『そうか! ならちゃっちゃと済ませようぜ! 俺は何すればいい』


「椿さんにやってもらいたいことは二つあります、一つは前にも言ったこよみの捕獲。二つ目は捕まえた彼女と私をある場所まで連れて行ってほしいんです。そこからは私に任せてください!」


『勝算はあるんだなッ!!』


「……はい!!」


『よっしゃ! 任せとけ!』


 椿さんには全力で動いてほしいので、途中の屋根に私を下ろしてもらう。

 こよみとは結構距離が空いたので、遠目に私の姿をとらえることはないだろう。万一こよみが私に気づいて向かってくることのないように。


『行ってくる!』


「気を付けて!」


 再び狼煙となった椿さんを、こよみは追う。椿さんの逃げ方が上手いおかげで建物に飛び火することもなく、紅白の戦いは間もなく決着を迎える。


『はっはっはー! 何発撃とうが当たらなきゃ意味ねぇぞー!』


「ハァァ!」


『跳躍……この俺を相手に空中戦を挑もうってか?』


 こよみは屋根を強く蹴り、月を背にするほどの高さまで一気に上昇する。そして両手を前に突き出し光を収束させて……!!


「椿さん! こよみは残った光を全部使って攻撃するつもりです! できれば止めずに空中に放出させてください!!」


『了解、悪いものを全部吐き出させるわけだな!!』


 こよみの周囲を覆う赤い光が消え、代わりに伸ばした手の先には巨大な光球が形成される。あれを撃てば、こよみの中の悪い光はすべてなくなるはず!


「いけぇぇぇぇぇぇぇ椿さぁぁぁぁぁん!!」


『おぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁ!!』


 突進を仕掛け、間一髪のところで腕の向きを地上から空中に変えることに成功した椿さん。

 光の軌道は見事に空へと向かい、天高に伸びた光柱は、まるで赤い月を両断したかのようにみえた。


 ―― 今日この日、地上からは天に上る緋色の光が多数目撃されたという ――



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