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暴露と対策と 第七十一話


 だめだどうしよう!? ナツメが話題を振っただけで倒れてしまった!?


「大丈夫ナツメ!?」


「ココ、あなたとんでもないことを!」


「そ、そんなにおかしなこと言ったかな?」


「可笑しいも何も、常識的に考えるならば推奨できないことですよ」


「私もさすがに、肯定できないかなぁ……」


 やはりみんな、王女様という立場に否定的な様子だ。その理由はまぁ……十中八九女王様の印象のせいだろうけれど


「一応理由をお聞きしても?」


「元旅人だったココはわからないのも仕方ないけれど、この国の貴族、特に国の頂点に坐する女王様は本当にろくでもない人間なのよ」


「そんなに?」


「そうよ? 人を人とも思わない悪逆女王。国を強くするためなら血族ですら平気で処する史上最悪の悪政者。何一ついい噂を聞かないわ」


 な、なるほど……ん?


「やり方はいったん置いておくとして、国を強くするのはいいことなのでは?」


「普通はね。それで国を守り豊かにしますっていうなら私たちも文句はないわよ? でも女王が力をつける理由は別。他国を侵略し、権力をより強めるために兵力を強くしているだけ」


「そうなんだ……」


「そういえばココさん、前に工業区の治安が悪くなっているとお話したことは覚えていますか?」


「テトさん? えーっと……」


 記憶をさかのぼり、テトさんと会話した場面を呼び起こす。あれは確か、私がテトさんにアクセサリーをプレゼントした時だったか。治安のせいで工業区に立ち寄らなくなった云々の……


「うん、覚えてるよ?」


「工業区の治安が悪くなっている理由の一つが女王が今行っている政策にあるのですが、他国に引けを取らない軍隊を作るために工業区のほぼすべての生産力を武器製造に割り振っているのです。その他の生活に必要な物品の生産すら最低限に絞って」


「そ、そこまで? でもアイス屋さんとかジュース屋さんとかいろいろやってたよ?」


「それは工業区に住む人たちのためよ、他の区画みたいに旅行者をもてなそうなんて少しも……――ちょっと待って?」


 キリエはそこで会話を区切った。あれ? また私何か自分の墓穴を掘るようなこと言った?


「まさかココ、しばらく姿を見せない間に一人で工業区までいってたの!?」


「!? しまった!!」


 しまった、エリのことを話すついでに工業区に行ったこと前提で話し進めてた!?

 今から軌道修正……は遅いよなぁ明らかに。だってキリエの目がお説教の時の目だもの。やっちまったぁ。


「コーコー、何か私たちに隠してることないー?」


「な、何もないよ何も!? 王女様とお友達計画以上に大事なことは!?」


「例えそれ以下だったとしても構わないから、工業区で起きたこと全部話しなさい今すぐに!!!!」


「ひえぇぇぇぇ!? キリエが怒ったぁぁぁぁ!!」


 蛇に睨まれた蛙とはまさにこのこと。逃げようにも体を動かせなくなり他の人たちの視線も相まって、私は観念しすべてを話すことにした。話そうと思って止めておいた妹の件や新しい友人たちのことまで含めて。

 特に皆が食いついたのは、妹と友人たちの話題を振った時だった。シルクさん、テトさん、ナツメは私に妹がいたことに、キリエはサクヤさんと椿さんの事情について。


「ココさんに妹さんがいたなんて。しかも、立場は王女様の第一お側付き……」


「ココちゃんはきっと数奇な星のもとに生まれたのね。現実は小説よりも奇なりとはよくいったものだわ」


「すみません、私には理解できない内容がいくつも……情報を整理しますので少し時間をください」



「……それ、本当なのココ。新しい友人が借金取りの男の妹と同僚って」


「うん、本当。サクヤさんがゲイルの妹なのは確定してる。椿さんが同じ組織に所属してたっていうのも、確認を取ったわけじゃないけど多分間違いない」


「危険すぎるわよココ、相手はあなたを恨んでるかもしれないのよ?! 片や借金取りにもう一人は狂人、どう考えてもかかわるべき相手じゃないわ!!」


 えぇ、真に正論でございますキリエ様。私自身なんであの二人と関わってしまったのかと思う次第でありますですはい。

 でも悲しいかな、私は一度友達認定してしまえばどんなに悪人だろうとその人を受け入れずにはいられないのです。自分で言ってて頭おかしいことは自覚してるよ、もうこの際トラブルメーカーなのも認める。


「ごめんね、こればかりは私の性格だから。それに話してみたら二人ともいい人だよ? まぁ一般常識に問題があるのはわかってるけど」


「でも!! ……ごめんなさい、貴女を危険な目に合わせてしまって。もとはといえば私があなたを巻き込んだせいよね」


「え!? いやいやいや、キリエに関わったことと私があいつをぶっ飛ばしたのは別問題だからね? 普通ならもっと穏便に済ませるところを私が荒っぽくしたんだから」


「でも」


「あ~お二人さん、いったいどんな事情なのか詳しく聞いてもいいですか? ちなみに今更はぐらかすのはナシですからね? 少なからず聞いちゃった後なんだから」


「ナツメ……」


 ナツメにいろいろ言った手前話すべきか悩んでるってところかな? キリエは。うーん、ここは二人の溝をより浅くするためにも話すべきか。どのみち今後のことをこよみも含め全員に相談するつもりだったし、今私が抱えている問題全部を白状してからのほうがわだかまりも少ない。

 ……よし、話そう。


「わかった、キリエもいいよね?」


「え、えぇ」


「うん、あれは私が街に来てすぐの時――」


 一から話していると時間もかかるので、大事な部分のみを掻い摘んで説明する。ナツメだけではなくシルクさんやテトさんにも同時に話し、全員問題なくことの重要さを理解してくれたようだ。


「それは……大変でしたね」


「借金取りの男と、その家族同僚と仲良くなったココちゃん。……頭が痛い内容ね」


「キリエさんが叫ぶ気持ちもわかります。そして、ココさんがいかに問題に愛されているのかも」


「はい……言い訳のしようもございません」


 案の定というか知っていて話したことだけど、みんな予想以上の内容に頭を抱えていた。さらに追い打ちをかける様で申し訳ないが、私はもう一つ彼女らに問わなければならない。


「とりあえず、このことはいったん保留にして話を戻してもいい?」


「話を戻す?」


「うん、王女様と友達になる件について確認を取っておきたくて」


「確認?」


「そう。今更取り繕っていっても逆効果だろうしぶっちゃけて言うね? 今後とも私と友達を続けてもいいっていう人手を挙げて!」


「「「は?」」」


「……」


 聞き方失敗したかな。でもこれ以上に単刀直入に伝えられる方法なんて知らないし、失敗ではあっても間違いじゃないと信じよう。


「ココさん……それはいったいどういう意味ですか?」


「友達を続けるかどうか?」


「なぜそのような話を……」


「みんなにこの国の女王様について聞いてみてわかった。そんな恐ろしい人の家族と関わったら、まず間違いなく安心とは程遠い立場にならざる負えないって。それが私一人の問題で済むならいいけど、最悪かかわりのある人全員に危険が付きまとうことになる。だから本格的に王女様とかかわりを持つ前に、みんなの考えを聞いておきたくて」


「もし、関わらないと言ったら?」


「その時は、潔く身を引こうと思う」


 ――私、最低だ。私が今やろうとしていることは、新しい友達を得るために今の友達を踏みにじる行為に同じ。

 彼女たちの友人として、何より人として最悪もいいところだ。でも私は言わなければならない。妹の願いのために、一人で戦う王女様のために、友達の安全のために。


「……答え、今聞いても大丈夫?」


「もちろんです」


「えぇ、ちゃんと考えて決めたわ」


「はい」


「……」コクッ


「ッ……じゃあ、ナツメから」


 まずは一人目・・・


「もちろん私はココさんと友達を続けますよ。貴女が命を張って友達になってくれたように、私もこの命を懸けて友人でいます」


「ッ!……シルクさん」


「私はテトちゃんの判断に任せます。私はココちゃんの友達である前に、従業員の命を預かる経営者。私一人の判断で他人を巻き込むわけにはいかないわ」


「!!!!!!」


「……わかりました。次にテトさん」


「私は友達を続けたいと思います。ココさんは私にとって大切な人であり、なにより私のたった一人の後輩なのです。後輩の成功は一緒に喜び、失敗の責任は一緒に取る。それでこそ先輩というものではないかと考えます」


「じゃ♪ 私もココちゃんの友達続行ということで~♪」


「テトさん……シルクさん……!」


 ナツメもシルクさんもテトさんも、みんな友人として残ると言ってくれた。すでに涙腺は崩壊寸前であるが、私はまだもう一人に聞かなければならない。

 この街でできた最初の友人であり、最も付き合いの長い彼女――キリエ


「最後に……キリエ」


「私は――」



 俯き普段とは真逆のしおらしさを見せるキリエ。彼女は唇を強く噛み、意を決して言葉を紡ぐ。



「 私は、離れようと思う 」



 ―― 瞬間、私の涙腺のダムは瓦解した ――



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