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集合と欠席と 第六十八話



「ふ~、こんな感じでいいかな」


 出店を回りかき集めたお菓子飲み物その他いろいろを両手いっぱいに携え、てんやわんやしつつもこの後のことに思いをはせる。

 主催者ではないけれど、今回集まる人たちは全員私がこの街で出会った素晴らしい友人たち。しかも全員が一堂に集まる初の催しに、楽しみにならないわけがない!!


「おっとと……」


 紙が貼りだされた掲示板からシルクさんの図書館までは少し距離がある。一つ一つは軽いお菓子でも六人分ともなれば重さも相当だが、みんなの喜ぶ顔が見られるならなんてことはない。


「にしても、ほんの十日ぶりなのにやけに農業区が懐かしく感じるなぁ」


 工業区での日々がそれだけ色濃かったともいう……。だってあっちにいる間は常に気を張りっぱなしだったからね? 区内のチンピラはもちろんだけど、組織同士の抗争やサクヤさんからの含みのある視線。気を許せる暇なんてなかったのだから。

 それに比べて、キリエやシルクさんのなんと優しいことか。あ~なんだろう、久しぶりに会えるって思ったら甘えたくなってきた。お菓子と引き換えに抱き着きに行ったらダメかな? なんてね


「んいしょ、よいしょ…… おっ!」


 そうこうしてるうちに、目的の図書館が見えてきた。時刻は夕暮れ時、予定の時間には少し早いが大丈夫だろうか? 店先には見慣れた看板が立てられている。


「こ、こんにちは~! シルクさ~ん、テトさ~ん!!」


 室内は暗い。勤務中はあんなにはっきりと見えた本棚や内装が全く見えないほどに。あれ? もしかして今日じゃなかったのかな。そう不安に思い始めたとき……


「―――― ちゃー!」


「?」


 どこからか、溌溂とした声が聞こえてくる。その声は徐々に……というか急速に私のいる場所に近づいてきた。


「コ~~~~コ~~~~ちゃ~~~~!!!!!!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」


 軽い衝撃とともに、私の足が床を離れる。あまりの驚きについ荷物を手放してしまったが、それは逆に良かったのかもしれない。柔らかな感触に体を包まれながら一気に天井近くの高さまで到達すると、今度は逆向きに加速し始めた。まるで振り子のよう。

 この感触……そしてさっきの高い声音は


「シルクさん!?」


「せいか~い! 会いたかったよぉ~ココちゃ~ん!!」


 やっぱり、触れ合った時の独特のぷるぷるとした感触はシルクさんのスライムだったんだ。天井に伸ばしたスライムをロープ代わりにして、中に入ってきた私を上から急襲したのだ。

 地上に落としてしまったお土産セットは別のスライムが器用にキャッチしてくれたおかげで、床一面にばらまくという最悪の未来は回避された。でも、どうしてこんなことを?


「お、お久しぶりですシルクさん。ど、どうしたんです!?」


「だって~、ココちゃん退院してから全然遊びに来てくれないんだもん!! あの後もう一回入院してたことと、私に隠れてテトちゃんとあってたことは知ってるんだからね!?」


「べ、別に隠してたわけじゃ」


「言い訳は聞きません~!! 罰としてしばらく抱き人形になりなさ~い!」


 お菓子の対価もなく、図らずして友人からの抱擁を手に入れてしまった。数回の揺れを体験した後、私たちは床に着地した。地上に帰ってきたからといって解放されるわけではなかったが。

 ん~どうしたんだろう。確かにシルクさんは人一倍スキンシップに積極的ではあったが、ここまで露骨だっただろうか。


「ココちゃんココちゃんココちゃ~~~~ん!!」


「脳がっ! 脳がぁぁぁぁ!!」


「ほどほどにしなさいよ? シルク」


「き、キリエちゃん!! 来てたんだ! うっぷ」


 いかん、シルクさんが私のことをお構いなしに揺さぶるものだから喉奥からこみあげてくる感覚が!

 かろうじて二階のキリエの姿をとらえたものの、そろそろ三半規管にも限界がきそうだ


「と、とりあえず止めて! 乙女の尊厳が! 数少ない私の乙女の部分がー!」


「あ……。ご、ごめんなさいココちゃん。私うれしすぎて我を忘れてたわ!」


「ぐぇぇ」


「遅かったかしら。大丈夫? ココ」


「大丈夫……なような気がしてるぅ」


 シルクさんの腕から解放されても、ふらふら状態でまっすぐに立つことができず尻もちをつく。足元にいたスライムを一匹下敷きにしてしまうが……ごめんよ、今君を気にしている余裕はないんだ。


 ~ 数分後 ~


「ふぅ、目の調子戻ってきた」


「ごめんなさいココちゃん!」


「あぁいや、気にしないで大丈夫ですよシルクさん。なかなか顔を見せられなくてすみません」


「はい、水」


「ありがとうキリエ」


 盆にのせた水入りグラスを手渡してくれるキリエ。さりげないこの気遣いはキリエの長所のひとつだ。影に徹し相手を立てる気立てのよさ。キリエはきっといいお嫁さんになるだろう。

 ……ケッコン? やめておこう、想像するだけムカつくだけだ。キリエは誰にも渡さない。


「それにしても本当に早いねキリエ。なにかあったの?」


「実はもうみんな集まってて、ココは最後だったり?」


「え?」


「ココさーーーーーん!!」


「ココさんッ」


「テトさん! ナツメも!!」


 二階のキリエのいた場所とは反対の位置から聞こえてくる二人の声、ナツメとテトラ。

 ナツメは上品に着こなした衣服を気にすることなく全身で合図を送り、テトさんは制服のまま小さく手を振ってくれた。


「やっほー! あれ? こよみは?」


「彼女は欠席よ。昨日のうちに連絡に来たらしいわ」


「ええええ!? そんなぁ」


「私も何度かお願いしたんだけどね~、どうしても参加できないらしいわ。事情は分からないけどお仕事かもしれないし、無理に参加させるのも、ねぇ?」


「むむむぅ」


 なんと、聞けばこよみは不参加なのだという。この集まりに全員が参加できないというのはとても辛いし、なによりこよみと会えないことが私にとってなによりも耐え難いことだ。

 とはいえ彼女には彼女の事情というものがある。また今みんなの予定が空いた時にでも、今度は私が主催者として催しをすればいい。その時は椿さんにサクヤさん、エリにレンも誘って。


「シルク様、ココさんがいらっしゃったことですしそろそろ良いのではないでしょうか?」


「そうね! 私も早くお披露目したかったところなの! キリエちゃん、お願いしてもいいかしら」


「わかったわ」


「えっ? な、何が始まるの?」


「ココ、図書館に入ってきて何か違和感感じなかったかしら」


「違和感?」


 そういえばと、私は室内をもう一度見る。二階に見えるテトさんやナツメさんは何をしているのだろう? ごそごそと暗がりに向けて手を動かして……!


「あれ!?」


「気づいたかしら?」


「″ 暗がり ″じゃ、ない!?」


 私がここに入ってまず感じた違和感とは、部屋全体が異様に真っ暗だったこと。最初は光が入ってこなければこれくらいの暗さだと勝手に自己完結していたが、もしやこの暗さは意図的に作られたもの!?

 キリエは影糸を用いて二階に上り、ナツメらと同じく暗がりで腕を動かしている。


「ご名答♪ キリエちゃんたちに早く来てもらったのは、これをサプライズ形式でココちゃんに見せたかったからなんだよね~」


「?」


「二人とも、そっちはいい?」


「オッケーでーす!」


「大丈夫です」


「では、いきますよ」


「「「せーのっ!!」」」


\バサッ!!/


 一面を覆う黒い布(おそらくキリエの編んだ影布)が勢いよくはがされ、中に隠されたものがあらわになる。

 中に隠されていたものは、図書館と同じく新しくなった本棚だった。以前は木目をデザインとして取り入れていた質素な味のある本棚だったものが、わずかにアンティーク調のデザインが取り入れられた見るだけで華やかな本棚となっていた。

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