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久々と再開と 第六十七話



 あの戦いから少し日が経って、今私は農業区に帰ってきた。

 というのも……


『あいつは俺が見つけ出して、この手で必ず報いを受けさせる。あいつらから奪った分の負債は、利子含めて全部返してもらうぜッ』


 自己鍛錬をするのだと言って、椿さんはすぐに何処かへと姿を消した。敵討ちに燃える彼女の目は酷く狂気的で、私は彼女の背筋が凍るような殺気に体が萎縮してしまい、結局止めることができなかった。


『次に会うまでに、私も対策を考えなくてはな。奥の手まで見せてしまったのだ、もう密室で戦う機会はないだろう。奴の先読みと鋭い攻撃に対抗するためには、こちらも相応の研鑽を積むべきだ』


 同じ理由で、サクヤさんも何処かへと旅立っていった。短期間ながらしばらく一緒に住んだりしていたので、そこら辺は椿さんとは違ったが。

 共有中、確かに同じ布団で寝たり同じ浴槽に浸かったりはしたけど、誓ってそれ以上には至ってません。本当です。


「さて、と」


 久しぶりの農業区の澄んだ空気を堪能し、これからゆっくりお昼寝〜……したいのは山々なんだけど、そうも言ってられなくなった。

 この国の王女様であるエリさん、そしてそのお側付きメイド兼私の妹(仮)たるレンさんを友人に迎えるため、色々考えなければならないことが増えた。


 王女様の表向きの顔や待遇、街の人たちの印象やら知名度の調査。これは友人としてどの程度の付き合いならば許されるのかを図るもの。

 次に、私の友人達一人一人を回って事情を説明すること。


「むぅ〜」


 歩きながら、人とぶつからない最低限の意識だけを残して考えに没頭する。

 今回は相手が相手。一応レンに協力はお願いしたけれど、王族絡みである以上は当然面倒ごとが付き纏う。状況次第では最悪、この街にいられなくなる可能性だってあるのだ。


「…………」


 そのことを一度相手に伝えて話し合い、拒否、もしくは考え込んだ時点で少し距離を置くことも検討しなければならない。最低でも、エリが全面的に信用できるほどに友好的かつ、女王含む貴族様が私たちの付き合いに寛容になるまでは。


「……あっ」


 そこで一つ、私は過ちを犯していたことに気がついた。レンに協力を仰いだ時、友人達の名前を全員分話してしまった。これでは、自分から彼女達を売ってしまったようなものだ。


「しまった!? いくら妹を名乗る相手とはいえ流石に油断しすぎた! うぁぁ〜!!」


 名前を教えてしまったということは、つまり私と彼女達は無関係ですよという言い訳が使えなくなったのと同じ。態々本人達に確認をとって距離を置く作戦も、前提から否定されてしまった。


 こうなったらもう、その事も打ち明けて隠蔽工作から始めなければ。やることが追加された瞬間だった。


「うぅぅ〜〜!! ……う?」


 ガヤガヤ ガヤガヤ ガヤガヤ


「何、この人だかり」


 何やら沢山の人たちが、一箇所に集まりざわついている。大道芸にしては客の入りが多すぎるし、薄らと聞こえてくる会話の中にそういった内容のものはない。

 じっとその様子を眺めること数分、私は秘策を用いて皆が集まる理由を探ることにした。


「んしょ……んしょ……」


 秘策。とはいうが実のところ、ただ低い身長を有効活用して人混みをかき分けるってだけのことだ。体が小さいから狭い隙間にするすると入り込めるし、戦いの中で鍛えられた観察眼を持ってすれば次にどの方向へ進めばいいかなど簡単に把握できる。……幼児体型で悪かったな。


「んいしょっと! わわっ、すみません! ……えーっとなになに? 掲示板?」


 割り込み割り込みたどり着いた先にあったのは、国から貼り出された情報紙が貼られた掲示板。農業区の人たちはこれを見に集まってきていたのだ。


「みんなこれを見に? いつもと内容変わらないような……え?」


 皆の視線をたどり掲示板を見れば、他の紙の倍以上はあるかというほどにドデカく貼られた一枚の紙。そこに書かれた一文に、とても興味深いものを見つけたのだ。


 " 明後日からの二日間。日暮れののち、二つの宝が現れる。

 ・一つは『(あか)き月』

 ・一つは『(くろ)き太陽』

 他に例を見ない希少な場面 くれぐれも見逃さないよう注視されたし "


「これってまさか……月蝕と日蝕!?」


 月蝕と日蝕。それは、数年に一度起こる不思議な現象のこと。いつも私たちの空を照らしてくれる太陽とお月様が、その日だけ普段とは違う色に染まるのだ。月が赤くなり、太陽が黒くなる。

 どちらか片方だけでも貴重なのに、それが二日続けて見られるなんてこんな機会滅多にない。

 紙に書かれたとてつもない内容に、街の人たちが集まっていた理由もわかった。


「『ほぉ、今回は月蝕と日蝕両方が見られるのか。こりゃまた珍しい』」


「『お団子沢山買っとかないとねぇ! 早くしないと売り切れちゃうかも!』」


「『さっきそこの店で赤玉黒玉ってぇ饅頭を売ってたぞ、いちごと黒胡麻が練り込まれててうめぇんだ!!』」


 街は一帯お祭り騒ぎ。貴重な機会に便乗して、商魂逞しい人たちはそれに肖った商品を早速売り出したようだ。

 だが、中にはこの現象を不吉に捉えている人もいるようで。


「『なぁ、今までこんなことなかったよな?』」


「『血に染まった月と、輝きを失った太陽。不吉だわぁ』」


「『何か良くないことの前触れじゃねぇだろうなぁ』」


 言われてみれば確かに、赤い月と黒い太陽が連続して起こるなんて不可解だ。どうして月や太陽の色が変わるのかは今のところわかっていないらしいが、故にどうして? と疑問が払拭しきれないのだ。


「気持ちはわかるなぁ。でもま! こういう滅多にない風景は楽しまなきゃ損だよね!」


 せっかくだし友達を誘って、一緒に月見でもしようかな! 二日くらい楽しんでも大丈夫でしょ! と、先程あんなに悩んでいたことをほっぽり出して楽観的に明日からの予定を決めていく私。


 ふと、何気にもう一度それに関わる紙を見ようとした私の目の端に、小さく貼り出された紙が目に止まる。

 ちょうど月蝕日蝕に関する紙の間隣に貼られていることもあって、やや人の目に止まりにくくなっていたそれを見つけた。三日ほど前に貼られたもののようだ。


 " 図書館、修繕工事完了のお知らせ "


 短く区切られたタイトルと、その下には長々と小さな文章が並べられている。ざっくりと流し見した後、最後に書かれた責任者の名前をみる。


 "ーー シルク ーー"


「!! シルクさんっ!!」


 見覚えのある名前を見つける。これは、シルクさんの図書館の営業再開を知らせる紙だったのだ。


「よかった! やっとお店開けるようになったんだ!!」


 シルクさんの図書館が再開したということは、私も元の仕事場に戻れるようになったということ。月と太陽の話題に負けない、私にとっての最高の知らせ。早速今日この後にでもシルクさんとテトさんの図書館に向かおうではないか!


 "ーー 追記、 "


「おっ?」


 名前の欄までを読み終わり、見落としはないかともう一度読もうと紙を見る。すると、シルクと書かれた文字の下に小さく、『追記』と書かれているのを見つける。


 " キリエ様 こよみ様 ナツメ様 ココ様 ご予定が空いておりましたら、三日後の午後七時に当方へお越しください "


「当方って、図書館にってこと? キリエやこよみの名前があるってことは多分このココって私のことだと思うんだけど」


 私たちを呼び出すってことは何かの催しかな? 何か作るなり買っていくなりしたほうがいいのだろうか?


「……ん? 三日後?」


 確かこの紙が張り出されたのは三日前、その日から数えて三日後ってことはつまり〜……


「って! 今日じゃん!?」


 私は急ぎ、みんなの元へ持っていくためのお菓子を集め始めた。集めた菓子達の中には、話題の赤黒饅頭の姿もある。

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