諦めと開き直りと 第六十四話
「この国の、お、王女様!?」
「はい」
「……きゅう」
「姉様!?」
もう……これ以上苦労を増やさないで……。
目の前の現実(妹云々)から目を逸らしたら、さらにドデカい問題が顔を見せるなんて予想できるわけないじゃないか!!
「王女様? この国のトップ? 私たち……反逆者?」
「お気を確かに! ココ姉様!!」
「終わった……何もかも……」
あぁ〜レンさんの腕の中あったかいなぁ〜。こんな出来た妹なら大歓迎だぁ〜あははは〜〜♪
……いや、元を正せば原因この子だったわ。
「ご安心くださいませ、今のエリ様はお忍びのようなものなのです。非公式の場で起こった問題に罪を問うことはできませんから」
「……ほんとうに?」
「えぇ。それにこの国の女王は、例え娘の身に何が起ころうとも気にも止めませんから」
「そうなんだ、よかったぁ。……いやそれはそれで問題大有りだよ!? どういうこと!?」
まーた彼女の口から問題発言が。もう勘弁してよぉぉぉ。
……えぇい! こうなったらもうどうとでもなれ!! 今更一つ二つ問題を抱え込んだところで同じことだ!(ヤケクソ)
「女王にとって彼女、引いては自身以外の人間は全て利用できる道具だと考えておられます。一人娘であるエリ様や従者である私、国に使える兵士はもちろん、国の領民までもが自身を強く見せるための道具に過ぎないのです」
「嘘でしょ!?」
「残念ながら」
まるで絵に描いたような畜生領主に苦笑いが精一杯。生まれ持った権力を利用して他人をこき使う女王様なんて、御伽噺の中だけの存在だと思っていたのに。
「あぁ……彼女の言うさるお方の正体って、女王のことだったんだ。そりゃそんな人に私たちが姉妹なんてことが耳に入れば、確実に面倒臭いことになるわ」
「その通り、さすがですお姉様」
「あはは〜、できることなら知らずに暮らしていたかったなぁ」
ほんと、世の中知らない方が幸せだったことってあるよねぇ〜。
「じゃあ二人が椿さん達を狙ったのって、女王様からの命令だったんだ。でも、どうして?」
「" 革命派 "と呼ばれる、女王を王の座から引きずり落とそうとする人達がこの国には存在します。彼らは組織として一つに纏まり、何分女王がこのような性格なこともあり着々と力をつけていきました」
「ふむ?」
「組織として人を動かす以上資金は必要不可欠であり、その一つが金貸し屋だったのです」
「……あぁなるほど。これ以上力をつけさせると面倒だから、今のうちに敵の大事な資金源を潰したかったわけだ」
「その通り。彼女の所属する組織が狙われた理由は、それだけ組織に大事にされていた場所だったからなのです」
つまり椿さんの所属していた金貸し屋は、膨れ上がった利子を回収して組織の運営費として納める。利子を含めて払えなかった人間は、捕らえて労働力として利用する。
どう転んでも良い方向に向かうとなれば、そりゃあ組織としても大事にするよなぁ。
『数ヶ月前、うちの稼ぎ頭がヘマして捕まってよぉーー』
なんてことを椿さんが言っていたけれど、サクヤさんのお兄さんが稼ぎ頭なんて言われていた理由もわかるなぁ。
あの人、キリエの孤児院に来た時もなんやかんや理由をつけて無理やり私たちを捕まえようとしてたし。絶対に金か人を連れてくる人材は喉から手が出るほど欲しいだろう。
「はぁぁ、まったく大人の考えることはよくわからんですなぁ。巻き込まれるこっちの身にもなれよっ!!」
「仰る通り。ですから私は、本来愛されるべき母にすら道具として育てられ、利用されるエリ様を放ってはおけなかったのです」
「……困ってる人間を見捨てられないところは、私にそっくりだね」
こんなところで妹(仮)との共通点を見つけたくはなかったけどね。
「先程は特に重要な話はないと申しましたが、実は折り入ってご相談がありまして」
「言わなくてもわかるよ。エリをどうにか女王様から独り立ちさせたいって話でしょう?」
「もう一つ、彼女のご友人になっていただきたいのです」
「友達に?」
意外な相談だ、仮にもこの国の王女様と友達になって欲しいなんて。
ああいう根っからの貴族の人って、一般人を見下して友人関係にはならないんじゃ?
「言いたくはありませんが、血は争えないということです。女王ほど酷くはありませんが、彼女が友人に求めるのは自身と対等に渡り合うだけの能力を持つ存在であること。一度見限った相手は容赦なく不要な存在として切り捨てます」
「わぁぁ……」
そりゃまた、癖の強い性格をしていらっしゃる。ただまぁ、確かに鋭利化という能力を発現させるに足る性格だなそれは
「姉様は凄い人です、きっと彼女も友人として受け入れてくださるはずです。お願いします、どうか!」
「……わかった、仮とはいえ妹のお願いを聞こうじゃないか」
「では!」
「でも、私からもいくつか条件を出させてもらうからね」
まぁ妥当だよね。友人からのお願いならばいざ知らず、未だ関係を構築できていない相手のお願いを無条件で聞く気にはなれない。
しかも今回は王女様というお偉い方が関わっているのだ。私に関わった他の友人たちのためにも、危険はなるべく排除させてもらう。
「まず一つ、私は自分の友人を何よりも大切にする。エリと交友関係を持つ代わりに、椿さんとサクヤさんは見逃してもらうこと」
「次に、最大限レンさんにも協力してもらうこと。私は友人を大切にするし、危害を加えた相手には容赦しない。でもね? それが一度でも仲良くなった相手だったら、非情になりきれないくらい甘ちゃんなの。そういう時の保険ね」
「最後に、今後起きた失敗やミスは全て私個人の責任にすること。今戦っている椿さんとサクヤさんはもちろん、キリエ、こよみ、シルク、テトラ、ナツメ。彼女たちに一切の責任を向けないこと。それでもいい?」
「かしこまりました。私はあくまでも姉様にお願いをする立場、可能な限り尽力いたします。ですからどうぞ、エリ様をよろしくお願いいたします」
「契約成立ね」
口約束ではあるが、きっと彼女は私の言ったことを守ってくれるだろう。初め私が感じた不思議な感覚にも似た謎の信頼が、レンにはある。
支えられたままの私がレンの腕を離れると、私たちはお互いに元の位置に戻る。レンはエリの背後に、私は椿さんとサクヤさんの背後に。
「ではそろそろ、能力を解除いたします。準備はよろしいですね?」
「準備はできてるよ」
「では ーー」
目を閉じて、能力解除に神経を回すレン。少しずつ私の耳にも彼女らの声が聞き取れるようになっていき、正常な時間に戻ってきたことを認識させられる。
もうすぐで三人の元に戻れるという時、私はある悪戯をレンに仕掛けることにした
「あっ! 一つ言い忘れてた!!」
「え?」
急な発言に驚いたレンが、能力解除のために閉じていた目を開けて私を見る。音が大きくなり始めているのを見るに、能力解除はもう中断できないらしい。
「レンさん、いやレン!! 貴女が私の実妹だろうとそうでなかろうと! 私とレンはもう ーー」
「ーーーー 黙って聞いていれば!!」
「ーーーー 終わりだ!!」
「ーーーー 終わったのは、貴女たちの方ですわ!!」
ドゴンッ!!
バンッ!!
キュイン!!
狼煙の拳が、銃の弾丸が、レイピアの斬撃が、能力解除と共に一同にぶつかり合う。無音から急な強い音を耳に受け顔を顰めるが、私は構わず言葉を続ける。
「ーー 友達だからね!! ーー」
この言葉がレンの耳に届いたかどうかはわからない。しかしこの言葉を発した直後、彼女が驚愕に目を見開くのを確認した。




