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語らい曇らせ 第六話


「がおーー! 私は悪い狼さんだぞーー! 悪い子はみんな食べちゃうぞーー!」


「きゃ〜♪ 逃げろ〜♪」


「お姉ちゃん! こっちこっち〜」


「おぅ? いつのまに私の後ろにっ!? この子やりおるっ……!」


「きゃっきゃっ♪」


「あはははははっ!!」


 扉の先で出迎えてくれた子供達にミオちゃんが混ざり、ただいま私は鬼ごっこに興じております。あんまり人のお家で騒ぐのもどうかとは思うが、子供達たってのお願いとあれば頭の一つや二つ下げることもやぶさかではない。


「はいよー、シルバー! トモちゃんのところに突撃だー!」


「よーし! しっかり捕まってるんだよ? うりゃりゃりゃりゃ!」


「きゃー♪」


 最初はミオちゃんと同じで何人か人見知りしていたものの、今では結構みんなと仲良くなれた気がする。仲良くなりすぎて捕まったらダメなはずの鬼ごっこの最中に、四つ足で移動する私の背中には二人ほど乗っているほどだ。


「ごめんなさい、少し話が長くなったわ」


「あ、おかえりなさい」


「ほっほっほ。短い間でもうすっかり仲良くなっておるのぅ、良きことじゃ」


「うるさくしてごめんなさい。遊んでるうちにこっちも楽しくなっちゃって」


「なーに、いつものことじゃよ。お前たちも、いっぱい遊んでもらえてよかったのぅ?」


「うんっ! ココお姉ちゃん面白い!」


「ココお姉ちゃん、鬼ごっこで狼さんになってた!」


「狼さんじゃないよ、シルバーだよ!」


 お二人が部屋に戻ってくるまでの間で、子供たちは満足してくれたようだ。

 しかし、子供たちの体力って凄い。結構体力には自信あったんだけど、鬼ごっことシルバーごっこでもうクタクタだ。


「ところでココさんや、一つ聞いてもよろしいかな?」


「はい? なんでしょうか」


「ココさんは、今晩泊まる宿はお決まりかな?」


「あーいえ、ミオちゃんを届けてから探そうと思ってましたので」


「そうか。……ただのぅ、もう夕暮れ時じゃ。今から宿を探しても、暗くなるまでに見つかるかどうか」


「そうですか」


 とは言うものの、正直ミオちゃんを送り届けるって決めた時から薄々考えてはいたことだ。最悪道具はあるし、適当に広い場所で今晩野宿をして翌朝改めて宿探しをしようと思っていた。


「でも大丈夫です、なんとかなりますよ。一応備えは……ーー」


「そこで提案なんじゃが、今夜一晩、ここに泊まっていかれてはどうかな?」


 だから、その旨を伝えようとした時、おじいさんに言われた一言には本当に驚いた。


「……え? いや、あの、いいんですか? ついさっき会ったばかりの根無し草ですよ? 怪しくないですか、私」


「私も最初はそう言ったわ、よくわからない人をここに泊めるのは反対だって。……でも、私たちがいない間の貴女の様子を見て、最終的に問題ないと判断したわ」


「まさかの見られてた!?」


「子供に嘘はつけまいて。貴女が悪い輩なら、ミオもそこまで懐くことはないじゃろ」


「私、ココお姉ちゃん好きだよ?」


 組んだ私の足の上に、ミオちゃんはポスンと腰を落として体を完全に預けている。たった半日一緒にいただけでここまで懐いてくれるとは。


「うん! 私もお姉ちゃんに泊まって欲しい!」


「ねぇねぇ、お姉ちゃん泊まろうよー」


「いいでしょー?」


「……じゃあ、今夜一晩だけ、お願いしてもいいですか?」


 結局、私は子供たちの圧力に屈した。泊まる場所ができて子供たちと戯れることができるとあっては、私にとっていいこと尽くめでしかなく、なんだが申し訳ない。


「うむ。ではココさんや、まずは湯浴みに行ってきなさい。その間に食事の用意をておくからの」


「あ、はい。わかりました」


「私も行く! お姉ちゃん、一緒に入ろう?」


「あ、ずるい! 私も行く!」


「僕も!」


「わ、私も!」


「はぁ、まったく。いつもお風呂って言ったら逃げるくせに」


 そう言って頭を抱えるキリエさん。いつも苦労していらっしゃるんですね。

 子供たちの人数は全部で十三人ほど。ただでさえ母数が多い上にお風呂嫌いの子供までいるのでは、その苦労たるや。


「案内するわ、こっちよ」


「お願いします。じゃあみんな、お風呂に行くぞー!」


「「「おおー!」」」


 バックの中は保存食やら野宿用の道具一式だけだから、ここに置いてても問題ないだろう。短剣をはじめ絶対に無くしたくないものは衣服に仕込んでいるので、脱衣所に一緒に持っていこう。万一にも子供たちに見られないようにしないと。



 〈ー 浴槽 ー〉



「はーい、目をつぶってー」


「んー」


 気持ち優しめを心がけて、子供たちの髪や体を洗っていく。いつもおじいさんやキリエさんが洗ってくれているらしく、お二人の代わりを子供達からお願いされてしまった。


「私、お姉ちゃんに洗って欲しいなぁ」


 とのミオちゃんの一言から始まった子供たちの丸洗いも、これで六人目。三人目あたりからコツを掴んで、六人目に入る頃にはかなりスムーズにできるようになった。


「こら、大人しくしなさい」


「うぅ、俺頭洗うの嫌いなんだよー」


「すぐに終わるから我慢して。……はい、いいわよ」


 たった今、キリエさんは七人目を洗い終わったようだ。

 私は今、子供達とキリエさんと一緒にお風呂に入っている。というのも、子供たちが私と一緒に入ると言って聞かなかったので、子供たちの体をちゃんと洗うためにも、キリエさんに師事をお願いしたのだ。

 流石は本職。手捌きが私以上に効率化されていた。


「ふぁぁぁ」


 木組の浴槽に浸かれば、思わず声が零れてしまう。子供たちが全員入っても余裕があるほどに大きいこの浴槽。思いっきり足を伸ばして肩まで浸かれば、温かいお湯が体の芯にまで染み渡る。


「隣、失礼するわね」


 すると、子供たちに何かを話していたキリエさんが私の隣に浸かる。失礼を承知で体を見れば、なんとまぁ私と違ってナイスボディをしていらっしゃる。身長が高くて、程よく引き締まった健康的な体に形のいいお胸とお尻の色気のなんと凄まじいことか。


「手伝ってくれてありがとう。おかげで普段の半分で済んだわ」


「いえいえ。お風呂をいただいているんですから、このくらいなんてことないですよ」


「そう」


 それに比べて私は、身長も低くて胸もない。キリエさんが山なら私のは壁だね。おまけにうっすらと筋肉が見えて色気なんて皆無だ。

 ……女として凄い敗北感。初日で既に二回も敗北するとは。


「ねぇ、貴女はどうして旅をしてるの?」


「ん? 気になりますか?」


「えぇ」


 彼女の金色の瞳が、私の目をしっかりと捉える。口にはせずとも、言外に嘘は許さないと言っている。しかし、私が彼女に嘘を語ることはない。特に隠す理由も意味もないのだから。


「ん〜……特に理由はありませんね」


「理由もなく、旅をしているの?」


「はい。 私、家族はいないんです 」


「っ!!」


 その一言で、キリエさんは目を見開いて息を呑む。んー、これだけでそんなに反応するとは思わなかった。


「それは……」


「より正しく言うのなら、小さい頃の記憶が全くないんです。俗に言う記憶喪失ってやつですね。気づいたら、夜の森にこの身一つで倒れてました」


 不思議な感覚だった。名前や自分の年齢はわかるのに、家族のことやどうして一人で倒れていたのかっていう所だけ、全く思い出せなかったのだから。


「そ、それで」


「生きるために頑張りましたよ。女の子が一人でいるんですから、問題も絶えなくて。それから、一人で生きるために色々しているうちに、いつの間にか旅人みたいなことをしていたんです」

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