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白状と綱渡りと 第五十八話



「……プッ! ハハハハ!! だから君はそんなに怯えていたのか!」


「怒ったり、しないんです? 一応お兄さんを捕まえた犯人なんですけど」


「怒る? 私が?」


 いやだって、一応嫌っているとは言えお兄さんですし。どんな理由があっても身内を国に突き出されたら怒るんじゃないかと思うのは当然のことでは?


「心配せずとも何とも思っていないさ。むしろ感謝したいくらいだ」


「本当に嫌いなんですね、お兄さんのこと」


「なるべく関わりたくなかっただけで、隙を見て後ろから撃ってやろうと思ったくらいにはな」


 目的を邪魔されたらブチ切れるところ、お兄さんにそっくりだ。あの人も金儲けの仕事を私に邪魔されて、そこから戦うはめになったっけ。


「……しかし、あいつは借金取りになったか。妙だな」


「妙?」


 サクヤさんの雰囲気が、少し真面目なものに変わる。


「あぁ、何度も言うがあいつは金に強欲なんだ。少しでも多くの大金を集めるためなら、どんなに辛い努力も惜しまないほどにな。私がこの街を離れる前、奴は貴族に成り上がると豪語していた」


「貴族?」


「あぁ、この街の中央に出入りが止められている場所があるだろう? 貴族階級のものだけが住むことを許された特別な区画でね、王族以外は他の区画で実績を挙げた人間しか住むことを許されていないんだ」


 そういえば私がこの街に来て最初にもらった地図にも、他の区画との間にバツ印が描かれた区画があった。入れないなら仕方ないと近寄ることもなかったが、そうかあそこが貴族区。


「でも、お金稼ぎと貴族になることに何の関係が?」


「実績っていうのは、要するに商売を大成功させたり事業を立ち上げたりといったものを指すんだ。おそらく奴は私に、稼ぐ金額の目安として貴族になれるぐらいと言ったんだろうな」


「なるほど」


「だからこそおかしい。少なくともその時点では、まだ奴は真っ当な方法で成り上がろうとしていたはず。なのに最後は借金取りだと? 所詮、私と同じ血が流れていたというわけか」


 私の頭に顎を乗せ、思考に没頭するサクヤさん。別にそれ自体はいいのだけれど、定期的に顎をぐりぐりしながら髪の匂いを嗅がないでもらってもいいですかね。匂いフェチでもあるまいに。


「……豚箱にいる男のことを考えてもどうにもならんか。どうせ職場の金を横領したとかでクビになったんだろう? いいきみだ」


「兄妹間の関係冷え切ってますねぇサクヤさん。私がどうこう言えたことでもないですけど」


「今はそれよりも君との時間を楽しまなくてはな。で、どうする? もうやることは一通り終わったし、やりたいことがあれば遠慮なく言ってくれていい」


「あ、じゃあ私そろそろ帰りま ーー」


「つれないことを言うなよ〜このこの〜」


「わっ!? ひゃははっ! や、やめください〜!」


 脇の下を、こしょこしょと優しくくすぐられる。背中を預けてて無防備だと言うことを忘れていた。イチャイチャの際に弱い部分を全部知られているので、彼女は的確にそれら箇所を突いてくる。


「ひぃ、ひぃ。さ、サクヤさん! 外、外行きましょう!? 私工業区見て回りたいですぅぅぅ!?」


「二人でデートというわけか? なるほどなるほど、これは脈ありと見ていいようだ」


「そうだけどそうじゃなぁぁぁあっ!?」


 二人で外に出かけると決めたはいいものの、彼女からのくすぐり攻撃はその後十分ほど続いた。全てが終わった十分後には私はまともに立てなくなってしまい、復帰から出かけるまでに三十分ほど時間を要した。


「…………」ムスッ


「な、なぁココ。そろそろ機嫌を直してほしいのだが?」


「調子に乗りすぎるのは良くないと思います、私」


「……すまない」


 サクヤさんが細かいことを気にしない人で良かった。もし気難しい人だったら私がこうして面倒臭いモードに入った途端体に風穴が開く。まぁそれがわかっているからこそこうして仲良く会話しているのだが。


「あ! アイスが売ってるぞココ! 一緒に食べないか!?」


「私をアイスで釣れる安い女だと思わないでください! ……食べますけど」


 WIN 食欲 > 面倒臭いモード LOSE


 目の前の美味しそうなものに釣られて簡単に機嫌を直す安い女ですよ私は。ちなみに食べ物であればどんなものでも。


「そうか! 店主、イチゴと葡萄を一つずつ頼む」


「あいよー」


 店主さんがアイスを準備する間、店先で待つサクヤさんにスススっと近づく私。面倒臭いモードの私は道中彼女とは距離を空けて歩いていたのだけど、食に釣られて解除した今、間を開ける意味がなくなったので。


 キュッ


「……ココ?」


「どんなアイスなのか、楽しみですねサクヤさん!」


「!! あぁ、そうだな!」


 空いていた彼女の左手を握り、見上げる形で笑顔を見せる。身長差が凄くて首が痛いや


「あいよ、アイス二つお待ちどう」


「ありがとう」


「ありがとう店主さん!」


「いいってことよ。可愛らしい" 姉妹 "じゃねぇか。おう姉ちゃん、妹のことしっかり守ってやれよ?」


 ……姉……妹?


「そう見えるか?」


「お? そっちの" ちっこい "のは妹じゃねぇのか? どっちも別嬪さんだからなぁ」


 ちっこい……


「妹……ちっこい……子供……」


「少し違うな、こいつは ーー」


「子供……子供体型……ロリ きゃっ!?」




「ーー 私の恋人(ツレ)だ」




「あれ……私、今まで何を?」


「つりはチップとして持っておくといい。また頼む」


「まいどありー」


 途中から意識が無くなり、ふと気づけば両手にアイスを持ちサクヤさんに抱き抱えられている状況。これは一体?

 そのまま、近くの長椅子にまで連れていかれる。


「ん? どうしたんだココ?」


「なんだか途中の記憶が抜け落ちてて……気づいたら両手にアイスを持ってたんです」


「? よくわからないが、とりあえずアイスを食べよう。どっちがいい」


「むぅ……そうですね。私イチゴいただきます」


 まぁ思い出せないものは仕方ない。赤と紫の二つのアイスのうち、赤を手前に、紫をサクヤさんに渡す。カップの器はひんやりしていて、鼻には甘味と微かな酸味の匂い。


「いただきます」


「いただきます!」


 スプーンに少しのせ、口へ運ぶ。ひんやりした感触、溶け出すアイス、一杯に広がるイチゴの味。


「うまぁぁ♪」


「フフッ、頬が緩みきってるぞ」


「だってあまりに美味しいんですもん。緩むのも仕方ないじゃないですかぁ〜」


「まったく君は、どこまで私を魅了すれば気が済むんだい? ほら、葡萄も一口どうだ?」


「いただきます! 」


 差し出されたスプーンの上のアイスを、一口で食べる。イチゴとはまた違った甘味と、僅かに強まった酸味がこれまた絶品! んーでも、味の好みで言えばイチゴの方が好きかな?


「んー! 美味しい! サクヤさんもイチゴ味どうですか?」


「!! あ、あぁ。美味いな」


 お返しにイチゴアイスを一口。彼女はイチゴアイスをおいしいと言ってくれた。


「間接キスには動じない、か」


「?」


 何やらサクヤさんが小声で呟いている。うまく聞き取れなかったが。

 と、サクヤさんは突然私の顔を見る。


「サクヤさん?」


「動くな、頬にアイスがついてるぞ」


 見つめ合い顔を動かせなくなった私の頬に、彼女は指をスーッと這わせる。その指を見れば、確かにそこにはほんのり赤い溶けたアイスが付着していた。


 それを、彼女は自分の口元へ……えっ!?


「ご馳走様、だ」


「ッ!?!!」


 クールに微笑むサクヤさん。

 私の胸の動悸が凄まじいことになっていて、とても今は彼女の顔を直視できそうにない。

 顔がいいと些細な行動ひとつひとつが様になるのか!


 ……あれ? そういえばさっき、アイスを食べさせあった時に間接キス……



「!?!?!?!?!?!?」

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