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指導と始動と 第五十七話



「ーー で、綺麗になったらこれくらいの火薬を中に入れて……」


「なるほど」


 テーブルいっぱいに広げられた銃及び器具。それらを巧みに使いこなし銃一つ一つを整備するサクヤさん。

 私は今、一連の作業を食い入るように見つめていた。


「奥の方までしっかりと入ったことを確認したら、最後に弾丸を入れて崩れ防止の蓋をする。これで一丁出来上がりだ」


「おぉ! 流石動きがスムーズですね」


「フフッ、そうだろう? 慣れているからね」


 部屋に入った時の恐怖心は何処へやら、すっかり私は彼女と打ち解けていた。

 イチャイチャの件? ……ちょっと何言ってるかわからないですね。あぁ首が痒い。


「そうだ、君もやってみるかい?」


「えっ、いいんですか? 大事な商売道具なんじゃ」


「丁寧に教えるから大丈夫、何事も経験だよ。ちょっと待っていてくれ」


 そう言ってボックスの中を漁るサクヤさんを他所に、内心私はワクワクしていた。

 銃の構造自体は知っていても、目の前で未知の武器の手入れを実演されては収集家として興味を持たざるおえない。


 早く来ないかとワクワク待っていると、サクヤさんは片手にテーブル上の物とは別の銃を持ってきた。よかった、彼女の大事な道具でぶっつけ本番をやらされるわけではないのか。と安心したのも束の間、


「よし、それじゃあやろうか」


「……え?」


「ん? どうかしたか?」


「あの、どうして私の後ろに?」


 散々堪能してなおドギマギするほどに形のいい二つのお山の感触。私のお尻がちょうど彼女の腿の間にすっぽりと収まり、両手で私の手を優しく掴んでいる。

 これは集中する以前の問題では……。


「手元を見ながらの方が教えやすくていいと思ったんだ。きついか?」


「体勢は問題ない……んですけど、落ち着かなくて」


「! ……フフッ、興奮するか?」


「な、なななな!?」


 両手を掴んでいたはずの彼女の手が、いつの間にかお腹へと伸びて私の体をグッと自身の体へと引っ張る。結果、私達の間に隙間は存在しなくなり、背中の感覚をより強く感じるようになった。


「君がそんなことを言うから、私も意識してしてしまったじゃないか」


「だ、だって仕方なくないですか? さっき散々遊ばれたのに」


「遊びなんて人聞きが悪いな。私は本気だったんだが?」


「余計悪いです!」


「んー、いい匂い。首の跡もしっかり残っているな」


「首筋で呼吸しながらキス跡を確認しないでください!! は、はやく銃の整備しましょうよ!」


 場が怪しい雰囲気に包まれかけたのを察知し、すぐに方向転換を図る。これ以上イチャイチャしてたら本格的に日が暮れる。夜の工業区なんて何があるかわからない未知の場所だというのに。


「セッカチさんだなココは。わかった、それじゃあ説明を聞きながら一緒にやってみようか」


「はい!」


「まずは、この棒を筒の先に入れてだな ーー」


 ある程度は説明を聞きながら私の自由に作業をさせてもらい、どうしてもわからない場所はサクヤさんが補助に入る形で銃の整備をしていく。

 初めての経験で時間はかかったが、銃の構造と必要な器具の名前や用途、途中挟まれる世間話など彼女との作業はとても楽しく進んでいった。


「こうですかね?」


「そうそう、上手い上手い。流石だな〜ココは」


「あ、ありがとうございます。んぅ」


 補助なしで作業を一つこなせば、サクヤさんは必ずと言っていいほど私の頭を撫でてくる。ぽんぽんと優しく撫でる手つきに、癖になりつつあるのが少し怖い。


「さて、次はいよいよ最後の行程だ。さっき見せたように、この紙に包まれた火薬を溢さないように前から入れて」


「はい!」


 少々火薬の乗った紙に折り目をつけ、銃を立てた状態で持ち片手で火薬を中に注ぎ込む。サラサラと黒い砂が中に入っていく光景はまるで砂時計でも見ているようで、最後までじーっとその様子を眺める。


「そうそう。で、最後にこれをググッと中に押し込むんだ」


「こう、かな」


 少し入れるのに手間取ったが、掃除用の棒で軽く突いてこれ以上進まない位置まで弾を押し込む。最後に蓋を被せれば一丁完成。


「できました!」


「お見事。工程に問題はないし、次からは一人でもできそうだ」


「いやいやいやそもそも使う予定ありませんから! あ、そうだ。質問いいですか?」


「なんだ?」


「これ撃った男の人は腕が千切れそうになってましたけど、どうしてサクヤさんは大丈夫なんです?」


「……フフッ、良いところに気がついたね」


 興味深そうに私をみる彼女の瞳。何やら怪しげに光っているが、何か私不味いことでも聞いただろうか?


「それはズバリ、私の能力に由来するのさ。この銃はその能力を前提に火薬の量を増やしているから、その分反動も凄い。もしも君が使うなら、今入れた量の半分ほどで良いはずだよ」


「能力、ですか? 一体どんなものか聞いても?」


「構わないよ。私の能力は、" 鉄纏(メタルジャケット) " と呼んでいる。奇しくも兄と同じ能力さ」




 ーー    え……?     ーー




「め、メタ? そ、それってまさか、触れたものを鉄みたいに硬くしたり重くしたりっていう……」


「! その通りだが、どうしてわかったんだ?」


 ……背中に、嫌な汗が流れ始める。

 鉄纏。それは孤児院で私たちの前に現れた、ゲイルと名乗った男と同じ能力。

 それが、サクヤさんの兄だと発覚したのだ。彼女に兄を牢獄に送った犯人が私だと知られたら、今度こそ私は無事に生きては帰られないだろう。


「どうしたんだココ、汗もすごいし震えているぞ」


「な、なななななんでもなななないですすすすす!!?!?」


「?」


 心臓が痛い、汗がひどい、震えが止まらない。逃げようにもお腹をしっかり掴まれて離れられない。気分はまさに電気椅子に座らされた死刑囚。

 な、なんとかしてこの場を離れないと、バレてしまう!?


「あ、あのあのあの、さ、サクヤさんのお兄さんは、ど、どんな人なんですかかか?」


「むっ、兄に興味があるのか? 君は私のものだぞ」


「い、いえいえいえ参考までに聞きたいだけですあくまで! あくまで!!」


「? まぁ、教えるのはヤブサカではないが」


 もしこれで兄のことを尊敬している! なんて言われたら、今度こそ首を括る覚悟を決めなければならない。一歩も踏み外せない綱渡りをする覚悟を。


「そうだな、私の兄を一言で表すなら





 " 屑 "だな」



「ップハァァァァア!」


「……本当にどうしたんださっきから」


「息をするのを忘れてただけです。続けてください」


 あ、危なかった。なんとか首の皮一枚は繋がった。しかし油断はできない。ただ彼女自身が嫌いなだけで、家族としての情を持っているのならまだ問題が解決したとは言えない。


「私も兄も、これと決めたことは意地でも曲げない性格でな。私は銃に関すること、兄はお金に関しては筋金入りの馬鹿野郎なんだ」


「はぁ」


「それだけならばまだ良かった、私も人のことは言えないからな。……だが、あの男は死んだ家族の遺産全てを奪った挙句、私のそれまでの稼ぎすら全て自分のものにした」


「え? 全部!?」


 彼女の口から語られるゲイルと名乗っていた男の性格は、屑を遥かに超えてドが付くほどの外道だった。そりゃそんな男のことは彼女は死んでも好きとは言えないだろう。


「そこにはもちろん、私の好きな銃の維持にかかるお金も含まれていた。以来私はあの男に呆れ返り、存在ごと忘れ去って今日まで一度たりとも会っていない。会いたいとも思わないがな」


「よ、よかった」ボソッ



「……よかった?」


「あっ」


 サクヤさんがゲイルのことを憎んでいると知ったことで安心したのが運の尽き。思わず口から出てしまった言葉をサクヤさんに拾われてしまった


「そういえば、君は私の能力を知っていたような口ぶりだったな。それから様子がおかしくなったかと思えば、突然兄のことを聞き始めた」


「えっと、そそれはぁ」


「何か私に、隠し事をしているな? 正直に全てを白状するんだ、さぁ」


「ひっ、ひぃぃぃぃ!?」

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