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side:??? 第四十九話




「ご報告は以上でございます」


「ご苦労。下がって良いぞ」


「はっ!」


 神殿を思わせるほどに広大かつ潔白な一室。それに反するように、長く敷かれた赤いカーペットと絢爛に飾られた玉座が存在していた。

 その椅子に座するは、白銀の髪を靡かせるとても麗しい美女。彼女の足元に傅いていた男は、役目を終えると彼女の言葉通りに部屋を後にする。


「……こんなものか」


「お母様」


 とてもつまらなそうに、彼女は呟く。

 シャンデリアの煌びやかな光とは逆に、彼女の顔には陰が刺す。しかし一方で、自らを母と呼ぶ存在を認識した瞬間、その顔に陰はなくなり威厳に満ち溢れたものとなる。


「何のようだ。私への謁見は許可されていないはずだが」


「ご無礼をお許しください、お母様。至急お耳に入れておきたいことが」


「ほぅ? この私の言葉よりも優先すべきことだと?」


 母と呼ばれた女性と、おそらくは娘だと思われる少女の声。しかし両者の間に微笑ましい家族としてのやり取りは無く、ともすれば先程の男との会話よりも刺々しい雰囲気に包まれていた。


「……まぁ良い、罰は内容次第で考えておこう」


「ありがとうございます」


「それで? 私の耳に入れておきたいこととはなんだ。申してみよ」


「はっ! ここ最近、農業区にて住民同士の乱闘と思われる事件が発生しております。確認しているもので、四件」


 少女は、カーペットに片膝をつき頭を下げたまま話す。

 彼女の口から語れる事件とは、言うまでもなくすべてがココに関する事件のこと。

 一つは孤児院での対ゲイル戦、一つは図書館での対桜花戦。残った二つの事件は、どちらもナツメに関する戦い。

 その全てが、情報として彼女らの元には集められていた。


「その報告はすでに受け取っている。農業区というのは珍しいが、乱闘自体はそう珍しくもあるまい。貴様、まさかこの私が、そのような情報すら掴めぬほど能無しだとでも言いたいのか?」


「いいえ。ですがそれら四件の調査が終了し、新たな発見がありご報告した次第」


「新しい、発見だと?」


 女の瞳が、僅かに揺れる。


「ご報告したい内容は二つ。一つは、それら四件にはすべて能力者同士によるものであったこと。もう一つは、" 全件に関与する人物が一人いること "」


「何?」


 時につまらなそうに、時に苛立たしげに。負の感情しか顔に出さなかった女はここに来て、初めて負以外の感情を露わにした。


「もしや、例の革命派の人間か?」


「現状そこまでの思惑はなくとも、いずれその手のものに接触した際に同調する可能性はあるかと」


「ふむ」


 顎に指を添え、虚空を見つめ悩む女。されどその顔は、困り顔というにはあまりにも楽しげであった。


「お母様、ご命じくだされば私が処理して参りますが」


「……いや、構わぬ。泳がせておけ」


「よろしいのですか?」


「貴様の見解は" 感 "によるものなのだろう? ならば間違いなく其奴は私の前に立つことになる。しかし構わぬ、たかが鼠一匹が増えたところで、私の計画に変更はない」


「お母様の仰せのままに」


 会話はそこで一度切れる。女は今後の計画を考えるために、少女は母からの指示があるまでその場を動くことができないためだ。

 彼女のもたらした情報がどれほど母の心を良くできたか、その結果が今後の彼女の処遇も関わってくる。

 しばし時が流れて、座する女は姿勢を正す。


「報告ご苦労。罰を取り消すには少々足りぬが、貴様には別件を頼もう。それを罰とする」


「なんなりと」


「先程少し出た革命派だが、奴らの資金源が工業区内にあることがわかった。貴様はそこへ乗り込み、奴らの生命線を叩き潰してこい。下がれ」


「はっ!」


 少女は大きく返事を返し、潔白の部屋を後にする。扉が閉じられ、部屋には女一人となった。


「……くっ、くくく」


 破顔する表情を手のひらで抑え、それでもなお彼女は狂い笑いを止められなかった。



……

ーー

ーーーー

ーーーーーー



 自室に戻り、緊張をほぐすかのようにハッと息を吐く白の少女。


「ここまでは順調……そう、順調」


 彼女は彼女で、何事かを考えている様子。腰に装飾の美しい白銀のレイピアを携え、雪のような薄氷色の服に身を包む。

 思い悩む表情は衣服とも相まって儚げでありながら、その内はしっかりと太い芯が通っている。


「『女王様、今日はなんだか大人しいわね』」

「『しっ! 本人に聞かれたら殺されるわよ!』」



\コンッコンッコンッ/


「! 入っていいわよ」


「失礼いたします、お嬢様」


 三回ノックの後、扉を開けて部屋の中へと入ってくる女性。その姿、立ち姿はまさしくメイド。

 顔に表情は浮かべられていないが、白の少女に負けず劣らずの美女顔である。


「『そ、そうよね? 誰にもバレてないわよね?』」

「『気をつけなさい。貴女ここに来て何年目よまったく。こっちまで寿命縮んじゃったじゃない!』」


「支度はすでに済んでいます。それと、今回も側付きは貴女一人に任せます。よろしいですわね?」


「かしこまりました」


「…………っ」


「(コクッ)」



「『ごめんごめん、わざとじゃないんだ……ーー

「『もう仕事に戻りましょ。せめて仕ご……ーー


 少女が目線を動かし、何かを察したメイドは軽く腕を動かす。

 すると、瞬く間に部屋の中は無音の空間と化した。先程まで聞こえていた他の従者たちの足音や話し声も一切聞こえなくなる。


「では、お嬢様」


「わかっています。今回の目的を説明しましょう」


 二人のみになった部屋の中で、今この時だけは少女はメイドに対し、主人と従者ではなく対等の立場として接する。


「母さまの命令は、工業区にある革命派の金脈を潰す事。連中の勢いを削いでしまうのは痛いけれど、このような小娘一人にやられるようではどの道永くありませんわ。ですので遠慮はせず、全力を持って殲滅します。貴女もそのつもりでいなさい」


「かしこまりました。では、もう一つの方をお聞きしても?」


 メイドの問いに、少女は静かに頷く


「もう一つの目的は、例の少女と接触すること」


「!!」


 瞬く間に、メイドの表情は無から驚きへと変わる。

 母に報告する際、少女はココのことに特に言及はしなかった。だが、少女はすでにその事件に関わっている人間というのが、平均よりも低い身長に平な胸を持つ女であることを知っていた。

 どれもこれも、目の前の優秀な隠密者のおかげで。


「貴女が気にかけている少女と接触し、直接私の目で見定めます。本当に私にとって必要な人間であるか、切り捨てるべき人間ではないかを」


「……お嬢様」


 少女は、冗談も気の緩みもない真剣な顔を作る。


「母は私に、必要なものとそうでないものを選び、不要なものはすべて切り捨てよとおっしゃった。今の私には、必要だと感じられるのは貴女という人間ただ一人。


 ……お母様は私にとって、切り捨てるべき不要な存在と成り果てた」


 やはり血は争えない。まだ未成熟ゆえに可愛げもあるが、その瞳は母に負けず劣らずの狂気を滲ませる。


「けれどお母様は力を持ち過ぎている。それに対抗するためには、私にも利用できる力が必要。もしその力が、私にとって必要足り得るならばなお良いのですが」


「…………」


「今回の一件が吉と出るか凶とでるか、運試しといきましょう?」


「……かしこまりました」


 少女が部屋の扉を開け放つと同時に、メイドは能力を解き後に続く。この後すぐに工業区へと向かい、面目を保つため母の命令を遂行するのだ。



 ーー 前を歩く少女は気づかない。背後に立つメイドが何を考え、何を思っているのか ーー


「……姉様」

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