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藁う人と案山子と 第四十八話



 それはさておき、今はナツメの服選びだ。


「さてと、じゃあナツメ。服選びに際して何か要望とかある? こういうのが良いとか、これは嫌だとか」


「と、特には。元々自分の服を選ぶつもりはありませんでしたし」


「じゃあ色の好みは? そこから合いそうなイメージ考えてみるから」


「色ですか?」


 天井を眺めしばし考えるナツメ。頭から下がミイラみたいになってて見た目は完全に怪しい人だけど、本人には黙っていればわからないからいいや。


「黄色……ですかね? あ、といっても山吹色とか琥珀色みたいな深みのある色のことですよ? 真っ黄色は流石に」


「ふむふむ、深みのある黄色か。了解! キリエー、深い黄色の服や小物類ってある?」


「集めてくるわ。テトラ、手伝って」


「了解しました」


 ぐるぐる巻きにしたナツメを着せ替え人形にした、ミニファッションショーが始まった。


 最初は私の思い付き通りに、軽めの服に装飾多めの冒険家スタイル。帽子にゴーグル、ポーチ、肩から脇腹にかけてのベルト、カウボーイとかがよく付けてる上半身の巻き布!


「どう!?」


「動きづらくない?」


「要素がごちゃごちゃしてませんか?」


「うーん」


 不評だった。

 じゃあ次! 首周りのマフラーをチャームポイントとして全体を軽装で整えた野戦スタイル!


「確かに動きやすいけど……」


「要素も纏まってますが……」


「過激すぎません?」


「なんでこんな服がキリエの店にあるの……?」


 ちょっと素面で着るには抵抗があった。

 じゃあ次はいっそのこと原点に帰って! 普段着と変わらないスタンダードな物を集め……


「だ、ダサ」


「ココ、流石にこれはどうかと思うわ」


「同じくです」


「こ、これはちょっと」


 満場一致でこれは無い。

 うえぇなんだよぅ。私自身が言っておいてなんだけど、もう色のイメージから離れて考えてみることにする。琥珀色のコートに鍔の広い三角帽子を被せて、ズボンその他装飾を茶系で整えてみた。


「どう? イメージは武闘派魔女なんだけど」


「魔女、なんですか?」


「途中から思ってたんだけど。これ、魔女じゃなくて案山子じゃない?」


「カカシ? ……あっ」


 言われてみれば、コートはともかく服と帽子は完全に案山子がつけているそれだった。

 やる前は本当に魔女をイメージして選んでたけど、今はもう案山子にしか見えないや。


「本当だ、これ魔女じゃなくて案山子じゃん!? ご、ごめんナツメ。すぐ別のに変えるね」


「ま、待ってください!」


「へ?」


 すぐに服を外そうとした私の腕を、ナツメは両腕で押さえつける。布で縛られているせいで指が使えず、これ意外に物を掴む方法がないのだ。


「私、これが良いです! これにします!」


「案山子スタイルにっ!?」


 意外や意外。案山子スタイルは意外と本人に好評だった。服装を選んだのは私だけど、流石にこの決定には待ったをかけずにはいられない。


「気を確かに持ってナツメ!? も、もうちょっと良いのを考えようよ! 案山子だよ案山子!?」


「外敵からココさんを守る案山子……藁で作られた人形……! まさに私にピッタリだと思いませんか!?」


「いいのかそれで」


 まぁ色々と引っかかりはするが、確かに藁で出来ていて非生物モチーフという点を考えればナツメによく似合ってるとは思うけども。


「……案山子かぁ」


「いいんじゃない? 私はありだと思う」


「ココさんの意見もごもっとも。ですが私もナツメさんの案に賛成します」


「どうして……」


 四人中三人が案山子スタイルに賛成、しかも一人は実際に着る人。

 まじですか。いや、マジですか?


「もちろんこのままじゃないわよ? いい案を思いついたの。少し待ってて」


 そう言ってキリエはもと来た道を引き返し姿を消す。そうだよね、流石にこのままはい完成じゃないよね。……よかった



 〜待つこと数分〜



「お待たせ。簡単にだけどイメージを絵に描き出してみたわ」


「あ、おかえり〜。どれどれ? おー!!」


「っ! これは!」


「わ、私にもお願いします! う、動けないぃぃ」


 ーー 彼女の持ってきた紙に描かれていたのは、三角帽子やコート等の特徴を残しつつも全体がお洒落に纏まった衣装。原案にはないロングブーツや手袋、顔を覆うマスク等の小物が追加されていて、私やテトさんの新服に負けず劣らず素晴らしい服のデザインだ。 ーー


 流石は本職。要素をまとめ上げる力が段違い。


「いいねぇ! かっこいい!」


「これなら服としても違和感ありませんね。流石です、キリエさん」


「いい!」


「よし決定! キリエ、これナツメのために作って欲しいんだけどお願いしてもいい?」


「いい……けど。でもこれはイメージ優先で描いたから、そっくりそのまま作るとなるとお金かかるわよ?」


「大丈夫、私が払うから。その代わり戦闘にも耐えられるくらい頑丈に作ってあげて?」


「では、私も協力しましょう。ココさんには小物を買っていただきましたし、個人的に実物を見てみたい」


「この服を選んだのは私ですし、お金ももちろん払います! ココさんに気に入っていただけるものをお願いします、キリエさん」


「わかった。じゃあしばらくナツメにはここに通ってもらうとして、完成は仕事との兼ね合いもあるから、早くて二週間後だと思う」


 わぁお、流石キリエ。普通上着一着とっても二週間じゃ無理そうなのに、帽子から何から一式合わせて二週間とは。彼女の縫う速さは常人には理解できないぐらい速い。



 〜 それから予定の二週間 をほんの少し過ぎた日 〜



「完成、したんだ!」


「本当に、この短期間で仕上げてしまうなんて」


「ほぁぁ!」


 私達の例に漏れず、フレームに着飾られた服一式。コートや三角帽子など目立つ部分には琥珀色や山吹色、ブーツ手袋は茶色など。

 絵と比べて細かな色の違いはあれど、宣言通り完璧に仕上げられた。


「凄い、本当に凄いよ! ありがとうキリエ! ……キリエ?」



「……ぅ……ぅぅ」



「キリエーーーー!?」


 二人きりの場面以外ではキッチリしていたキリエが、今は背中を壁に預けて座り込んでいる。全身を脱力し、徹夜明けでクマのすごい目はどこを見ているかわからない。


「だ、大丈夫!? ごめんね、私キリエに無茶言い過ぎちゃって」


「い……いい……役に、立てたなら」


「ほんっとーにごめん! お詫びに私にできることならなんでもしてあげるから、ね?」


「! なん……でも?」


「うん、なんでもーー グェッ!?」


 次の瞬間。私の後頭部には、キリエの豊かに実った二つのお山の感触が。

 かがみ込んで彼女の顔を見ていた私の体は、素早く伸びたキリエの腕に捕まりテディーベアよろしく彼女の腕の中に収まってしまった。


「キリエ、これは一体?」


「ココ成分の補給。しばらくじっとしてて」


「り、了解」


「すぅ、はぁ」


「ココさん? あの、どういう状況です?」


「気にしないでナツメ。それより早く服を着ておいで。今日はそのために集まったんだから」


「はぁ」


 これでキリエの疲れが報われるのなら安いものだ。幸い視界は開けているので、今の状態でもナツメが着た新服を見逃すことはない。

 ……ところで、


「人のほっぺた引っ張って何してるんです? テトさん」


「特にやることもなく暇だったので、ココさんを使って遊んでます」


 キリエの隣に腰かけて抱き締められている私の頬を摘んだり引っ張ったりするテトさん。本人とてもご満悦だけど、身動きできない私を相手に好き勝手するんじゃないよ! フシャーー!


「皆さん、準備できましたよー?」


「あ、はーい! ほらほらテトさんキリエ。あまり遊んでないでナツメのお披露目を見ますよ」


「んー」 ハスハス


「はい」 むにもに


 ……辞めないんだ。まぁいいけど。


「お待たせしました。……何してるんです?」


「あれ、新服は?」


 物陰から姿を見せたナツメの服は、この店に集まった時と変わらない格好。間違っても案山子モチーフのあの衣装ではない。

 一体どうしたんだろう。そう思っていると、悪巧みした子供のような顔のナツメはにししと不敵に笑う。


「驚きました? 実はこの日のために密かにとある練習をしてきたんですよ。それじゃあいきますね? それっ!!」


「えっ? えーー!?」


 私が目撃したものを一言で表すなら……ーー 変身 ーー


 能力発動と同時にこの前の人型の藁へと姿を変えたナツメは、次の瞬間には新服を見に纏った案山子の姿へと変化していた。瞬き一回のうちにすべての服を着替えたというのだから、これはもう立派な変身と言っていいだろう。

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