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撤退と負傷と 第三十三話



「ぐぅぁぁぁ! はぁ……はぁ……」


 もう一本の、足に刺さった木材を抜き取る。場所の関係で力が入りづらく時間はかかったが、これで動くことができる。

 負傷による意識の混濁もマシになってきた。


「ハハハッ! まだまだ行くぜ!」


「あぁもう! いい加減当たってよーー!」


「落ち着いてくださいシルク様、先程から攻撃が雑になっています」


 シルクさんが加勢したことで手数は桜花よりも確実に多くなった。だがやはり相手は戦闘慣れした人間。体力はもちろん集中力という面でも二人よりも圧倒的なアドバンテージを持っている。


 今この場で、桜花の持つ強みを帳消しにできるのは私だけだ。いや、能力込みならそれも怪しいところ。

 だがその二つさえ無くすことができれば、後は人数と地形の理を押し付けて勝ちをもぎ取れるはず。


「ハァッ……ハァッ……」


 立ち上がり、足を動かす。その度に酷い痛みが左半身を襲うが、動けないほどではない。


「スゥゥ……ハァァァァァッ!!」


「んー? なんだ、まだやられてなかったのかよ。でも戦いの邪魔はさせないぜっ!!」


 桜花がテトさんに攻め入る瞬間に割り込み、拳を入れるため一気に加速する。わざと声を張り上げ存在をアピールすれば、桜花はこちらに振り向き私を見る。


「ハァッ!」


「ッ! これは、木片!? さっきの負傷の時に隠し持っていやがったのか!」


 桜花の言う言葉は少しだけ的を外れている。服の中に木片を仕込んだのではなく、今この場で体に刺さった木片を抜き取ったのだ。


「でも無駄だ! こんな小細工!」


「小細工でもなんでも使わないと、今の貴女には勝てないので!」


 振り向く勢いをそのまま使う、手の甲を使った殴打。それを左腕で受け止め、続く右腕の大きく振るう一撃は右手を使って真正面から受け止める。

 目では追えない一撃も、正しい姿勢じゃなければ威力は落ちる。続く足技や正しくなった姿勢から放たれる両腕の技は可能な限りで避け続けた。いつぞやの鉄の鞭を避けられたんだ、これくらい余裕……とまではいかないけれど。


「へぇ! おまえ、なかなか場慣れしてんな? その傷でよくここまで戦えるもんだ」


「体が鈍っていたのは認めますけど、それだけで興味なしなんて言われちゃ黙ってられませんね。それと、私のことを小さいって言ってくれやがりましたので」


「気にしてんのか? ハハハ! こりゃ悪かったな! 今は二人とは別の意味で、おまえに興味津々だから、よっ!」


「甘いですね。それと、ここガラ空きですよ」


「グゥッ!」


 なまじ強いことを理解している相手との戦いで、いつもより強く感じられる緊張感。おかげで体の痛みを忘れることができ、隙をついて一撃を加えることができた。


「少し、油断したな……っ!!」


「ッ!! ココちゃん! 安静にって言ったのにっ! でも助かったわ」


 続く、容赦のない結晶体の雨。床には無数の穴が出来上がる。


「おっとと、危ない」


「そこッ」


「うぉっと!?」


 シルクさんの連弾を避けた後には、テトさんの背後からの不意打ち。今は当たらずとも、戦況はこちらが優勢。いずれ押し切れるだろう。


 と、頭で考えている私の前で、テトさんの不意打ちを後ほんのちょっとの距離で避ける桜花。しかし反撃はしてこず、その場で動きを止めた。


「三体一、ね。誰一人倒せなかったのは心残りだけど、初めての能力はいっぱい見れたし、無能力でも強い人間に会えた。……まぁ満足かな」


「本当に、一体何が目的だったんですか!」


「あん? だから楽しむためだよ。ほら、他人の個性的な能力を見るのって楽しいじゃん? しかもそれが戦いっていう命を賭ける場なら、誰も出し惜しみしようなんて考えないっしょ?」


「ならばこんなことは辞めて、歓楽区にでも行ってみればいいでしょう。あそこには能力者同士が戦う舞台もあると聞きますが」


「行ったさ、真っ先にな。でもよぉ、見飽きた奴らばっかりでちっとも楽しくねぇ。それに、シルクやテトラは行ったことないんだろ? そういう普段見られない相手と戦うのも楽しみなんだよな」


「……理解しかねます」


「そういうわけで、私はこの辺で失礼するぜ〜? また会った時は最後までやり合おうな! あばよ〜!」


 階段を使わず、ひとっ飛びで二階に上がり窓を突き破る桜花。最後の最後にまた家を破壊されたシルクさんは渋い顔をしていたが、突然湧いた通り魔をやり過ごすことができて本当に良かった。


「ゴホッ! ゴホッ! ゼェ……ゼェ……」


「あっ! ココちゃん!」


「ココさんッ」


 力が抜けて片膝をつくと、見かねたシルクさんとテトさんが近づいてくる。

 傷が深くて未だに血は流れてくるし、吐血のせいで呼吸は変な音がしてる。微妙に残っている破片が服や床と擦れて不快だし、気分は最悪だった。


「テトちゃん! 部屋から傷薬と包帯を持ってきて! 出血がひどいわ!」


「はい、すぐに」


 しばらくはシルクさんがスライムを使って血を止めてくれて、治療キットが到着するなり手早く処置を済ませてくれた。仕方ないとはいえ、特にひどい腕と足の負傷を抑えられた時は悲鳴を上げてしまった。


「やっぱり私の予想は間違ってなかったわね? こんなに無茶して、もぉ〜!」


「……無茶とお人好しは、私の性分ですからね。キリエにも怒られましたよ」


「この傷でよくここまで戦えましたね。……ココさんが戦い慣れしている事には驚きましたが。何はともあれ、ありがとうございます。おかげで助かりました」


「ふふっ……どうでしたか、テトさん。私、かっこよかったですか?」


「っ!! ……えぇ、かっこよかったです。とても」


「ふへへ、テトさんにカッコいいって、言われちゃいました」


 ……緊張が解けるにつれて、腕と足の痛みは余計酷くなっていく。忘れかけていた背中の痛みも感じはじめ、視界がうっすらと明瞭さを失っていく。


 背後から、ガコンッという何かが落ちる音が聞こえる。きっと二階の床材が取れて落ちてきたのだろう。


「わっ、びっくり! ……んん〜、だいぶやられちゃったわねぇ」


「すみません……私がもっと気をつけていれば」


「ココちゃんのせいじゃないわよ〜。全部あの桜花って人が悪いんだから。それに私も、遠慮なく穴だらけにしちゃったし」


「いくつか本も買い直さなければいけませんね。本棚も新しくして、床や天井も張り替えるとなると……。半年ほどは休業でしょうね」


 たったひと月と少し働いただけで、店が開店できなくなるなんて。思わず自分を不幸な人間だと考えずにはいられない。この街に来る前はそこまででもなかったのに。


 キリエの一件に首を突っ込むと決めた時点で覚悟はしていたけど、こうも立て続けに不幸が降りかかるものなのか。


「まぁでも大丈夫よ! 幸い蓄えはいっぱいあるし、家を建て直しても半年くらいなら余裕で暮らせるわ!」


「様子を見ないことにはなんとも言えませんが、部屋もおそらく無事でしょう」


 はぁ……また新しいお仕事を見つけないとな。少なくとも図書館が営業を開始できるくらいまでは。ここに住まわせてもらってるのも、あくまで店員として住み込みで働いているっていうだけのこと。


「……ぁぁ」


 後でそのことも相談しなければと思った時、そろそろ意識を保つのも限界が来たようだ。今、すごく眠たい。


「すみません……シルクさん、少し眠ります」


「そうね、後のことは私たちに任せなさいっ!」


「すみ……せ……」


「ごゆっくり、お休みください」


 二人の顔を最後に見ながら、私はゆっくりと目を閉じる。両手に感じる温かな感触は、きっと二人が手を握ってくれているのだろう。床は相変わらず冷たいけど、それ以上に満たされながら眠ることができた。

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