秘密共有と女子会と 第二十六話
「ん〜♪ ココちゃんの料理は今日も美味しいわぁ〜♪」
「少し落ち着いてください、シルク様。キリエ様の前ですよ」
「やっぱり料理上手よね、ココ」
「喜んでもらえて嬉しいナー」
いつも通り私の用意した夜ご飯を、キリエも交えて四人でいただく。
風呂場での記憶が頭から抜け落ちているが、思い出さない方が身のためだ。何があったかを考えようとするたびにキリエと目が合うのだから、私の感はきっと正しい。
「どうしたのココちゃん? お風呂上がってからずっと上の空よ?」
「お疲れなのでしょう。今日の午前中はいつもより人の出入りが多かったですし、キリエ様との再会もあったのですから」
「大丈夫? ほら、あー」
「自分で食べられるので大丈夫ですっ!」
「……むぅ」
何やら不穏な気配を感じとり、私は素早く食事を取り始める。それを見て不満げに料理を自分の口に運ぶキリエだが、危うくまた彼女にあーんをされるところだった。
「そういえばキリエ様、一つ質問よろしいでしょうか」
「えぇ、いいわよ。それと、私のことはキリエって呼んでちょうだい。友達なんだから」
「では、キリエさんと」
「キリエ」
「これ以上はご勘弁ください。私の癖のようなものですので」
「……わかったわ。それで?」
「ココさんとはどのようにして知り合ったのですか? ココさんは確か、つい先月この街に来たばかりだと」
「あぁ……そういえば貴女は聞いてなかったわね」
「えぇ、お店を放置するわけにはいきませんので。それと、シルク様のように会話を意図して聞くような無粋な真似は致しません」
シルクさんが自然に盗み聞きしていたせいで、キリエの中ではテトさんも事情を把握しているものと思っていたようだ。
「ひどいわテトちゃん! 私だってそんなに無粋じゃないわよ〜!」
「どうでしょうね」
「面白い話でもないし、掻い摘んで説明しても?」
「大丈夫です。お願いします」
キリエは、テトさんに部分的に説明をしていく。その間私とシルクさんは、仕事はどうだった等の他愛もない会話をしつつ食事の手を進める。
「……なるほど。ココさんがそのようなことを」
「おかげで私は、あの店を今も続けられているの。そういえば貴女は、よく私の店を利用してくれているわよね。いつも贔屓にしてくれてありがとう」
「私は良いと思ったものを使っているに過ぎませんので。……そうですか。では、私もココさんに感謝しなければなりませんね」
「んぅ? 何ふぁ?(何が?)」
「キリエさんの店を守ってくれたことです」
「? 私は何もしてないよ? キリエが頑張った結果だよ」
「……本人は頑なに認めないけどね」
「そのようで」
そこからはキリエとテトさんは、服の趣味の話で盛り上がっていた。私はそこまでこだわりがあるわけでもなく、シルクさんもそんな二人を眺めるだけで話に混ざろうとはしていなかった。
「ねぇココちゃん、ちょっといい?」
「はい?」
各々好きなように料理を食べ進め完食した頃、シルクさんはいつもの笑みを浮かべながら私にヒソヒソと語りかける。
「後で、私の部屋に来て欲しいの。キリエちゃんとテトちゃんには内緒でね?」
「二人に秘密で、ですか?」
「そう、ココちゃんだけに話したいことだから」
「んー……」
また前みたいに贈り物だろうか? と一瞬考えるも、あの時はテトさんもその場にいたことを思い出す。しかし彼女と古い仲であるテトさんにも秘密にしろとは、きっと余程のことに違いない。
「わかりました。二人にはそれとなく離れることを伝えてから行きます」
「お願いね」
「どうしたのココ?」
「んーん、なんでもないよ」
「そう。あ、ご飯美味しかったわ。ありがとう」
「どういたしまして。テトさんも満足できましたか?」
「えぇ、いつも通り美味しかったです。すいません、少々話に夢中になり遅くなってしまいました」
「盛り上がってましたもんね〜。あ、お皿頂戴〜」
四人分の食器をキッチンに持っていき、皿洗いを行う。シルクさんは自室に戻りテトさんは入浴へ。
私と一緒に入浴を済ませたキリエが手伝ってくれたおかげで、いつもより早く部屋に戻れそうだ。
「ココ、後でテトラを部屋に呼んでもいいかしら? もう少し話をしたいのだけれど」
「大丈夫だよ? あ、そうだ。この後少し出てくるから、テトさんにそのこと伝えてもらってもいい?」
「わかったわ」
あの短時間にキリエとテトさんはかなり親密になったようだ。仕事から交友関係が広がっていくのは実にいいことである。
今まで機会がなかっただけで、キリエは意外と人付き合いは上手だ。少し羨ましい。
「えーと、この部屋かな?」
私たちの部屋もある三階の突き当たりにある扉。なんとも可愛らしい文字でシルクと書かれたその扉を軽く叩く。
「 入っていいわよぉ 」
「失礼します」
そういえば、私がシルクさんの部屋に入るのはこれが初めての経験だった。少し緊張しつつ中に入ると、明かりはつけられておらず中は月明かりのみで薄暗い。
「シルクさ〜ん、私を呼んだ理由は……ーー っ?!」
真っ暗な中を感覚を信じて進み、窓の光が漏れる物陰を覗いたその時、私は驚愕で目を見開き固まってしまった。
「こんばんはぁ、この姿で会うのは初めてよねぇ」
「シルク……さん、なんですか? でも、え?」
「ふふふっ、驚いた〜?」
いつものゼリーのような服を着ておらず、私となんら変わらないどこにでもある普通の服を着ているシルクさん。しかし問題はそこではない。
服を変え全身を見せたシルクさんの姿は、まさに"白"。髪も肌も恐ろしく白く、まさしく絹のようなその姿。さらに一面白の世界で唯一赤く光るその瞳。普段の姿を見慣れている私には、別人にしか見えなかった。
「その姿は、一体?」
「……私ね? 生まれた時からこんななの。人より何倍も肌が白くて、逆に目は血よりも赤い。お医者様が言うにはね? アルビノっていう、動物にもある病気らしいわ」
本で見たことがある。アルビノとは、動物が本来とはかけ離れた白い姿で生まれてくる症状のこと。特に白い蛇は出会えば幸運をもたらすと言われるくらい珍しいものだとか。
……あれ、確か人間のアルビノって
「っ!!」
私は、彼女の置かれた境遇を察した。
アルビノの人間は、国によっては動物とは違い不幸や差別の対象になっているのだ。
「……大変、でしたよね」
「流石はココちゃん。知ってるのね?」
「知識だけ。間近でみるのは、これが初めてですが」
「そう……辛かった。みんなが太陽の下で遊んでいても、私は外に出るだけで火傷してしまう。どれだけ羨ましく思っても、どんなに遊びたいと願っても、私は友達と関わることなんてできなかった」
「……」
「いつも一人よ。一人で本を読んでた。両親に頼んで、いろんな本を集めてもらったの。一階にある本は、すべてその時集めていた本なのよ」
「……」
シルクさんは昔を懐かしむように、悲しむように、私に語ってくれた。辛かったことも、数少ない楽しかった思い出も。
「それでも、両親がいる間は楽しかったわ。友達はいなかったけれど、二人と話をするのはとても楽しかったし、本もたくさん買ってくれた。……でも、大人になればなるほど、お父さんは私を怖がるようになって……とある日の朝、父さんは何の前触れもなく私たちの前から姿を消した」
「えっ!?」
「それから唯一の支えはお母さんだけになって、新しい本を買ってくれることも無くなった。私はそれでも良かったわ。お父さんのいない私には、新しい本よりもお母さんの方が大切だったから」
「……だからお母さんが死んじゃった時、私はたった一つの希望すら無くしてしまったの。絶望って、多分このことを言うのね」
「!! そんなっ」
元から存在を知らない私とは違って、彼女は関わった記憶のある家族が目の前からいなくなったという。たった一人家から出ることもできず、人との関わりを完全に断ち切られたのだ。
彼女の絶望は、初めから何も持たない私には、きっと想像もできないほどに深いものなのだろう。




